面白くて笑ってばかりだったんですけど、
伊集院光さんと糸井重里の対談があったんです。
公開対談でね、そう、
「ほぼ日の學校」の!
テーマが一応「学校」なんですけど、
関係なさそうな話がどんどん出てくるんです。
円楽師匠の話や『粗忽長屋』の話になったり、
伊集院さんの奥さんと糸井の共通点が語られたり、
謎の旅の話をしたり、窓ガラスに鳥がぶつかったり、
だいぶ下品なたとえ話が登場したり。
‥‥でもふと気づくと、いつのまにかそれが
「学校」や「学び」の話にもなっていて。
ふたりが掛け合わさると、こんなふうに話が
広がっていくんだ!という驚きのある全15回。
ま、どうぞ、ごらんください。
- 伊集院
- うちのカミさんは花が大好きで、詳しいんです。
花や植物の知識は向こうのほうが上なんで、
僕はよく町で見つけた花を写真に撮って、
ウソの名前と由来をつけてメールで
送るんですけど、これがすげえ楽しいんですよ。
なんか赤い実がブツブツって
いっぱいあるやつを、
「これヤマイクラつってね」って。
- 会場
- (笑)
- 伊集院
- 「海には『イクラ』っておいしいのがある
って聞いた猟師さんたちが
無理して食べてたんだけど、本当はおいしくない。
だからいまはヤマイクラは
あんまり見かけなくなりました」
みたいなのを、送るんですけど。
- 糸井
- とってもいいですね。
- 伊集院
- それって面白いもんで、正解を知った途端に
何も思い浮かばなくなるんです。
「この花はスイートピーなんだ」
ってわかっちゃうと、もうなんにも浮かばない。
知っちゃうと、二度とつけられないんですよ。
- 糸井
- それはもう花言葉を考えるしかないですね。
「ひとりぼっちはイヤ」とかね。
- 会場
- (笑)
- 伊集院
- なるほど。
たしかにこれ、書いてるうちに、
花の名前の由来とか
花にまつわる民話とかを書きはじめるから、
もう何だかわからない世界なんですけど。
でもこの遊び
「知らないのは、こんなに楽しいことなんだ」
「知るとこんなに縛られるんだ」みたいなことは、
すごくわかる。
- 糸井
- それこそカメラをやってる人が、
「構図が」「絞りが」「こういう効果が」
とか覚えると、
つまんなくなるのと同じで。
たぶんどっちもいるんだと思うんですよ。
で、いまはわりと見逃されがちな、
その「感じるが先なんだ」が、
僕はすっごく大事なような気がして。
- 伊集院
- そこが大事なのにもかかわらず、
やっぱり試験とか受からなきゃならないし、
ちゃんとみんなで仕事をしなきゃなんないから、
ないがしろにされすぎるし。
ときに、その自由な発想が
「理屈として正しい答え」を阻害しちゃうから、
「そんなこと考えなさんな」って言われるわけです。
- 糸井
- そうですね。
「とりあえずやめといて」って。
- 伊集院
- だけど、
「その遊びはやめといて。正しいやつを覚えてからよ」
ってなるけど、いま言ったみたいに、
「覚えてからだともう遊べないこと」が
いっぱいあるから、
そこのバランスは相当考えないと。
- 糸井
- そうなんですよ。
なんだかみんな、
「あとでテストに出ますからね」
みたいな発想で生きてるんだと思うんです。
だけど「誰かのいいお話が聞ける」みたいなときでも、
「ここが重要なんだな」とか、
もうそんなこと思わずに、
あくびしてていいんだと思うんですよ。
- 伊集院
- 落語をやるにしても、
「落語会」で呼んでくれる学校は
いいんですけど、
「古典芸能鑑賞会」で呼ばれると、
あとでどうやら試験をするらしいんですよ。
それはね、「笑い」としてはもう成立しない。
- 糸井
- 「ご隠居はどうしてそこで熊さんを
怒らなかったのでしょう?」みたいな。
- 伊集院
- 「そのときのご隠居の気持ちを
30文字以内で書きなさい」
なんてやられたら、
「こっちもわかってやってませんけど」
みたいになりますね。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- そのあたり、僕は自分が子供だったとき、
すごくもったいない時代を
長く過ごしちゃったと思うんです。
僕は伊集院さんがおっしゃるような
「分類したらどうなる」とか
「再現性高く組み立てるには」といった
理屈の部分が苦手なのに、
無理して覚えてたときに、辛かったんですよ。
小学校ぐらいだと感覚でわかるんだけど、
だんだん覚えてる分量が増えていかないと
テストできなくなりますから。
- 伊集院
- だから小学校とかでも、
チーム戦とかにしたほうがよかったですね。
「お前はこのジャンルが得意で、
お前は図鑑好きでよく読んでるから、
それぞれ正しい答え担当ね」
みたいになってたりすると。
のちに、大人になって仕事するようになると、
自分の不得意なジャンルも、
「それが好きなやつはいるだろう」
ってなっていくわけじゃないですか。
そういうの大切かな。
- 糸井
- まさにうち、小学校がチーム制でした。
イトウ先生っておばあちゃん先生だったんですけど、
クラスが8班に分かれてて、
わかんないことは、同じ班の誰かさんが教える。
- 伊集院
- なるほど。いや、俺それ大切だと思って。
「全部オール4」の人とかが、
これからそれほど重宝されるかというと、
きっとそういうことはなくて。
「お前、なんで算数わかんないんだよ。
絵めちゃめちゃ上手いのに」
って、いいじゃないですか。
絵がもう「5」を飛び越えて「6」だったら、
それでいいはずだから。
そのあたりを上手にやっていけば、
「勉強大嫌い!」にもならないし、
自由な発想ゼロにもならずにもいける気が
するんですけど。
僕はあまりに勉強勉強と言われちゃったせいで、
苦手な分野への恐怖があるから、
そっちの勉強がどんどん嫌いになっていったな、
というのはありますね。
- 糸井
- でも話を聞いていると、伊集院さんは
「勉強そのもの」は好きですよね?
- 伊集院
- 勉強は、得意なものと嫌いなものとが
すごいわかれてるんです。
だから自分にとっての学校のイメージって、
「俺がもうとっくにわかってることを
いつまでやってんだろう?」と、
「俺がまったくわかんないのに先行っちゃう」の
どっちかしかないんですよ。
- 糸井
- ああ。
- 伊集院
- びっくりするぐらい英語ができないんですよ、僕。
もういちばん最初に、
「イズ ディス ア ライオン?」
みたいなのは
「‥‥見りゃわかんだろ」みたいな。
理屈の人からすると、
必要のないことをずっと覚えさせられて。
- 会場
- (笑)
- 伊集院
- たぶんこれで英語入れなくて。
そして謎の「be動詞」があって。
「be動詞」って説明してくれないじゃないですか。
そういうもんなんだよ、って。
「アイってきたら、アムだよ」で
つまづいちゃってるのに。
だけど、
「ウィー ハブ ア ロット オブ
アースクエイク イン ジャパーン」
は言えるんです。
そこが試験範囲にあったから。
- 会場
- (笑)
- 伊集院
- 「ハウ メニー ブックス ドゥー ユー ハブ」と、
「ウィー ハブ ア ロット オブ
アースクエイク イン ジャパーン」は、
この補習だけは絶対やれって言われて、
覚えたんです。
「日本は地震がたいへん多い国です」と
「あなたは本をどれぐらい持っていますか」
なんですけど、こんなもの、
挨拶もできないのに知っててどうするんだ?
ってやつがあって。
- 会場
- (笑)
- 伊集院
- だから英語はもう、びっくりするほどダメです。
で、逆に、ずっとちっちゃいときから
理科が好きで図鑑見たりとかしてるから、
「なんでこんな簡単な『哺乳類ってなに?』
みたいなことからやるんだろう」があって。
科目ごとに飛び級とかあってくれれば、
まだ頑張るんだと思うんですよ。
- 糸井
- 理科は5年生で、英語は2年生みたいな。
- 伊集院
- はい、はい。
それでいいんじゃないかな、と思うんですけど。
- 糸井
- でもそれはこれからきっとあり得ますよね。
- 伊集院
- あり得ると思いますね。
(つづきます)
2024-02-08-THU
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