面白くて笑ってばかりだったんですけど、
伊集院光さんと糸井重里の対談があったんです。
公開対談でね、そう、
「ほぼ日の學校」の!
テーマが一応「学校」なんですけど、
関係なさそうな話がどんどん出てくるんです。
円楽師匠の話や『粗忽長屋』の話になったり、
伊集院さんの奥さんと糸井の共通点が語られたり、
謎の旅の話をしたり、窓ガラスに鳥がぶつかったり、
だいぶ下品なたとえ話が登場したり。
‥‥でもふと気づくと、いつのまにかそれが
「学校」や「学び」の話にもなっていて。
ふたりが掛け合わさると、こんなふうに話が
広がっていくんだ!という驚きのある全15回。
ま、どうぞ、ごらんください。
- 伊集院
- 僕、亡くなる前に師匠から
「お前な、小さい頃に時間を忘れて
夢中になったようなことに
社会性を持たせると、一生食っていけるよ」
って言われたんです。
すごくないですか、これ。
- 糸井
- はぁーー、すごい。
- 伊集院
- すごいと思うんですよ。
とにかく
「何が好きで、何がやりたいんだ」
ってことと、
「ただこういう仕事をするからには
すこーし社会性があったほうがいいよ」
っていう、その掛けあわせ。
「その社会性を持たせたらお前、
これからも一生食っていけるからな」って。
門下に入ったときも言われたし、
最後、亡くなるときも言われました。
- 糸井
- 落語家ってやっぱり、すごいですね。
- 伊集院
- 残ってきただけありますよね。
「作ったネタが何百年残る」っていうのは、
ほんとに激戦だから。
- 糸井
- いまの内容とそっくりのことを
立川談志さんが言ったという言葉があって。
「うまくやれよ」っていう。
「うまくやれよ」
「う、ま、く、や、れ、よ」って、
この広さ。
- 伊集院
- きれいにデオドラントされた言葉でもないし、
すごく談志師匠のキャラクターにも合ってる。
- 糸井
- だみ声で聞こえますよね。
- 伊集院
- (ものまねで)「うまくやれよ」聞こえます。
- 糸井
- 「うまくやれよ」はねぇ。
- 伊集院
- 「いらねえ仕事だってことを
悟られんじゃねえぞ」みたいな。
「落語なんていらねえ仕事だってことを、
けっして悟られるなよ」と。
- 糸井
- それは同じようなことを
任天堂元社長の山内溥さんが言ってて、
「もともとゲーム機なんて、
いらんもんなんや」という。
- 伊集院
- ああ、なるほど。
- 糸井
- 「みんなが欲しがってるのは
ゲーム機やなくて、マリオや。
だからゲーム機なんか
ほんとはタダで配ってもええんや」
って言っているのを聞いたことがあって、
「ああ、そこまで考えてるんだ」と。
- 伊集院
- いや、なんだろうこれ。
ほんとに「そもそも何だ?」
ってことなんだよなぁ。
そもそも僕は。
だからたとえば恋人と仲が悪くなったときも、
「そもそもこの人はなんだ?」
ってことを、自分でわかんないと。
- 糸井
- そうですね。
- 伊集院
- かみさん、寝ちゃうと起きないんですけど、
僕、そのおでこの上に空のコップを置くのが好きで。
それを見ながら
「いま、機能としてはコースターだな」
と思うんです。
- 会場
- (笑)
- 伊集院
- だけど
「いま機能としては彼女は
コースターだけども、それでもこんなに好きだな」
と思ったときに、
やっぱりコースター、そんなに好きじゃない。
「でもかみさんすごい好きだから」
って思ったときに、
「そもそもこいつが好きだな」
って感じになるんですけど。
- 糸井
- それ、ものすごくいい関係ですね。
- 伊集院
- もうほんとにそんなですよね。
- 糸井
- その話をもっと聞きたいぐらいです。
- 伊集院
- いやいやいや。
でも、もう自由すぎて。
うちは子どもがいないから、
いまかみさんは普通に
「1か月実家に帰っては、2週間戻ってきて」
みたいな生活で。
「その貴重な2週間のあいだに
食べに行きたいところとかをお互いメモる」
って考え方。
それ、かみさんが急に言いだしたから
「そうは言っても世間は別居とか言うぞ」
とか思ったんですけど、
わりとまあまあそれでうまくいったりとか。
- 糸井
- 自由に聞こえる音楽でも、
「小節の区切り」ってあるじゃないですか。
あれって意外と、
人を助けてくれるんですよね。
- 伊集院
- かもしれないですね。
- 糸井
- 指揮振ってくれないと、
音楽がめちゃくちゃになりますよね。
あれ「小節の区切り」なんだと思うんですよ。
- 伊集院
- それがたぶん、自分にはないものだったんですね。
計算してやることはできても、
たぶん、ちゃんと頃合いよくブレスを入れたりとか、
そういうことができなかったから。
- 糸井
- 休符?
- 伊集院
- 休符。それもかみさんは毎度とんでもないところに、
休符入れてくるんです。
新婚2年目ぐらいに
「あなたいちばん不得意なことなんなの?」
って言われて、
「英語」つって、
「私、英語勉強するのに少しお金かけていい?」
って言って、
「半年ロンドンに留学に行く」っていう。
「これが早い」つって。
彼女のなかでの理屈では、
「飛行機のオープンチケットを
向こうで自力で席が取れるぐらいの
英語力がついたら、帰ってこれる」という。
で、行ってきたりとか。
- 糸井
- へぇー。
- 伊集院
- 超感覚派です。
僕が超理屈派で、もう結婚して30年とかなるので、
ちょっとずつお互いがしみ出してて。
まあ、なんか‥‥面白いですね。
- 糸井
- すばらしいです。
聞いてていまもう、圧倒されました。
その羨ましさに。
- 伊集院
- 「そうは言ってもね」のところも、
もちろんありますけどね。
- 糸井
- ミシンにも裏糸がありますから。
いや、きっと不便だとか、
予定がうまく守れないみたいなことは
やまほどあるんでしょうけど、
でも、面白いじゃないですか。
- 伊集院
- それなんですよ、かみさんについてはとにかく
「面白そうにしてる」ってことがいいんです。
なんかちょっとしたトラブルがあっても。
よく言ってる話で、
かみさんが運転をするんですけど、
二股の道を僕が「右行こう」と思ったとき、
やっぱり左に行くことになって。
それで渋滞になると、僕はずっといじいじしてるの。
「右行きゃ渋滞じゃなかったのに」
って言うけど、うちのかみさんは、
「いや右はね、大事故が起きてた可能性がある」と。
「でもニュースで大事故なんか起きてないじゃん」
とかこっちは言うんだけど、
「私が1台、増えたことで!」
- 会場
- (笑)
- 伊集院
- 「それで事故が起こった可能性があるから、
そういう意味ではみんなを救ってる」
つって聞かないんですよ。
だから、それを理屈で言ってるんじゃなくて、
本心で言ってるから、
こんな二人の差がまあまあうまく作用してて。
僕はわりと最悪の事態を考えるほうだし、
彼女は最善のことを考えるほうだから。
- 糸井
- 昔に生きてた人は、水木しげるが描くような
妖怪たちを見てて、
一緒に暮らしてたわけですよね。
- 伊集院
- そうです、そうです。
- 糸井
- そういう人がみんなに
「妖怪いないんだよ」って叩かれて、
「いない」って思うまでが、大人になることだった。
でも、
「いるまんまで大人やってていいじゃん」
ってぐらいの飯の食え方は、
いまの世の中あるんで。
だったらいじめないでくれと。
- 伊集院
- いや、ほんとそうですね。
ほんとそうです。
だからたぶん、僕は怖いんだと思うんです。
「理屈を積まないと生きられない」
と思って育っちゃった側は、
そうじゃない生き方で生きられるということが
怖いんだと思うんですよね。
逆にその、感覚派の人は、
「これ理屈でやり込められる」
ってことを怖がってるから。
でも、お互い怖がることはなくて。
それはチームになっちゃうほうが絶対いいですね。
- 糸井
- それ、すばらしいチームですよね。
あの、会社って案外そういうところがあるんですよ。
老人と孫みたいな年の離れた人同士が
同じ場所にいて、
「あ、それね」って誰かが手伝ってくれたり、
「やっといて」っていうのを
年寄りのほうが動いたりが絶えずありますから。
(つづきます)
2024-02-13-TUE
(C) HOBONICHI