- 糸井
- 「ああ、楽しかった」と言って
死んでいくのは、ぼくも憧れですね。
最期にそう言いたいんですよね。
- 水野
- ぼくもそうです。
- 糸井
- ただ、このごろ
「それは難しいかも」と思うんです。
いまは病気が絡んで死にますから。
やっぱり「苦しい!」って死ぬかもしれない。
- 水野
- 実は最近、死を身近に感じることが
いくつかあったんですが、そのなかで
「普通は何も言わずに死んでいくのかも」
と思いました。
- 糸井
- そうなんですよね。
「ああ、楽しかった」とか、
なかなか言えないんですよ。
- 水野
- 実は先日、とても近い親類が倒れて。
戻ってきたんで、よかったんですけど。
ぼくが出たテレビ番組を見て
「楽しかったね」とメールを送ってきたあと、
「ちょっと体調悪いから、寝るわ」
とか言ってたら、
そのまま急に具合を悪くして。
人間だれしも突然何が起こるか
わからないんだな、と思って。
そう思うと、すごくありきたりですけど、
「一瞬一瞬を大事に生きよう」って
思うんですよ。
- 糸井
- いや、そのとおりだと思うよ。
- 水野
- あと、ぼく自身もいま33ですけど、
このまえ人間ドックうけたら
ほんのちょっとだけひっかかったんです。
再検査だって言われて。
結果的にまったく大丈夫だったんですけど、
もしなにかあったら、
最悪の場合、死に直結するじゃないですか。
「あ、死の告知って、こんなふうにくるんだ」と
初めて思って。
- 糸井
- ああ。
- 水野
- だからそのとき、よくある
「一瞬一瞬を大事にしよう」とか
「健康を大切に」とかのことばって、
ほんとに真理なんだな、と思いました。
- 糸井
- そうそう、そういうことば、
あちこちに貼っときたいよね(笑)。
いや、ほんとだよ。
わかってても、なかなかできないから。
- 水野
- そうなんです、
なかなかできないですよね。
- 糸井
- できないんだよ。
- 水野
- そういえば、先日ライブツアーをしていて、
いつもアンコールのときにMCをするんです。
そういうときっていつも、
ちょっといいことを言おうとするんですね。
だけど前回、いろいろ考えて
「もう、いいこと言うのやめよう」
と思ったんです。
で、最後に言ったのが
「健康に気をつけてください」だったんですよ。
- 糸井
- ああー。
- 水野
- そうすると、会場の人たちは
ふざけてると思って、
一瞬笑いが起きるんです。
- 糸井
- だけど、真剣なんだよね。
- 水野
- そうなんです。
「こんなふうに集まれる機会なんて、
次にいつ訪れるかわからないから、
また会えるよう、みんな健康に気をつけてね」
みたいなことを言って、
みんな「あぁ」って
にこやかに帰っていったんですけど、
これまででいちばんMCに反応があったのは、
そのツアーだったんですよ。
- 糸井
- それ、本気だったからだろうね。
- 水野
- だと思うんです。
健康に不安を抱えているかたとか、
近い時期に大切な人を亡くされたかたが
「あのときに一番ぐっときました」
とか反応してくれたりして。
- 糸井
- あと、そのとき笑った人も
笑った人でいいよね。
- 水野
- そうなんですよ。
そして、その人たちもいつか、
ぼくみたいに気づくときがあるかなと。
- 糸井
- ねえ。
- 水野
- そして、そんなことを言いながらも、
ぼくもそのうち忘れると思うんですよね。
いまはまだ元気だから。
- 糸井
- そういうことについては、
思い出したり忘れたりを繰り返しながら、
生きるんですよね。
だって、ぼくは水野さんの倍も生きてるけど、
まだ1日1日を大切にできてないですから。
残りそんなにあるはずがないんだよ。
なのにまだ大事にできてない(笑)。
- 水野
- (笑)。
- 糸井
- 年をとるにつれ、そのことを
ちょっとだけ思い出す機会が増えるわけ。
とはいえ、それにあわせて
すごくしっかりと1日を生きるかといったら、
それはできてない。
‥‥現世ってきっと、
しっかり生きるのとはまた違う部分、
さぼって、ソファでゴロゴロしてるのまで含めて、
魅力的なんじゃないかな。
- 水野
- それ、すごく共感します。
実はいま、ぼくがいちばん好きな時間って、
家に帰って、嫁とポテトチップスを食べながら
『有吉反省会』を見る時間なんです(笑)。
- 糸井
- あの番組、よくできてるんだよね。
- 水野
- はい、とりとめもない感じなのに、すばらしい。
自分の人生がそういうのを
楽しむ時間だけでいいとは言えないんですけど。
- 糸井
- それはやっぱり言えないですよ。
だけど、そこの良さを発見しただけ、
大人になってるんじゃない?
そのよさ、若いときには言えないと思う。
- 水野
- そうですね。
- 糸井
- でも『有吉反省会』という番組もコンテンツだし、
ポテトチップスもソファもコンテンツだし。
まあ、嫁も生きたコンテンツだし。
そういうすばらしいコンテンツにどっぷりつかって
「受け手って楽しいなあ」
と思う時間って、最高だよね。
つまり、コンテンツの「受け手」って、
やっぱりそれはそれですばらしいことで。
- 水野
- あ、「受け手」ってとらえるんですね。
- 糸井
- うん。ユーザーであり、リスナーであり、
コンシューマーであり。
- 水野
- あ、いま、わかりました。
なに言ってるんだって感じですけど、
「完全に受け手になりきっちゃう」だったら
それはぼくは嫌なんです。
やっぱり自分も作りたいんです。
「自分も作りたい」とか「がんばりたい」とか、
思っちゃいます。
- 糸井
- それはそうだよ。
神様に
『すべての時間を
いちばん幸せな時間にしてあげる』
って言われたら困るでしょ?
- 水野
- はい、それをいま
教えてもらったような気持ちです(笑)。
(つづきます)
2016-11-02-WED