キーンコーンカーンコーーン!
池上彰さんを「ほぼ日」にお迎えして、
糸井重里と2時間の特別授業が行われました。
NHKの記者、首都圏ニュースのキャスター、
『週刊こどもニュース』のお父さんを経て
ジャーナリストとして大活躍中の池上さん。
どんなジャンルでも、わかりやすく解説してくれる
「池上彰」という新しい職業ができたのでは?
そんな池上さんの居場所ができるまでのお話を、
即興解説を交え、たっぷり全13回でお届けします。
- 糸井
- 池上さんは政治家を追及する役割をしますが、
「政治家はみんな、悪いヤツだ!」と
決めつけている人ではありませんよね。
- 池上
- ありがとうございます。
そこまで見ていただけて嬉しいです。
- 糸井
- ぼくも同じ考えなんです。
若い頃は、政治家になる人間なんて
金のためだとか権力のためだとか、
悪いヤツだって思い込んで政治家を見ていました。
でも、実はそうともかぎりません。
政治のいい部分と悪い部分を
池上さんは直接的な表現はしないけれど、
伝わってくるものがあるんですよね。
- 池上
- 政治家になるっていう人の中には、
何かを成し遂げたいと思っている人たちが
当然いるわけですよね。
みんながみんなそうじゃないけれど、
成し遂げたいことがある人たちはいます。
私がそういうことに気づいたのは、
自分が選挙に出るように口説かれたときです。
「冗談じゃない、俺はそんなもんに出ないよ」
と断っているわけですが、話を聞いてみると、
「生活が苦しい人とか障害のある人とか、
困っている人たちの声を中央に届ける役割を
ひとつできるだけでも意味があるんじゃないか」
と言われて、激しく心を揺さぶられました。
「そうか、みんなこうやって口説かれて、
芸能人やタレントが政治家になっているんだ」
と気づきましてね、政治家全般をけしからんとか、
とんでもないとは言えないんだなと思ったんです。
- 糸井
- 年齢を重ねてから
その考えになったということですね。
- 池上
- そうですよ。
昔は、政治家なんて悪いヤツに決まってる、
とんでもないヤツだと思ってましたから。
- 糸井
- ぼくはわりと早くに、
「そんなに悪いヤツの塊があるはずない」
と思ったんですよね。
- 池上
- 糸井さんは大人ですねえ。
- 糸井
- そうですかね(笑)。
ぼくも選挙に出るよう口説かれたことがあって、
そのときには嫌な口説かれ方をしたんですよ。
「同じ職業をずっとやっていて、
いつまでもうまくいくはずはない。
いいチャンスじゃないか!」
とか言われるわけですよ。
- 池上
- それ、嫌ですねえ。
- 糸井
- 「俺はグリーン車には乗らないようにしてる。
選挙に出るっていうのはそういうものなんだ」
とか、いろいろ話をされまして、
なんて嫌な世界なんだと思ったんです。
ただ、この人が嫌すぎるとしても、
こんなに好き放題言われている職業が
ただの欲では続かないと思ったんですよね。
- 池上
- 大人だなあ(笑)。
- 糸井
- 政治家のことを言う前に、
「社長さんは悪いヤツ」「お金持ちは悪いヤツ」
という発想だってありますよね。
本当に悪い人もいれば、いい人もいるわけです。
偏見が強すぎるんじゃないか、
と思ったもんですから。
- 池上
- 私も政治家と話をすることがありますが、
みんなね、魅力があるんですよ。
それはもう、与野党問わず。
なんとなくイメージの悪い人もいるんだけど、
会ってみるとそれぞれに魅力があります。
要するに、当選している人というのは、
何万人もの人に自分の名前を投票用紙に
書かせているわけですから。
これはすごいことだなと思います。
彼らにそれだけの魅力があるんですよね。
- 糸井
- 全肯定はできないけれど、数の凄みは感じます。
仮にぼくなんかが同じ土俵に立っても、
絶対に票なんか入らないわけです。
「選挙の洗礼を受けた人だけが信じられる」
という言い方がありますが、
商売でも同じことが言えると思っています。
ぼくらの商品がお客さんのところに届くのは
選挙の投票に似ているんです。
だから、売れるものを作るっていうのは、
ナメたものじゃないぞ、と思うんです。
- 池上
- 政治家でもね、地べたを這って選挙運動をして
自分の名前を書いてもらって当選してきた人は、
人の痛みとか弱みがわかるんですよね。
つい最近、選挙運動もしないまま小選挙区の
比例代表トップで悠々当選しちゃった人が、
雑誌に「生産性がない」と書いて
問題になった例もありましたね。
- 糸井
- そうか、あの人は比例でしたか。
うーん、なるほど‥‥。
では、ほかの質問に行きましょうか。
- ほぼ日
- 情報ってどんどん更新されていくので、
池上さんが解説した情報が
「実は間違っていました」ということも
当然あるんじゃないかと思います。
池上さんは、情報が誤っていると気づいたとき、
どのように新たな解説をされますか?
- 池上
- 時間が経ってから変わることはあるので、
私が以前言ったことが、
「実はその後はこうなっていました」
という形でフォローすることがあります。
本の場合は重版すれば直せますが、
重版しなければ、そのままですよね。
ですから、次に本を出すときに、
その後の話を書くというやり方をとっています。
ネットでは、いくらでも書き直せますが、
だからと言って、間違いの指摘を受けて直しても、
いつ直したかを明らかにしないのは問題です。
- 糸井
- 日付けが必要ですね。
- 池上
- そうです。
たとえば海外の新聞社の電子版では、
必ず最初のところに「原稿の修正があります」
というお知らせがあるんです。
間違っていた部分を明示して、
正しい情報で更新されていることを
ちゃんと説明しています。
これが良心的だなと思うんです。
- 糸井
- ルール化した方がいいですねえ。
- 池上
- ルールにしなきゃいけないと思いますよね。
ネットでは後で直せるからと言って、
安易に「とりあえず出してよ」ということが、
まあ、あるわけですよね。
- 糸井
- えらい迷惑をかけますよね。
- 池上
- その一方で、どんどん新しい情報に変えられる、
というネットならではの優れた面もあります。
テレビ放送が終わったり、本が出版された後では、
新しい情報を出すことが難しいですからね。
- 糸井
- うん、うん。
- 池上
- テレビの解説で間違いに気づいた場合、
私はなるべく正直に言うようにしてますね。
たとえばトランプ現象について、
2015年の夏にこんなことがありました。
「アメリカでは17人もの人が
共和党の候補になりたいと言っているんだけど、
この中にドナルド・トランプって人までいてね、
こんなメチャクチャなことを言ってるんだよ」
という説明をしていたんです。
- 糸井
- イロモノ扱いだったんですね。
- 池上
- おそらく、日本のテレビでは最初に
トランプさんを取り上げたんじゃないでしょうか。
そのときにキャスターから、
「トランプさんの勝算はどうですか?」と訊かれて、
「まあ、年内には消えますから」と答えてしまった。
当選なんて、まったく予測できていませんでした。
ですから、2017年になっても2018年になっても、
「実はドナルド・トランプさんについて、
私はこんな失敗をしてしまいました」
と、ちゃんと正直に言うようにしています。
トランプ大統領が当選したときに、
「最初から予測をしていた」と言っている人が
出てきたりもしましたが、
私は本当のところ、わからなかったんですよ。
私は2016年にアメリカにいましてね、
ずっとヒラリーが優勢だと思っていたのですが、
10月の末ぐらいになると、
「あれっ? 本当にわかんないぞ‥‥」。
- 糸井
- アメリカにいると
風向きは感じるんですか?
- 池上
- はい、感じましたね。
それまでヒラリーが当選すると
思い込んでいたんですが、
「いや、トランプかもしれない」とも思うようになる。
その頃に東京から電話がかかってきて、
「ヒラリーで決まりでしょ?」と訊かれるんです。
私は「いや、まったくわかりません」と答えました。
トランプが当選するなんて思ってもいなかったから、
「トランプが当選するよ」までは言えませんでした。
「『わからない』という状況だった」
ということを、今は正直に言っていますね。
- 糸井
- 「わからない」がまたキーワードになってます。
- 池上
- 「わからない」と言うのには勇気がいりますよね。
これがやっぱり大事じゃないかな。
- 糸井
- トランプ大統領っていうのは、
みんなにとっていい試金石でしたね。
(つづきます)
2018-12-08-SAT
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN