- 水野
- 歌詞を書いたり、ことばをつむいだりって、
「シンプルにしよう」とするところが
あるじゃないですか。
ことばで表そうとするものって、
いつも、ことば自体より大きい。
たとえば好きな人へ
「愛してます」と言うときの気持ちって、
「愛してます」ということばよりも
大きくて、深い。
それを無理やり「愛してます」という
ことばに詰め込んで渡すじゃないですか。
- 糸井
- そうだね。
- 水野
- その「シンプルにする」ことと、
「現実のややこしさ」は矛盾すると思ってて。
で、ぼくはいつも
「シンプルにしたい」と思いながら、
「ややこしいことって素敵だ」
と思ってるんです。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- 水野
- で、糸井さんの書かれたコピーの
「ほしいものが、ほしいわ。」とかって、
そのややこしい現実のおもしろさを、
すごくシンプルに言い表してると思うんです。
あのことば、すごいなと思ってて。
- 糸井
- ああ、シンプルにできたらいいなとは
いつも狙ってますね。
- 水野
- でも糸井さんも、ややこしいことのほうが
素敵だと思っているんですよね?
- 糸井
- おおもとは、ややこしいからおもしろい。
だって、そのシンプルなことを
考えるようになったのは、
現実がややこしかったからですから。
- 水野
- ああ。たしかに。
- 糸井
- ‥‥あと、いまの水野さんのお話で
「ことばが表すものよりも、
表わそうとしたもののほうが大きい」
というのは、
そうじゃない人もいるから、
またややこしいんですよ。
- 水野
- あ、そうですか?
- 糸井
- つまり、そんなに愛してなくても
「愛してる」と言いたがる人がいるんですよ。
あと
「それ嘘でしょ?」「思ってないでしょ?」が
あるのもことばだし。
- 水野
- はい(笑)。
- 糸井
- だから、ことばはいつでも
「表したい」と「人に伝えたい」が
交差するところにある。
そういうなかで、ストン!と
気持ち良く落とし穴に落ちるみたいな
ことばができたら、
ものすごくうれしいですよね。
なかなか狙ってできないですけど。
- 水野
- そうですね。
難しいですけど、やりたいですね。
- 糸井
- ぼくは自分でそのややこしい現実を
シンプルに言い表せたな、と思った例が
ひとつあるんです。
- 水野
- はい、なんでしょう?
- 糸井
- それは「何になりたいですか?」と
聞かれたときの答えで、
ぼくがとくに気に入っているのが、
「ホームランになりたい」なんです。
- 水野
- すごい、「ホームラン」。
考えたこともなかった(笑)。
- 糸井
- 「ホームラン」って、出来事だから、
取り出して見ることもできない。
でも、野球場にいると、
明らかに見えるじゃないですか。
で、あれになりたいというのが、
これまででいちばん
ぼくが自分の欲を言えた感じなんです。
- 水野
- 「ホームラン」は
なにか成し遂げた感じもしますね。
1個を超えているような。
- 糸井
- 「球場」があって、みんなの「視線」があって、
ゲームのなかで何かが起こる「大事件」という。
- 水野
- いろんな感情が渦巻くのもいいですね。
チームにとっては喜びだけど、
投手にとっては悲しみで。
あと、なにか意志も感じられて。
- 糸井
- そうそう、そうなんですよ。
形はないけど、明らかにあるもので。
- 水野
- いいですね。
- 糸井
- そう、いままで自分が考えたなかで、
いちばん好きな答えなんです。
でも、説明はそれ以上できないし。
そして、みんなが知ってるし。
飛距離もいいし。
「なに、それ、遠くまで打つ?」みたいな
雑さもあって(笑)。
- 水野
- いま、ぼくにとってのそういうことばって、
なんだろう、と思ったんですが。
- 糸井
- ありますか?
- 水野
- 「どんな歌が書きたいですか?」の答えで、
いまの暫定一位が
「桜のような歌」ということばなんです。
ぼくら、デビュー曲も
「SAKURA」と言うんですけど。
- 糸井
- 桜。
- 水野
- 桜って、きれいなんだけど、
ただ咲いてるだけできれいというか。
たとえば震災があったときとかに、
「お前をなぐさめてやるぞ」という感じでは
咲かないじゃないですか。
季節が来ると咲いて、同じところで咲いてて、
彼は自分がきれいっていう価値も
ぜんぜん知らなくて、ただ咲いてる。
そして、見るほうがそこに
「この桜を亡くなったお母さんと見たなあ」とか、
「入学式のこと、思い出すなあ」とか
「もう春か、やばいなあ。新年度だ」みたいに
勝手に思いを寄せるじゃないですか。
そういう歌を作れたらと思うんです。
歌って、そういうものになれる気がするから。
- 糸井
- いいですね。
- 水野
- あと、さきほどの「ホームラン」の話で
思い出したのが、
「いきものがかり」の山下とぼくは、
小学校のときからの付き合いなんですが、
彼のことばですごく影響を受けたことがあって。
‥‥って、メンバーだし
ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。
- 糸井
- うん。
- 水野
- 10代のときとか、音楽をはじめると、
大人たちが「夢は何だ?」と聞いてくるんですね。
- 糸井
- 言うね(笑)。
- 水野
- そして、周りの人たち、
たとえばライブハウスの店長とかが
「おまえら、ぜったい武道館行けよ。
夢叶えろよ」
とか言ってくれるんです。
でも、ぼくはそこにずっと違和感を感じてて。
- 糸井
- うんうん。
- 水野
- それを、あるとき山下が言ったのは、
「自分はそれを夢にしたくない。
だって、武道館とかって到達点だから。
夢を点でとらえると、
終わっちゃうからつまんないじゃん」って。
そして彼が思う「点じゃない夢」というのは
「最期死ぬときに
『ああ、楽しかった』と言って
終わるのが夢だ」みたいな。
だから彼は、
「高校時代のいまも日常が最高だし、
この状態のままというか、
ずっと『日常最高』という状態のまま、
最後まで生きていきたい。
それが自分の唯一の夢だ」
みたいに言ってて。
そこにぼくも「おお、いいなあ」と思って。
- 糸井
- ああ、いいね。
「夢」ということばには、
みんな、ほんとうに悩まされますよね。
- 水野
- そう、ずっと言われるんですよ。
デビュー当初なんて
「夢について語ってください」
みたいな話とか来て、
「いやいや、違うでしょう」
とか思ったりして。
夢って「夢がある」という事実だけで
得られる快楽があると思うんですよ。
でもそれ、すごくつまらないと思ってて。
- 糸井
- それ、麻薬的な快楽だからね。
- 水野
- そうなんです。
何もしていなくても気持ちよくなれてしまう。
さらに、その「夢」ということばで
身を崩す人もたくさんいて、
すごく精神が辛くなったり、
どうすればいいかわからなくなったり。
それは、いろんな人に不幸なはずだし。
- 糸井
- 夢って、語るとなまじ拍手が来ちゃうから、
それにやられちゃうと思うんです。
- 水野
- たしかに。そうですね。
(つづきます)
2016-11-01-TUE