- 糸井
- でも34歳は、ぜんぜん走れますね。
- 水野
- 走りたいですけどね。
- 糸井
- ぜんぜん走れますよ。
世界制覇できるくらいの気持ちに
なるんじゃないですか?
- 水野
- いや、いや、いや(笑)。
でもいま、走りたいんですよね。
いまの自分たちの現状を路上ライブで例えると、
人がいない道で最初やりはじめたのが、
だんだん人が集まって、10、20人に増えてきた。
ぼくらもその場のお客さんたちも
いい関係を築けていて、盛り上がれてる。
でも、ほんとはいま、
そのわかりあえる円のなかだけで
とじてしまっていたら、ダメだと思ってて、
立ち止まってくれてる人たちだけじゃなく、
向こうを歩いている人にも、
アクセスしたいんです。
その、もどかしさがあって。
- 糸井
- 「いきもの」って、とじちゃったら死だからね。
ずっと手を伸ばしつづける様子そのものが
「いきてる」ってことだから。
あと、人体なら、病気にもなるし、
そのとき治すまでの期間とかって、
前へはすすんでないけど、
それも含めて「いきる」じゃないですか。
だから、一見とじてるように思えていても、
それも楽なことじゃないと思うよ。
- 水野
- そうなんですかね。
- 糸井
- あと、生命の歴史を考えると、
最初は自分だけでは動くこともできなかった
「いきもの」が、
だんだん筋肉ができて、神経ができて、
できることが変わってきたわけですよね。
いまの「いきものがかり」は
そんなふうに進化して、
筋肉が発達した「いきもの」に
なりかけてるんじゃない?
いちばん暴力的な、ムンムンしてるとき。
- 水野
- ムンムン(笑)。
- 糸井
- 「ほかにももっとやりたいぞ」と
足が生えかけてて、
新しいお客さんをとりにもいけるし、
新しい世界をのぞきにもいけるし。
だから、いまは
走ればいいんじゃない?
思いのままに。
- 水野
- ほんとですか。走ればいい。
- 糸井
- そう思うけどね。
走りだせば、もう、
楽しくてしょうがないんじゃない?
走るのに考えがついていかないとか、
そういうのでもいいと思う。
細かい問題は、あとで個別に考えればいいから。
‥‥で、厄年くらいになるんですよ、その次。
- 水野
- あ、その次にまたなんかあるんですね(笑)。
- 糸井
- うん、ぜんぶこう「通じた!」と思ったら、
「まったく通じない世界がこんなにでかかった」
と気づいて、がっくりくるんです。
- 水野
- 今日は来るときにずっと
糸井さんの本を読んでいたんですけど、
本のなかで、糸井さんにも
若い一時期には「万能感」があって、
さらにそれが崩れたときがあった、って。
- 糸井
- はい、それが40ですよ。
厄年あたりで、がっくりくるんですよね。
泣きたくなりますよ、ほんとうに。
「よし。やれることはぜんぶやれるかも」
みたいな気持ちで生きていたら、
急に大きな山みたいなものがきて、
「え、世界の本体ってこっち?」みたいな。
生まれ直さなきゃダメくらいの気分になる。
- 水野
- そこまで、ですか。
- 糸井
- ぼくはそんな感じでした。
だから、からだが元気ならいいけど、
あそこで病気になったらきついでしょうね。
- 水野
- それほどの山って、振りかえって、
経験したことはよかったんでしょうか。
- 糸井
- 必ずあることなんで、認識できたのは、
よかったんじゃないでしょうか。
「あのときにいちばん考えたかも」
という部分もあるし。
- 水野
- その山を越えられなかった可能性も
あると思いますか?
- 糸井
- ぼくはないですね、そこは。
おそらくぼくには図々しいくらいの
「楽天性」があるんじゃないかな(笑)。
お金とかの話じゃないし、
「ジタバタすればなんとかなる」と
思っているというか。
そこは、ぼくの丈夫さですね。
本人が勝ったと思えれば勝ちですからね。
- 水野
- はい、はい。
- 糸井
- だから、その意味では
みんな勝てるはずだと思うんだけど、
そこに辿り着かなければ負けですから、
負け慣れしてたらね、きついかもしれない。
なんだろう、その山については、
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」
みたいなことかな。
「手を離したら泳げた」みたいな。
すっごくちいさなペットボトル程度でも
浮きになって、助かるんですよ。
そしてなんとかしてたら
最終的にイルカが来てくれた、みたいな。
- 水野
- はい、イルカが(笑)。
- 糸井
- でも、それと同じかどうかは
わからないけれど、
きっと音楽家ということでも
次にどう飛び移るかがありますよね。
- 水野
- そうなんですよ。
- 糸井
- すごく意地悪な言いかたをすると、
音楽を作る人たちって、
初期の作品にその人のエッセンスが
凝縮しているというか。
やっぱりみんな、ずーっと完全に新しいものを
作り続けることはできない。
だから、そのあとでどうするかについては
きっと、それぞれに悩んで
自分の道を決めてますよね。
「ずっとすごかった」と思われてる人とかって
実は活動期間が短いですよね。
ビートルズにしたって、早くに解散してますし。
- 水野
- そうなんです。
あと、死んじゃった人は
ずるいなあ、と思います(笑)。
- 糸井
- 同じことをこんどはパフォーマーとして
やっていく人もいますし、
作り続ける人もいるし。
みんな、いいと思うんですけど。
- 水野
- そう、ぼくも、
どんなかたちもいいんだと思います。
ただ、そこからどうするかは難しいですね。
- 糸井
- 降りかたって、やっぱり、
ほんとうに難しいんですよ。
登り途中だと思ってずっと生きてきたのが
もう登れないとわかる瞬間がある。
そのとき
「いっそもう、ヘリコプターでどこかへ
連れて行ってくれ」とかね。
もしかしたら宇多田ヒカルさんとか、
それをやったんじゃないのかな。
- 水野
- ああ、たしかに。
こんどアルバムを出されますね。
- 糸井
- ぼく、みんなあれをやればいいと思うんですよ。
- 水野
- あれをですか?
- 糸井
- あれを試してみて、できたら、
その人はその後、大丈夫ですよね。
- 水野
- そっか‥‥でもここでいま
「怖い!」とおもったぼくは、
やっぱり山の降りかたを知らないと思います。
- 糸井
- ぼくは、SMAPがいちばん上り坂のときに
「みんな1年休んで就職すればいいのに」
と思ったことがあるんです。
たとえば
「こいつSMAPだったんですよ」と言いながら、
いろんなところを仕事で回ったら、
「あ、知ってますよ」って言われるよね。
で、そういう「知ってますよ」をやりながら、
家では踊りのレッスンとかをちゃんとして、
「もう1年やったから、いいですよね」
とか言って舞台に戻ったら
‥‥すごい大きさになってない?
- 水野
- 糸井さんはそういうふうに考えるんですね。
さらに大きくなるために、休む。
- 糸井
- その状況できっと誰も「歌ってみろよ」とか
言わないと思うんです。
「いや、来てくれただけでうれしいですよ」
くらいのことを言われて、
誰もができることだけをお願いされたり、
「ちょっと考えてみて」と言われながら
答えがわからなくてもいいテーマを渡されたり、
‥‥それは、つらい(笑)。
- 水野
- それはほんとうにつらいと思います。
- 糸井
- その違う局面で、歌を作るときに
「よし、驚かせてやるぞ!」と思うときの
あざとさみたいなものが
浮かび上がってくるかどうかを
問われますよね。
- 水野
- はああ、そうか‥‥そんなこと聞いたら、
急に就職したくなっちゃいます(笑)。
- 糸井
- それはおもしろいと思いますよ。
- 水野
- うん、おもしろいでしょうね。
そのとき自分に、どんなことができるか。
(つづきます)
2016-10-28-FRI