キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
- 糸井
- 池上さんの中には、
「まだ説明できないけれど俺だけが知っている」
という、やり残したままにしているものが、
大量のマグマのようにあるんでしょうね。
- 池上
- そうだろうとは思うんですけど、
私はとにかく人に説明をしたくって、
説明するためにはどうしたらいいんだろうって
ずっと考えているんです。
勉強するときに一番効率がいいのは、
「これを誰かに教えよう」という
問題意識を持って覚えることです。
たとえば自分の子どもや親に、
おじいちゃんやおばあちゃんに説明するなら
どういう言い方をすれば伝わるかな、
という問題意識を持って勉強すると、
おもしろいように自分の中に入ってきますよ。
- 糸井
- テレビやネットを見ていると、
デタラメの比喩を使った宣伝をしたり
嘘をついたものがわかりやすいからといって、
安易にそっちに流れちゃう人もいますよね。
何も知らないおばあちゃんを騙したり、
怪しいものがいっぱいあります。
あれは、どこが道を分けるんですかね。
- 池上
- 伝える側が本当に理解していれば、
どこまでデフォルメできるかわかるんですよ。
中途半端に「勝手にこういうことだろう」って
決めつけちゃっていると、
とんでもない間違いになることがありますよね。
- 糸井
- 決めつけた方が自分に都合がいいケースでも、
同じように嘘をつきますね。
- 池上
- そのとおりですね。
- 糸井
- 池上さんの立ち位置っていうのは、
「俺はこう思うんだよ、こうしたいんだよ」
という自分の考えを表現するのではなくて、
そのときに起きている渦を上から俯瞰して見て、
台風の目みたいな場所を探すような
思考になっているんじゃないかという気がします。
- 池上
- いわゆる、鳥瞰図という視点ですね。
- 糸井
- そうです、そうです。
ドラッカーが経営の理論や生態学的なことを
いっぱい語っていますけど、
『傍観者の時代』という本が素晴らしいんです。
自分は傍観者であるけれど、
そこに自分の考えがないかといえばそうではなく、
考えはちゃんとあるんですね。
「上から天気図を見るような私でありたい」
というような池上さんの立ち位置は、
とっても素敵でおもしろいと思うんですね。
- 池上
- 今起きていることを、つい説明したくなるんです。
じゃあ、どう説明したらいいんだろうか。
具体的な話なら簡単に説明できますけど、
たとえば、アメリカのトランプ現象や
イギリスのブレグジット(EU離脱)を
どう説明しようかって、簡単な話ではありません。
まずは、グローバリズムがどんなものか、
世界史の中でどう位置づけられるか。
今度はそこに歴史観というものが出てきますよね。
すごく難しいことですけれども、
説明したいものだから歴史を学び、
自分なりの歴史観を作っていくことになります。
- 糸井
- 池上さん自身の歴史観や世界観は、
どう作られたんでしょうか。
- 池上
- 私はいつも不安なんですよ。
つまり自分自身が浮遊していて、
つかまるべきアンカー(碇=いかり)が
どこにあるか最初はわからないこともあります。
たとえば、トランプ現象が起きたときに、
「とんでもないヤツが出てきたな」と思って。
- 糸井
- 難しいですよねえ。
- 池上
- でも、あれよあれよと支持が出てきました。
これまでの常識では考えられなかったんです。
どう考えたらいいだろうって、不安になりました。
じゃあ、どうしようかって調べて、
ひとつの仮説を立てることができたら
ちょっと安心します。
でも、そこで気をつけなきゃいけないのは、
仮説ができた段階で決めつけてしまい、
「俺はここから動かないぞ!」ってやると
仮説が間違っているかもしれませんよね。
自分が立てているのは、あくまで仮説です。
とりあえずここに碇を下ろすけど、
調べてみてズレていると思ったら、
碇を上げて、またちょっと漂うんです。
- 糸井
- 動きながら、いつでも考えているんですよね。
本当は碇を下ろしている暇さえないくらいに
絶えず動いてるわけで、
だからこそ、放送日の決まっている
テレビが向いていますね。
「こういう出来事があったので、
みなさんにこの解説をお伝えしたくなりました」
と、つねに更新されるお話をなさっていますよね。
- 池上
- はい、はい。
- 糸井
- そういう立場は、今ならではじゃないでしょうか。
大河ドラマの関ヶ原の戦いでは
「あいつは寝返った」とか絶えず動いていますけど、
メディアを通じて雲の動きみたいなものを
語り続けるというのは、伝わる速度を考えたら
恐ろしいことをやってますねえ。
- 池上
- これから何が起きるんだろうかって、
常に注意することが必要なんだと思うんです。
たとえば先日ニュースになった話ですが、
トランプ政権で国連大使だった
ヘイリーという女性が年内で辞めるそうです。
彼女はインド系の移民の娘で、
サウスカロライナ州で
女性として初めての州知事になり、
全米では最年少の知事だったんですよ。
私、いずれこの女性はアメリカで初の
女性大統領になるかもしれないと思ったんです。
ヒラリーが大統領にならなかった場合は
ヘイリーになるかもしれないぞと思って、
彼女の生い立ちが書かれた本を買いました。
そうしたら、あれよあれよっていう間に
トランプ政権で国連大使になり、辞めたでしょう?
- 糸井
- うんうん。
- 池上
- どうも、2024年に大統領候補として
出馬するんじゃないかと言われているんです。
今のトランプ政権を支えてきたので、
2020年の大統領選挙に出るわけにはいきません。
2024年にトランプが辞めた後に出る、
その準備を始めたんじゃないかなって思うんです。
ということは、ヘイリーがいずれ大統領選挙に
出るんじゃないかと思っていた見立ては
意外に合ってたのかもしれないぞ、
と、ひとりほくそ笑んだりするわけですね。
- 糸井
- ずっと見ているから、直感的な何かが働くんだ。
気象予報士とやっぱり似てますね。
- 池上
- そうかもしれないですね。
私が2005年にNHKを辞めた後、
日本テレビの『世界一受けたい授業』に出たんですよ。
このとき、アメリカ大統領の仕組みを話しまして、
「2008年には日本のどこかの都市のような名前の
黒人の若手が選挙に出てくるかもしれないよ」
とスタッフに言ったんですよ。
- 糸井
- オバマ大統領ですね。
- 池上
- 当時のオバマは民主党の若手として
「演説がやたらにうまい」と注目されていたんです。
すぐに大統領になるかわからないけど、
大統領選挙に絡んでくるという予想はしていました。
でも、ディレクターは全然理解してくれなくて
「ああ、そうすか」で終わりましてね(笑)。
大統領に就任したあとで、
「あのとき、やっときゃよかったですねえ」
と言ってましたね。
- 糸井
- アメリカの地方局のドキュメンタリーで、
大学生の頃からオバマをずっと追いかけていた番組を
NHKで見たことがあります。
マケインとオバマが争っているときに、
学生時代からの映像が残っていて感心したんです。
アメリカでは特に、ハズレでもいいから、
全部に投資しておくことをしますよね。
- 池上
- アメリカにエンジェル投資家っていますよね。
いろんな新しい事業を始める起業家に
資金を投資をする人たちです。
彼らは10件に投資して1件当たればいいもので、
あとは全部ハズれてしまうわけですが、
それでも損を承知で投資しています。
有力な政治家をとりあえず見ておくというのは、
同じ発想と言えますよね。
- 糸井
- 野球やバスケットボールの選手の獲り方も同じですね。
どんなものであろうがハズレに対する投資って、
当たることの儲けに比べたら
たいしたことがないんだと思うんですよ。
- 池上
- ひとつが成功すればね。
- 糸井
- 0を1にするときに
たとえば3000万円かかるとするなら、
30万を100人に配っても平気ですよね。
ひとつでは、つまんない。
可能性のあるものは生きるわけだし、
シャケの産卵みたいなものですよ。
- 池上
- そういう投資をしてくれる人がいるからこそ、
成功するとも言えますね。
(つづきます)
2018-12-05-WED
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN