…ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里 …ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里
面白くて笑ってばかりだったんですけど、
伊集院光さんと糸井重里の対談があったんです。
公開対談でね、そう、「ほぼ日の學校」の!

テーマが一応「学校」なんですけど、
関係なさそうな話がどんどん出てくるんです。
円楽師匠の話や『粗忽長屋』の話になったり、
伊集院さんの奥さんと糸井の共通点が語られたり、
謎の旅の話をしたり、窓ガラスに鳥がぶつかったり、
だいぶ下品なたとえ話が登場したり。
‥‥でもふと気づくと、いつのまにかそれが
「学校」や「学び」の話にもなっていて。

ふたりが掛け合わさると、こんなふうに話が
広がっていくんだ!という驚きのある全15回。
ま、どうぞ、ごらんください。
10.ひとりラジオの病。
写真
伊集院
だけど勉強、ってことで言うと、
僕が一所懸命頑張ってきた、
「正解のある知識」みたいなやつは、
コンピューターがいちばん得意なところだから、
今後、おそらく僕がコンピューターより
知っているってことはないでしょう。
糸井
ないですね。
伊集院
だからそれを思うと
「自分は間違ったほうへ来たな」って、
すごい思います。
糸井
間違ったほうに来たというより、
「そのことを悩みみたいに考えつつ、
それをやってる病(やまい)」?
伊集院
病。
糸井
病って、みんなの実験台に
なってくれてますから。
伊集院
病‥‥病っていうか、
物事について僕は勝手に
「いちばん嫌いな人は
いちばん好きな要素を持っていて、
いちばん好きな人は
いちばん嫌いな要素を持っているもの」
みたいに思ってるんですね。


だから、
「自分のいちばん嫌いなところが誇り」だったり、
「自分がいちばん好きなことが
コンプレックス」だったり。
自分のなかにそういう相反する思いは、
他の人よりずっと強くある気がします。


だから、ひとりでラジオができる。
「ひとりでラジオする」って病気なんですよ。
写真
会場
(笑)
糸井
あれ、自己問答ですもんね。
伊集院
そうなんですよ。
普通、自分の言ったことに
「‥‥言い過ぎか?」なんて、
言うわけないじゃないですか。
会場
(笑)
伊集院
そんなシステム、普通はないはずなんですよ。


だけどそれは落語にも役立ったし。
その両極端な考え方がずーっとあるせいで、
悩みもしたけれども。


「ひとりラジオ」って、
やっぱり、ちょっと、変ですよ。
糸井
たとえばひとりで喋りながら、
「待て待て、俺よ」みたいなことは
言うんですか?
伊集院
言います言います、途中から。
糸井
まさしく落語。
伊集院
ほんとに落語ですよ。
「落語」とか「ラジオ」というものを着てるから
あれですけど、
こういうシステムが頭の中にあることで、
深刻に悩む人もいっぱいいると思うんですよ。
糸井
そうですね(笑)。
伊集院
だけど僕はそのおかげでやっていける。
糸井
そういう、なんていうんだろう、
ある種の「病」ぐらいまで特別になっちゃった人が、
世界の実験台になってくれてるんだと思うんですよ。


だから
「体がすごく柔らかくてぐにゃぐにゃになる人」が
いるから、そこのジャンルが
「あ、そういうとこまで行くんだ」とか。
写真
伊集院
やっぱり、体がでっかい人がいてくれないと、
センサーって、
「どこまでの大きさを人間って判断すればいいの?」
ってなるじゃないですか。


みんな中肉中背しかいない場合には、
僕なんかもう、一生通れないわけです。
通ろうとしても、センサーが人間だと思わないから。
(伊集院光さんの身長は184cm)
会場
(笑)
伊集院
でも僕よりでかい人がいてくれるおかげで、
センサーを作る人たちが
「あ、人間ってこれぐらいの幅まではあるよ」
ってやってくれたりとか。


身体のことに限らず、外れた人たちがいるから
「人間って、こういう可能性まであるんだ」
みたいなことにもなるし。
いやぁ、俺、役立ってるかもしれないですね。
糸井
だから、みんなそれぞれに、
変なところを潰して生きちゃってるけど、
その「変」という評価も、
それはそれで頬っぺたの渦巻きみたいなものなんで、
「利用すれば?」っていう。
伊集院
そうですよね。
そういうことって絶対役に立ちますよ。
「弱点」ってみんなそうですよね。


お笑いがわかりやすいんですけど、
お笑いってずっと
「弱点をプラスにする」っていう職業の
最先端にいたから。


もちろんルッキズムとか、差別とか、
「誰かがイヤな思いをする世の中はよくない」
というのはあって、
「みんなの生活」と「職業としてのお笑い」を
どう分けるかとかは、これからいろんな考えが
もっと深まってくると思うんですけど。


ただ、みんな「足が遅い」って
ずっとマイナスだと思ってたけど、
「ここまで極端に遅いと、お笑いとしてはプラスだね」
みたいなこともあるし。
糸井
その彼が醸し出してるものが、
面白いと感じられるっていう。


だからそれも「歌」ですよね、
「踊り」ですよね。
伊集院
あーー。なるほど、「踊り」なんだ。
写真
糸井
踊り。踊りとして
表現してるわけじゃないけど。


だから、足が遅いのをみんなが知ってて走ってる
テレビの「運動神経なんとかメンバー」
(運動神経悪い芸人)は。
伊集院
踊りだ。「面白ダンス」が体のなかに
染み込んでいる人なんだ。
糸井
だと思う。
伊集院
その考え方いいな。


「移動」って考えたら、A点からB点まで
行くときに極端にスピードが遅いのは、
もうまったくマイナスだけど、
「面白い」ってことなら。
糸井
うん。
伊集院
だから大事なのは、
「スクラップ」と「ポンコツ」の差みたいな。


「ポンコツ」って、
ちょっと面白い響きが絶対入ってて。
糸井
そうですね。
伊集院
たぶん扇風機で、発火しちゃうやつは
「スクラップ」なんだけど、
たまに、歩くやついるじゃん。
会場
(笑)
伊集院
壊れすぎて、ブーンってやると、
ちょっとずつ動いていくやつ。
あれは面白いし、こっちが多少移動すれば
風も当たるしって。


「こいつは『ポンコツ』だから」
ってなってくると、
僕はやっぱり「ポンコツ」になりたいですね。
(つづきます)
2024-02-09-FRI