「池上彰」という新しい職業。 「池上彰」という新しい職業。
キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
第7回 台風はなぜ生まれるの?
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糸井
池上さんは理科系の勉強が苦手で
気象予報士の夢を叶えられなかったんですね。
池上
でも、NHKで地方勤務が終わったあと、
東京に戻ってきてから
気象庁担当にもなれたんですよ。
糸井
それは奇しくも?
池上
はい、奇しくも。
台風がくると、今は気象予報士が
台風の進路予想図の解説をしますよね。
当時は、気象庁の予報課長が解説するのですが、
終夜放送になると、午前1時から午前3時までは
予報官を寝かさないといけませんでした。
だから、NHKの気象庁担当である私が
台風の進路予想図を解説することになる。
「あれっ? 自分のやりたいことができてる!」
と思いましてね(笑)。
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糸井
よかったですねえ。
でもその役割をするためには、
知識がないとできないですよね。
池上
気象庁担当になって、たくさん勉強しましたよ。
気象庁の中には専門の本屋さんがあって、
気象とか、火山とか、あるいは当時の最新鋭の
プレートテクトニクスの理論とかね。
気象の話でも「なぜ貿易風が吹くのか」とか、
「台風はなぜ左巻きなのか」、
「なぜ赤道上に台風は発生しないのか」。
みんな意外に、「えっ?」と思うでしょう?
赤道上では、台風もハリケーンもサイクロンも
絶対に起きないんですよ。
これには「コリオリの力」というのが働いてまして、
地球が自転しているからなんです。
糸井
赤道がどう作用しているんでしょう。
一番大きな外周ではあるでしょうけど。
池上
そう、「一番大きな外周」がヒントです。
地球は自転をしていますよね。
そうすると、どこが一番速いスピードで
回っていると思いますか?
糸井
あ、それは赤道ですね。
池上
そうですよね。
赤道が一番速いスピードでしょう?
そうすると、赤道から少しでも
北あるいは南に行くと、
スピードが遅くなりますよね?
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糸井
はい。
池上
赤道付近に直射日光が当たって
水蒸気がどんどん蒸発し、
そこに地球の自転が加わることによって、
大気の流れが起きているんです。
地球は反時計回りに自転していますよね。
ただし、赤道側のほうが
自転のスピードが速いわけですから、
大気が赤道側から北へ向かおうとしても、
赤道のすぐ北側では
結果的に東へ流れているようになります。
糸井
赤道付近には留まれないんですね。
池上
緯度によって
自転している速度の差があるからです。
糸井
あっ、そうか。
池上
一方。北から南へ吹く風は、
逆向きの流れになります。
さらに熱帯低気圧が発生することによって、
渦をつくります。
台風ができて、左回りになるんです。
糸井
はあー、なるほど。
池上
だから逆に、赤道から南側では
反対のことが起きるので右回りになるんです。
北半球の台風は左回りですが、
南半球のサイクロンは右回りです。
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糸井
北半球と南半球では、
洗面台に水を流したときにできる渦が
逆の向きになるという話がありますよね。
それとはまた、違う話でしょうか。
池上
糸井さん、その話はですね、
アフリカとか赤道あたりの観光業者が
観光客を騙すときに使う嘘なんですよ。
糸井
あれは嘘なんですか(笑)。
池上
北半球で台風が起きると左巻きの渦になると説明して、
バケツの水をじゃーっと流すんです。
「ほーら、赤道の北だと左に渦巻いてるでしょ?」と。
そして、バケツの水を赤道の南側で流して、
「ほーら、右巻きになりました」と言うんですよ。
実はあれはトリックがありましてね、
バケツを叩いて渦を逆に操作しているんです。
あの程度の小さなところでコリオリの力は働きません。
大気現象として、ものすごく大きなもので
はじめて起きるものなんですよ。
糸井
そうかあ!
なんで台風と一緒なんだろうって思っていました。
池上
ぼくも、南半球に初めて行ったとき、
泊まったホテルで
バスタブのお湯を抜いてみたんですよ。
糸井
やってみたくなりますよね。
池上
そうするとね、渦が右を向いていたんです。
「おお、コリオリの力だ!」って驚きましたが、
そんなものはたまたまなんです(笑)。
バスタブレベルでそんな力は働きません。
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糸井
教えてもらってよかったです。
どうして渦の向きが変わるんだろうって、
逆に謎が増えたような気がしていたんです。
池上
そういうことを一所懸命、
専門書を読んで勉強していました。
糸井
勉強は苦にならないんですね。
池上
教えたがりだからだと思うんです。
糸井
今も説明しているとき、
生き生きしてましたよ。
池上
そうでしょう?
人が知らないことを教えるっていうのは、
やっぱり嬉しいんです。
そもそも記者って、
みんなが知らないことをいち早く知って、
「みんな知ってる? こんなことが起きてるんだよ!」
というのが仕事ですから。
でも、わかったのに説明できないことってありますよね。
それでも記者は、原稿でわかりやすく
説明しなければいけません。
自分でわからないことは勉強しますが、
それだけではなかなか頭に入ってこないんですよ。
「人に説明するためにはどうしたらいいだろうか」
という問題意識を持って勉強するとおもしろいし、
すっと頭に定着するんですよ。
糸井
今のお話を聞いていたら、
コピーライターも同じだと思いましたよ。
池上
ほう。
糸井
つまり、「自分が欲しいから」というのは
おおもとにはありますけど、
それでも、他人には通じないなって思うから、
どの言葉が出てくるんだろうって考えるんです。
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池上
ああ、なるほど。
糸井
あらかじめ社会化された考え方といいますか、
社会を考えないと思考が収まらないんですよね。
池上
なるほどね。
糸井
池上さんのお話にも同じことが言えて、
「自分ひとりがわかっていればいいじゃないか」
ということではないんですよね。
(つづきます)
2018-12-04-TUE