- 水野
- 糸井さんは、物事をとにかく
ものすごく引いて見るんですね。
それが今日、すごく感じたことです。
- 糸井
- そうですね、年を追うごとに、
どんどんそうなったかもね。
カメラのズームレンズじゃないけど、
近づくことと引くことって、同じなんですよ。
- 水野
- よく言いますよね、
顕微鏡でずっと見ていったら、
宇宙みたいに見えたって。
- 糸井
- そう、近くでよーく見ることと、
それこそ地球規模まで引いて見るところは、
通じていると思うんです。
『ドコノコ』というアプリをしていても
それは感じることです。
ご近所の犬のことがわかるから、
そのためだけに使ってもいい。
「あの子、よく会うなあ」という
相手を追いかけるだけで、じゅうぶん楽しいですから。
でも同時に、たとえばロシアの犬のことも知れる。
そしてロシアとチェチェンの
紛争みたいなことがあったときに、
チェチェンの犬のことも知れる。
で、敵味方同士でも、登録してたら、
犬つながりで両方のことを知れるんですよね。
- 水野
- 国同士は戦争をしてるかもしれないけど、
そこでつながれるかもしれない。
- 糸井
- そうなんです。
「つながってるにもかかわらず戦争してる」
とも言えるし。
ほかにも、たとえばあるアラブの国の犬を知って、
「砂漠の犬ってこうなんだ」みたいなこともある。
もしさらにそこで紛争が起こったとして、
「最近あの犬いないんだよね」となったら、
ニュースで見る戦争じゃないものが見える。
もしかしたら飼い主が難民になって
ヨーロッパに向かい、
「あ、ドイツに行ったんだ!」となるかもしれない。
もちろん、わからないですよ、
こういったことがどれだけ起きるかは。
でも、みんなが登録していくことによって、
そんなこともできてしまう可能性がある。
『ドコノコ』を使って、
人間にめんどうを見られなければ生きていけない
いきもののネットワークが、地球を覆うんですよ。
- 水野
- へえぇ‥‥大きい。
ほんとうに引きますね(笑)。
そういう話を聞いてると、
ぼくはもう、こどもみたいにワクワクして、
「ほんとに歌だけじゃないなあ」と
思ってしまいます。
ぼくはいまは歌を作ることで
自分を肯定してますけど、
自分が「夢」や「楽しいこと」ということばで
表そうとしてるものは、
べつに歌じゃなくてもできるかもしれない。
もちろん、歌でもできるけど。
- 糸井
- それは「歌が出身地です」ということなんじゃない?
「歌をやってたから、そういうことができたんだね」
って言われるようなことが、
これから、できるんじゃないかな。
- 水野
- あ、そうか。
- 糸井
- ぼくはなんだかんだ広告が出身地なんです。
広告って「ぜんぶ匿名」で、
「人に通じないという前提」でコピーを書く。
その2つの視点が、けっこう
いまの自分を形成していると思っています。
‥‥「いきものがかり」で
いちばん売れたアルバムって、何万枚くらいですか?
- 水野
- たしか150万枚だったかな。
- 糸井
- すごいですね。
でも、1回売れるともうその規模が
イメージできてますよね?
- 水野
- そうですね、はい。150万。
- 糸井
- でもそれを1000万にしろって言われたら、
どうですか?
- 水野
- ちょっと困りますけど、
でも‥‥やりたいんですよ。
- 糸井
- やりたいよねえ。
なにかというと、ぼくはいままで、
100万人規模の人までを
相手にできていれば楽しかったんです。
どんな大きなコマーシャルでも
「100万人以上は通じないよな」という思いがあって。
- 水野
- ええ。
- 糸井
- でも、この『ドコノコ』はもっといきたいんです。
このアプリは、ぼくの長い人生のなかで初めて
1000万人規模とか億単位のことを
やりたくなったものなんですよ。
世界にまで拡げられたら、
そのくらいの人たちまで届くかもしれない。
それができたら、どんな景色が見えるだろうって。
- 水野
- わぁ。ぼくも糸井さんの年齢になったとき、
それくらいのことが言えてるかな。
言えてたらいいな、と思います。
- 糸井
- でも、オリンピックのときの曲の
根底にある思いは、
1000万人にも通じるものだったでしょうし。
水野さんのそういうことだって、
明日にも訪れるかもしれないですよ。
- 水野
- はい、自分の作品については、
なかなか客観的に見られないですけど
‥‥そうですね。
いつか『上を向いて歩こう』みたいな
曲ができたらと思っています。
- 糸井
- あの曲はすごいよね。
- 水野
- はい、憧れの曲なんです。
億単位、もしかしたらそれ以上の単位で
何十年と愛され続けていて。
世界にも届いていて。
でも、そういうことを実現した歌は
これまでいくつもあるし、
可能性はぜったいあるはずだと思ってて。
- 糸井
- 水野さんはすでにその尻尾みたいなものを
つかんだことのある人だから、
ぼくよりもっとリアリティがあるかもね。
それ、楽しい話ですよね。
- 水野
- 頑張りたいんですけどね。
- 糸井
- いや、やろうよ。
やろうよっていうのもあれだけど(笑)。
- 水野
- はい、やりたいです(笑)。
- 糸井
- ‥‥いや、こういうね、
垣根もサイズもぜんぶ超えちゃった、
しかもビジネスの話でもなんでもない話が、
年の違いも越えてやりとりできるって、
幸せな時代ですよね。
- 水野
- ぼくは今日、糸井さんと自分の考えていることに
通じる部分があることがわかっただけでも、
すごくうれしかったです。
- 糸井
- それはぼくもですよ。
水野さんと話が通じるということは、
その後ろ側にいる人たちにも
話が通じるということだと思うから。
「‥‥なんだ、みんな通じるじゃん」みたいな。
そして、今度はいっしょになにかできたら、
またおもしろいですね。
- 水野
- それはもう、ぜひ。
- 糸井
- いま勝手に思ったことだけど、
たとえば『ドコノコ』つながりで、
「犬と猫と人間がいっしょに暮らすこと」
についての歌が作れたりしたら、
すごくうれしいな。
犬と猫と人間の
「どうしていっしょにいるんだろう?」は、
ぼくにはすごく不思議で、おもしろいんですよね。
そして『ドコノコ』がそういうところから
出てきたものなんだ、ということが伝わったら
それは誇らしいですよね。
- 水野
- 作るヒントにはぜったいなりますね。
- 糸井
- ね、もし水野さんだからこそのスタンスで
そういう犬や猫の曲ができたら、うれしいな。
‥‥だって水野さん、
「いきものがかり」だから。
その係でしょう?って(笑)。
- 水野
- わぁ(笑)。
すごい、きれいにまとまるなあ。
そうですね。すごい。そうだった。
- 糸井
- じゃあ、なにができるかわからないけれど、
また打ち合わせをしましょう(笑)。
- 水野
- はい。長い打ち合わせをしたいです。
- 糸井
- 打ち合わせって、いちばんおもしろいんだよね。
異なる人同士が真剣に考えを持ち寄ることで、
何かが見えてきますよね。
- 水野
- ぼく、「いきものがかり」をやってきて、
楽しいことってすごくたくさんあるんですけど、
なかでも、高校、大学くらいのときかな。
山下とずっと話をしてたときが
とりわけ楽しかったんですよ。
当時、いつも山下の車で移動してたんですけど、
そのときぼくはいつも彼の助手席に座って
ふたりでずーっと
「いきものがかり」のことを話してたんです。
- 糸井
- それは楽しいよ。
- 水野
- ほんとうに細かいことまでの意見交換を
ずっとしていて、
「次のライブのこの曲はこうしたほうが」とか、
「ボーカルの吉岡は
歌うことに集中したいタイプだから、
俺らであいつを助けてあげよう。
あいつは歌に集中してもらって、
考えることはとにかく俺らでやろう」とか。
そうやって、車のなかで話してたのが
すばらしく楽しかったんですよ。
- 糸井
- それはもう、さきほどの、
山下の言ってた人生そのものだね。
そういう生きかたをしたいわけでしょう?
- 水野
- はい、そうなんです。
話してたのは、ほんとに子供のような
「『笑っていいとも!』に出てみたい」とか、
そんな夢ですけど。
それでも、
「じゃあ出るにはどうしたらいいか」って、
二人でバカみたいにずっと
話しあうわけです。
「こういうことをしなきゃだめだ」とか、
「いや、このラジオに出なきゃ」とか、
なんにも世間を知らないのに。
言ってることがもう、楽しくて。楽しくて。
- 糸井
- それだね。水野さん、それをやればいい。
そういうことって、
大人になってからもできるから。
ぼくはいまもやってるよ、そういうこと。
- 水野
- うらやましいです。したいです。
がんばります(笑)。
- 糸井
- しよう、しよう。
また会いましょうよ。
- 水野
- はい、ぜひ。
また会いましょう。
(おしまいです。お読みいただき、
ありがとうございました)