…ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里 …ま、それも「学校」の話。伊集院光✕糸井重里
面白くて笑ってばかりだったんですけど、
伊集院光さんと糸井重里の対談があったんです。
公開対談でね、そう、「ほぼ日の學校」の!

テーマが一応「学校」なんですけど、
関係なさそうな話がどんどん出てくるんです。
円楽師匠の話や『粗忽長屋』の話になったり、
伊集院さんの奥さんと糸井の共通点が語られたり、
謎の旅の話をしたり、窓ガラスに鳥がぶつかったり、
だいぶ下品なたとえ話が登場したり。
‥‥でもふと気づくと、いつのまにかそれが
「学校」や「学び」の話にもなっていて。

ふたりが掛け合わさると、こんなふうに話が
広がっていくんだ!という驚きのある全15回。
ま、どうぞ、ごらんください。
14.機能としてはコースター。
伊集院
僕、亡くなる前に師匠から
「お前な、小さい頃に時間を忘れて
夢中になったようなことに
社会性を持たせると、一生食っていけるよ」
って言われたんです。
すごくないですか、これ。
糸井
はぁーー、すごい。
伊集院
すごいと思うんですよ。


とにかく
「何が好きで、何がやりたいんだ」
ってことと、
「ただこういう仕事をするからには
すこーし社会性があったほうがいいよ」
っていう、その掛けあわせ。


「その社会性を持たせたらお前、
これからも一生食っていけるからな」って。
門下に入ったときも言われたし、
最後、亡くなるときも言われました。
写真
糸井
落語家ってやっぱり、すごいですね。
伊集院
残ってきただけありますよね。
「作ったネタが何百年残る」っていうのは、
ほんとに激戦だから。
糸井
いまの内容とそっくりのことを
立川談志さんが言ったという言葉があって。
「うまくやれよ」っていう。


「うまくやれよ」
「う、ま、く、や、れ、よ」って、
この広さ。
伊集院
きれいにデオドラントされた言葉でもないし、
すごく談志師匠のキャラクターにも合ってる。
糸井
だみ声で聞こえますよね。
伊集院
(ものまねで)「うまくやれよ」聞こえます。
糸井
「うまくやれよ」はねぇ。
伊集院
「いらねえ仕事だってことを
悟られんじゃねえぞ」みたいな。
「落語なんていらねえ仕事だってことを、
けっして悟られるなよ」と。
糸井
それは同じようなことを
任天堂元社長の山内溥さんが言ってて、
「もともとゲーム機なんて、
いらんもんなんや」という。
伊集院
ああ、なるほど。
糸井
「みんなが欲しがってるのは
ゲーム機やなくて、マリオや。
だからゲーム機なんか
ほんとはタダで配ってもええんや」
って言っているのを聞いたことがあって、
「ああ、そこまで考えてるんだ」と。
写真
伊集院
いや、なんだろうこれ。
ほんとに「そもそも何だ?」
ってことなんだよなぁ。
そもそも僕は。


だからたとえば恋人と仲が悪くなったときも、
「そもそもこの人はなんだ?」
ってことを、自分でわかんないと。
糸井
そうですね。
伊集院
かみさん、寝ちゃうと起きないんですけど、
僕、そのおでこの上に空のコップを置くのが好きで。


それを見ながら
「いま、機能としてはコースターだな」
と思うんです。
会場
(笑)
伊集院
だけど
「いま機能としては彼女は
コースターだけども、それでもこんなに好きだな」
と思ったときに、
やっぱりコースター、そんなに好きじゃない。
「でもかみさんすごい好きだから」
って思ったときに、
「そもそもこいつが好きだな」
って感じになるんですけど。
糸井
それ、ものすごくいい関係ですね。
伊集院
もうほんとにそんなですよね。
写真
糸井
その話をもっと聞きたいぐらいです。
伊集院
いやいやいや。


でも、もう自由すぎて。
うちは子どもがいないから、
いまかみさんは普通に
「1か月実家に帰っては、2週間戻ってきて」
みたいな生活で。
「その貴重な2週間のあいだに
食べに行きたいところとかをお互いメモる」
って考え方。


それ、かみさんが急に言いだしたから
「そうは言っても世間は別居とか言うぞ」
とか思ったんですけど、
わりとまあまあそれでうまくいったりとか。
糸井
自由に聞こえる音楽でも、
「小節の区切り」ってあるじゃないですか。
あれって意外と、
人を助けてくれるんですよね。
伊集院
かもしれないですね。
糸井
指揮振ってくれないと、
音楽がめちゃくちゃになりますよね。
あれ「小節の区切り」なんだと思うんですよ。
伊集院
それがたぶん、自分にはないものだったんですね。
計算してやることはできても、
たぶん、ちゃんと頃合いよくブレスを入れたりとか、
そういうことができなかったから。
糸井
休符?
伊集院
休符。それもかみさんは毎度とんでもないところに、
休符入れてくるんです。


新婚2年目ぐらいに
「あなたいちばん不得意なことなんなの?」
って言われて、
「英語」つって、
「私、英語勉強するのに少しお金かけていい?」
って言って、
「半年ロンドンに留学に行く」っていう。
「これが早い」つって。


彼女のなかでの理屈では、
「飛行機のオープンチケットを
向こうで自力で席が取れるぐらいの
英語力がついたら、帰ってこれる」という。
で、行ってきたりとか。
糸井
へぇー。
写真
伊集院
超感覚派です。
僕が超理屈派で、もう結婚して30年とかなるので、
ちょっとずつお互いがしみ出してて。


まあ、なんか‥‥面白いですね。
糸井
すばらしいです。
聞いてていまもう、圧倒されました。
その羨ましさに。
伊集院
「そうは言ってもね」のところも、
もちろんありますけどね。
糸井
ミシンにも裏糸がありますから。


いや、きっと不便だとか、
予定がうまく守れないみたいなことは
やまほどあるんでしょうけど、
でも、面白いじゃないですか。
伊集院
それなんですよ、かみさんについてはとにかく
「面白そうにしてる」ってことがいいんです。
なんかちょっとしたトラブルがあっても。


よく言ってる話で、
かみさんが運転をするんですけど、
二股の道を僕が「右行こう」と思ったとき、
やっぱり左に行くことになって。


それで渋滞になると、僕はずっといじいじしてるの。
「右行きゃ渋滞じゃなかったのに」
って言うけど、うちのかみさんは、
「いや右はね、大事故が起きてた可能性がある」と。


「でもニュースで大事故なんか起きてないじゃん」
とかこっちは言うんだけど、
「私が1台、増えたことで!」
会場
(笑)
伊集院
「それで事故が起こった可能性があるから、
そういう意味ではみんなを救ってる」
つって聞かないんですよ。


だから、それを理屈で言ってるんじゃなくて、
本心で言ってるから、
こんな二人の差がまあまあうまく作用してて。


僕はわりと最悪の事態を考えるほうだし、
彼女は最善のことを考えるほうだから。
写真
糸井
昔に生きてた人は、水木しげるが描くような
妖怪たちを見てて、
一緒に暮らしてたわけですよね。
伊集院
そうです、そうです。
糸井
そういう人がみんなに
「妖怪いないんだよ」って叩かれて、
「いない」って思うまでが、大人になることだった。


でも、
「いるまんまで大人やってていいじゃん」
ってぐらいの飯の食え方は、
いまの世の中あるんで。
だったらいじめないでくれと。
伊集院
いや、ほんとそうですね。
ほんとそうです。


だからたぶん、僕は怖いんだと思うんです。
「理屈を積まないと生きられない」
と思って育っちゃった側は、
そうじゃない生き方で生きられるということが
怖いんだと思うんですよね。


逆にその、感覚派の人は、
「これ理屈でやり込められる」
ってことを怖がってるから。


でも、お互い怖がることはなくて。
それはチームになっちゃうほうが絶対いいですね。
糸井
それ、すばらしいチームですよね。


あの、会社って案外そういうところがあるんですよ。
老人と孫みたいな年の離れた人同士が
同じ場所にいて、
「あ、それね」って誰かが手伝ってくれたり、
「やっといて」っていうのを
年寄りのほうが動いたりが絶えずありますから。
(つづきます)
2024-02-13-TUE