HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

いまは走れば、
いいんじゃない?
<対談> 水野良樹(いきものがかり)× 糸井重里
9.健康に気をつけてください。
糸井
「ああ、楽しかった」と言って
死んでいくのは、ぼくも憧れですね。
最期にそう言いたいんですよね。
水野
ぼくもそうです。
糸井
ただ、このごろ
「それは難しいかも」と思うんです。
いまは病気が絡んで死にますから。
やっぱり「苦しい!」って死ぬかもしれない。
水野
実は最近、死を身近に感じることが
いくつかあったんですが、そのなかで
「普通は何も言わずに死んでいくのかも」
と思いました。
糸井
そうなんですよね。
「ああ、楽しかった」とか、
なかなか言えないんですよ。
水野
実は先日、とても近い親類が倒れて。
戻ってきたんで、よかったんですけど。

ぼくが出たテレビ番組を見て
「楽しかったね」とメールを送ってきたあと、
「ちょっと体調悪いから、寝るわ」
とか言ってたら、
そのまま急に具合を悪くして。

人間だれしも突然何が起こるか
わからないんだな、と思って。

そう思うと、すごくありきたりですけど、
「一瞬一瞬を大事に生きよう」って
思うんですよ。
糸井
いや、そのとおりだと思うよ。
水野
あと、ぼく自身もいま33ですけど、
このまえ人間ドックうけたら
ほんのちょっとだけひっかかったんです。
再検査だって言われて。
結果的にまったく大丈夫だったんですけど、
もしなにかあったら、
最悪の場合、死に直結するじゃないですか。
「あ、死の告知って、こんなふうにくるんだ」と
初めて思って。
糸井
ああ。
水野
だからそのとき、よくある
「一瞬一瞬を大事にしよう」とか
「健康を大切に」とかのことばって、
ほんとに真理なんだな、と思いました。
糸井
そうそう、そういうことば、
あちこちに貼っときたいよね(笑)。
いや、ほんとだよ。
わかってても、なかなかできないから。
水野
そうなんです、
なかなかできないですよね。
糸井
できないんだよ。
水野
そういえば、先日ライブツアーをしていて、
いつもアンコールのときにMCをするんです。
そういうときっていつも、
ちょっといいことを言おうとするんですね。
だけど前回、いろいろ考えて
「もう、いいこと言うのやめよう」
と思ったんです。
で、最後に言ったのが
「健康に気をつけてください」だったんですよ。
糸井
ああー。
水野
そうすると、会場の人たちは
ふざけてると思って、
一瞬笑いが起きるんです。
糸井
だけど、真剣なんだよね。
水野
そうなんです。
「こんなふうに集まれる機会なんて、
次にいつ訪れるかわからないから、
また会えるよう、みんな健康に気をつけてね」
みたいなことを言って、
みんな「あぁ」って
にこやかに帰っていったんですけど、
これまででいちばんMCに反応があったのは、
そのツアーだったんですよ。
糸井
それ、本気だったからだろうね。
水野
だと思うんです。
健康に不安を抱えているかたとか、
近い時期に大切な人を亡くされたかたが
「あのときに一番ぐっときました」
とか反応してくれたりして。
糸井
あと、そのとき笑った人も
笑った人でいいよね。
水野
そうなんですよ。
そして、その人たちもいつか、
ぼくみたいに気づくときがあるかなと。
糸井
ねえ。
水野
そして、そんなことを言いながらも、
ぼくもそのうち忘れると思うんですよね。
いまはまだ元気だから。
糸井
そういうことについては、
思い出したり忘れたりを繰り返しながら、
生きるんですよね。
だって、ぼくは水野さんの倍も生きてるけど、
まだ1日1日を大切にできてないですから。
残りそんなにあるはずがないんだよ。
なのにまだ大事にできてない(笑)。
水野
(笑)。
糸井
年をとるにつれ、そのことを
ちょっとだけ思い出す機会が増えるわけ。
とはいえ、それにあわせて
すごくしっかりと1日を生きるかといったら、
それはできてない。

‥‥現世ってきっと、
しっかり生きるのとはまた違う部分、
さぼって、ソファでゴロゴロしてるのまで含めて、
魅力的なんじゃないかな。
水野
それ、すごく共感します。
実はいま、ぼくがいちばん好きな時間って、
家に帰って、嫁とポテトチップスを食べながら
『有吉反省会』を見る時間なんです(笑)。
糸井
あの番組、よくできてるんだよね。
水野
はい、とりとめもない感じなのに、すばらしい。
自分の人生がそういうのを
楽しむ時間だけでいいとは言えないんですけど。
糸井
それはやっぱり言えないですよ。
だけど、そこの良さを発見しただけ、
大人になってるんじゃない?
そのよさ、若いときには言えないと思う。
水野
そうですね。
糸井
でも『有吉反省会』という番組もコンテンツだし、
ポテトチップスもソファもコンテンツだし。
まあ、嫁も生きたコンテンツだし。
そういうすばらしいコンテンツにどっぷりつかって
「受け手って楽しいなあ」
と思う時間って、最高だよね。
つまり、コンテンツの「受け手」って、
やっぱりそれはそれですばらしいことで。
水野
あ、「受け手」ってとらえるんですね。
糸井
うん。ユーザーであり、リスナーであり、
コンシューマーであり。
水野
あ、いま、わかりました。
なに言ってるんだって感じですけど、
「完全に受け手になりきっちゃう」だったら
それはぼくは嫌なんです。
やっぱり自分も作りたいんです。
「自分も作りたい」とか「がんばりたい」とか、
思っちゃいます。
糸井
それはそうだよ。
神様に
『すべての時間を
いちばん幸せな時間にしてあげる』
って言われたら困るでしょ?
水野
はい、それをいま
教えてもらったような気持ちです(笑)。
(つづきます)
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2016-11-02-WED