キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
- 糸井
- 今日のお話では全体を通して、
「わからない」とか「ハズレ」だとか、
価値の中ではダメだと思われている方に
目を向けて運転してきた池上さんの姿勢が
見えるような気がするんです。
「わからない」に気づく理由は何でしょうか。
- 池上
- それは、私がNHKを辞めるきっかけの話に
つながっていますね。
- 糸井
- あっ、それも聞きたいですね。
- 池上
- 私は『週刊こどもニュース』をやりながらも、
解説委員になるという野心を
ずっと捨てきれずにいたんです。
なぜそう思っていたかというと、
普通に出世をしていくと「デスク」や部長になって、
取材から離れてしまうんです。
自分は、生涯ジャーナリストとして取材し続けたい。
NHKでそれが認められるのは、解説委員だけです。
解説委員なら管理の仕事をする必要がなくて、
自分で取材をして、テレビやラジオで
ニュースを解説することができるんです。
NHKにいた頃、将来やりたいことの
申告書を毎年書いていたんですけど、
ずっと「解説委員」と書き続けていたんです。
そうしたら、あるときたまたま、
当時の解説委員長に廊下で呼び止められましてね。
「お前な、解説委員になりたいって言ってるけど、
お前はなれないからな」と言われたんですよ。
- 糸井
- えっ、なんで!?
- 池上
- 私もびっくりして理由を訊きました。
「解説委員は何かの専門家なんだ。
中東問題だったりアメリカの政治だったり、
それぞれの専門家が解説委員になるんだ。
お前に専門はないだろう?」と言われましてね。
たしかに、私はなんでも解説しちゃっているので、
専門と呼べるものがなかったんです。
「ああ、この会社の中で自分の夢は閉ざされた」
と思って打ちひしがれたんですよ。
その一方で専門性について考えるようになって、
たしかに解説委員のような専門分野はないけれど、
「物事をわかりやすく解説する」という
専門性はあるんじゃないかと気づきましてね。
そんな仕事をしている人、あまりいませんから。
- 糸井
- ああ、いないですね。
ぼくも解説委員をやっている人と会ったことがあって、
ひとつ疑問に思っていたことがあるんです。
もしかして、専門性を早くに決めたから、
その椅子に座っているだけじゃないかなと思って。
- 池上
- (ポン、と手を叩いて)鋭い!
正直なことを言えば、そういう人もいます。
特定の分野に関して言えば、
この解説委員よりも私の方が詳しいのになって
思うことはありますよ。
- 糸井
- 池上さんに専門性がないと言った人は、
どうしてそんなこと言ったんでしょうね。
- 池上
- 「お前は解説委員なんて考えないで、
『こどもニュース』をずっとやっていればいいんだ」
ということで言ったんだと思うんですよね。
- 糸井
- 思いやりの可能性もないでしょうか。
「解説委員なんてことをするのは、
お前にはもったいないぞ」って。
- 池上
- なるほど。
ものは考えようだなあ(笑)。
- 糸井
- その経験を実際にしているんです。
ぼくは昔、後につぶれる会社の社員でした。
借金の催促の電話ばかりかかってくる会社です。
- 池上
- はい、はい。
- 糸井
- ちょうどその頃に
『花椿』っていう資生堂の雑誌が
編集者を募集していたんで、
受けようと思って社長に相談したら、
「予言してやろうか?
お前がそういう立場になったら、つまんねえぞー!」
と言われたんですよ。
「辞めるな」ってことだと受け止めていましたが、
その社長が死んじゃった今になってわかるのが、
本当にぼくのことを思って
言ってくれたんだなと思うんです。
ぼくは海のものとも山のものともつかないけれど、
「やろうと思えば何をやってもいいじゃないか!」
というフリー切符を持った貧乏人でした。
そのおもしろさを、
社長は見ていてくれたんだと思うんですよね。
- 池上
- なるほどねえ。
- 糸井
- そう考えると、『こどもニュース』で
あれだけやっていた池上さんが、
ひとつの専門分野だけで定期的に出てきて
解説しているなんて姿は、もったいないですよ。
- 池上
- いやいやいやいや。
まあ、いろいろやってはいましたけどね。
- 糸井
- いろんな人が「池上さんみたいな」と
たとえ話に出していたぐらいですからね。
「池上さん」というジャンルを作ったわけだから、
今まで通りの解説委員にしちゃうのは惜しいです。
大谷翔平に「バッティングに専念しなさい」
と言っているようなものですよ。
- 池上
- そうですかねえ。
- 糸井
- 今の池上さんと近い位置の人がいないかなと思って、
ひとり思いついたんです。
それが、島田紳助さんです。
- 池上
- 異業種ではあるけれど、
はあー、なるほど。
- 糸井
- “出身地”は違うけれど、同じ場所にいたと思うんです。
「私も知らないんで説明してください」
という言葉も使える立場にいましたし、
「言うてみたら簡単やん」ってことも言えました。
島田紳助さんが芸能界を辞めないで、
「島田紳助と池上彰の」って番組ができたら、
そりゃあすごかったと思いますよ。
- 池上
- なるほどね。
- 糸井
- 他におもしろいだろうなと思うのは、
池上さんがテレビ局のプロデューサーに
なっちゃうことだと思うんです。
プロデューサーをやりつつ、
「池上彰」のままで番組をやる。
これはありえますか?
- 池上
- 今、テレビ東京でこの4月からやっている
『池上彰の現代史を歩く』という番組では、
番組づくりに最初から関わっていますから、
プロデューサーでもありますね。
プレイングマネージャーみたいな感じです。
- 糸井
- 池上さんがプロデューサーもできたら、
後々ニュースになりそうなことを
追いかけるようなこともできますよね。
- 池上
- でも今は、どちらかというと、
本を書く仕事に
シフトしていきたいなと思っています。
- 糸井
- テレビよりも本を書く仕事の方が
向いているっていうことですか?
- 池上
- 向いているというか、
たのしいんです。
- 糸井
- それじゃあしょうがないですね。
- 池上
- テレビの仕事もたのしいですけど、
取材をして、どう文章で表現しようか
考えるのがたのしいんです。
パソコンで原稿を書きながら、
「こう書いたけど、ひっくり返した方がいいな」
と悩んだりとか、
「こうした方がわかりやすくなるよね」
という、いわゆる推敲がたのしいんですよ。
連載だと字数が決まってますでしょう?
最初はとりあえず、わっと多めに書くわけですよ。
多めに書いたあとで、どこを削れば収まるかなって
考えるのが楽しいんですよ。
- 糸井
- 書くことが、つくづくお好きなんだなぁ。
推敲の好きな人は、文章を書くのが好きですね。
池上さんが書きたいテーマは、
あっちこっちに行くんですか?
- 池上
- 最終的な自分のライフワークは現代史です。
『そうだったのか! 現代史』という本が
パート2まで出ているんですけど、
その先をまだ出せていないので、
それを早く出さなければいけないなと思って。
たとえば「中東ってなんで対立してるの?」
「中国と台湾ってどうして仲が悪いの?」
という問題に対して、こんな歴史があるんだよと
説明するような本を書いてきたので、
さらに続けたいなって思いがありまして。
- 糸井
- いよいよそうなると、
自分のアンカーを下ろしている時間が、
わりと長くなりますよね。
- 池上
- そうなるんだと思うんです。
(つづきます)
2018-12-06-THU
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN