「池上彰」という新しい職業。 「池上彰」という新しい職業。
キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
第10回 「池上さん」任せになってない?
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糸井
池上さんはメディアを通じて大勢の人とお会いになり、
たくさんの読者や視聴者がいますけれど、
もっとこうなればいいのにな、
と思うことは何かありますか?
池上
これは自己否定にもなりますけれど、
「池上さんに聞いてみよう」とか、
「池上さんがどう考えてるんだろうか。
それを知れば考え方の指針にしたい」みたいな
安易な考えが増えてきているんじゃないかと思って。
たとえばテレビで選挙の特番をやりますよね。
私が政治について解説をしていますが、
健全な民主主義とは、一人ひとりが自分の頭で考え、
判断するっていう力があってこそだと思うんです。
だから私は、特定の意見を言うわけではありません。
「みなさん一人ひとりが自分の考え方を持てるような
材料を提供する役割なんです。
そこから先は、どうぞみなさんが考えてくださいね」。
というスタンスで、ずっとやってきました。
でもこのところ、私が解説をしたことで、
「ああそうなんだ」で納得しておしまいになる。
その先にいかない状況が見えてきて、
それってどうなんだろうかと危惧しています。
「ただわかりやすく説明すればいいんだろうか」
というのを自問自答するようになりましてね。
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糸井
頭と口のところでは役に立っているけれど、
体がついてきていないんですね。
自分で考えることになっていないんだ。
池上
「それってどうなん?」っていう感じですね。
それをテーマにした本を書きかけているんですが、
まだ答えが出ないままですね。
糸井
「それってどうなん?」ですね、ほんとに。
そのための一里塚はやっぱり、
「わからない」って、ちゃんと言うことですね。
池上
わからないのをそのままにしていたら、
いけないってことですよ。
糸井
知ったかぶりをしないで聞いたり、知ったり、
そこからが始まりだってことですね。
だいぶ時間が経ってしまいましたが、
最後に質問を受けてもいいですか?
池上
あ、いいですよ。
もちろん、どうぞ。
糸井
「それってどうなん?」という質問をどうぞ。
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ほぼ日
好奇心に関連した質問をいいでしょうか。
インターネットが登場してから、
「情報を探せば答えがそこにある」
という状態になっている一方で、
ウェブ上にあることは自分が知っていることだと、
拡大解釈するような流れもある気がします。
これから生まれてくる子どもたちは、
さらにそういう思考が増えていって、
好奇心が損なわれていくんじゃないかと心配です。
どうやって好奇心を養っていけばいいのでしょうか。
池上
わかりました。
たしかにテレビ番組の打ち合わせをしているときに、
私がすぐに思い出せなくて、
「ええっと。ほらほら、あれ、こんなのあったよね」
なんて言うと、スタッフがスマホを取り出して
「これですね」「ああ、そうそう」
みたいなやりとりが、すごく多いんです。
すぐに探し出せて答えがあるように見えますけど、
「本当に答えだろうか?」っていうことですよね。
たとえば、人物について書いてあったとしても、
それを書いた人の解釈にすぎないわけです。
他の人の解釈なら違うかもしれませんし、
そもそも非常に表層的なことばかりなんですよね。
あるいは本人がいろいろと盛った話が、
そのまま書かれているのかもしれません。
ウェブに書かれたことを「本当だろうか?」と考える。
「さらにその奥があるんじゃないか?」
という意識さえ持っていれば、
好奇心は持ち続けられるんじゃないでしょうか。
糸井
ほぼ日のみんなが「糸井重里」で引いてみたら、
みんなの知ってるぼくじゃないものだらけだよ(笑)。
池上
でしょうね。
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糸井
具体的に知っている人で検索すれば、わかりますよ。
たぶん池上さんのことを検索してもおそらく、
「こういうことになるわけ?」となると思います。
池上
そういえば、こんなおもしろいことがありました。
私は長野県の松本市生まれですが、
親の転勤で3歳で東京に来まして、
高校は、東京の都立高校に通っているわけですよ。
だけど「長野県松本市出身」というだけで
長野県の人たちはみんな、
松本深志高校の出身だろう、と思い込んでいた。
糸井
おもしろいですね。
池上
長野に行くとすぐ「深志ですよね?」と
よく話しかけられるのですが、違います。
以前、松本深志高校から講演の依頼があって、
「ぼくは深志じゃないんだ」と言ったら
生徒がみんな「えーっ!」とガッカリ(笑)。
都立高校の出身なんだと言い続けていたら、
そのうちネットで訂正されるようになって、
「松本深志高校に入学後、都立大泉高校に転校」
と間違った情報が更新されていたんです。
なぜ私が知ったかというと、
大泉高校の同窓会に出席したときに友人から、
「入学のときからいたよな」と声をかけられて。
「お前、ネットで転校してきたって書いてあるぞ」
と言われて「ええーっ!!」と驚きました。
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糸井
仮説にこだわる、ということが、
誰にもあるってことですね。
池上
思い込みで仮説をそのまま書いちゃうことが、
ネットにはものすごく多いんだなと思いますよね。
糸井
ほかに質問はございませんでしょうか。
ほぼ日
選挙速報で池上さんの番組を見ていると、
政治家の人と2、3分対決するコーナーを
どうしても楽しみに見てしまうんです。
あの場面では、今日伺ったお話の
「知りたい」とか「教えたい」とは
別の筋肉を使っているような気がして、
腹をくくって踏み込んでいるのかなと思います。
あの瞬発力というか、心構えについて伺いたいです。
池上
ありがとうございます。
ニュースをわかりやすく解説するというのは、
私の仮の姿でございまして(笑)、
こっちが本当の私なんです。
政治家とやりとりをするときにふと、
殺しの専門記者だった頃の片鱗が出てきます。
政治家たちに対してはみなさん、
いろんな思いを持っていますよね?
だけど、テレビ番組の
コメンテーターや解説者は政治の専門ですから、
普段から政治家との付き合いがあるわけです。
なあなあになっちゃうこともあれば、
激しく対立してしまうことで
「そのあと取材ができなくなるんじゃないか」
と躊躇してしまうわけですよ。
私は幸いなことに、政治とまったく縁がないので。
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糸井
池上さんに専門がないおかげですね。
池上
そういうことなんです。
専門がないので、視聴者が知りたいことを、
視聴者の代表として訊きたい。
まあ、すっかり嫌われた政治家もいますけど(笑)。
私は政治の専門記者じゃないから、
「べつに嫌われたっていいもーん」
というのが強みだと思いますね。
それでもやっぱり、腹はくくっていますよ。
糸井
そのテーマって「ほぼ日」にも言えて、
専門がないから案外好き勝手できるんですよね。
あと、池上さんが追及する場面を見ていて、
ぼくが感じていることも、ひとついいですか?
池上
ええ、なんでしょうか。
写真
(つづきます)
2018-12-07-FRI