HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

いまは走れば、
いいんじゃない?
<対談> 水野良樹(いきものがかり)× 糸井重里
10.山下と車のなかで。
水野
糸井さんは、物事をとにかく
ものすごく引いて見るんですね。
それが今日、すごく感じたことです。
糸井
そうですね、年を追うごとに、
どんどんそうなったかもね。
カメラのズームレンズじゃないけど、
近づくことと引くことって、同じなんですよ。
水野
よく言いますよね、
顕微鏡でずっと見ていったら、
宇宙みたいに見えたって。
糸井
そう、近くでよーく見ることと、
それこそ地球規模まで引いて見るところは、
通じていると思うんです。

『ドコノコ』というアプリをしていても
それは感じることです。
ご近所の犬のことがわかるから、
そのためだけに使ってもいい。
「あの子、よく会うなあ」という
相手を追いかけるだけで、じゅうぶん楽しいですから。

でも同時に、たとえばロシアの犬のことも知れる。
そしてロシアとチェチェンの
紛争みたいなことがあったときに、
チェチェンの犬のことも知れる。
で、敵味方同士でも、登録してたら、
犬つながりで両方のことを知れるんですよね。
水野
国同士は戦争をしてるかもしれないけど、
そこでつながれるかもしれない。
糸井
そうなんです。
「つながってるにもかかわらず戦争してる」
とも言えるし。

ほかにも、たとえばあるアラブの国の犬を知って、
「砂漠の犬ってこうなんだ」みたいなこともある。

もしさらにそこで紛争が起こったとして、
「最近あの犬いないんだよね」となったら、
ニュースで見る戦争じゃないものが見える。
もしかしたら飼い主が難民になって
ヨーロッパに向かい、
「あ、ドイツに行ったんだ!」となるかもしれない。

もちろん、わからないですよ、
こういったことがどれだけ起きるかは。

でも、みんなが登録していくことによって、
そんなこともできてしまう可能性がある。
『ドコノコ』を使って、
人間にめんどうを見られなければ生きていけない
いきもののネットワークが、地球を覆うんですよ。
水野
へえぇ‥‥大きい。
ほんとうに引きますね(笑)。

そういう話を聞いてると、
ぼくはもう、こどもみたいにワクワクして、
「ほんとに歌だけじゃないなあ」と
思ってしまいます。
ぼくはいまは歌を作ることで
自分を肯定してますけど、
自分が「夢」や「楽しいこと」ということばで
表そうとしてるものは、
べつに歌じゃなくてもできるかもしれない。
もちろん、歌でもできるけど。
糸井
それは「歌が出身地です」ということなんじゃない?
「歌をやってたから、そういうことができたんだね」
って言われるようなことが、
これから、できるんじゃないかな。
水野
あ、そうか。
糸井
ぼくはなんだかんだ広告が出身地なんです。
広告って「ぜんぶ匿名」で、
「人に通じないという前提」でコピーを書く。
その2つの視点が、けっこう
いまの自分を形成していると思っています。

‥‥「いきものがかり」で
いちばん売れたアルバムって、何万枚くらいですか?
水野
たしか150万枚だったかな。
糸井
すごいですね。
でも、1回売れるともうその規模が
イメージできてますよね?
水野
そうですね、はい。150万。
糸井
でもそれを1000万にしろって言われたら、
どうですか?
水野
ちょっと困りますけど、
でも‥‥やりたいんですよ。
糸井
やりたいよねえ。
なにかというと、ぼくはいままで、
100万人規模の人までを
相手にできていれば楽しかったんです。
どんな大きなコマーシャルでも
「100万人以上は通じないよな」という思いがあって。
水野
ええ。
糸井
でも、この『ドコノコ』はもっといきたいんです。
このアプリは、ぼくの長い人生のなかで初めて
1000万人規模とか億単位のことを
やりたくなったものなんですよ。
世界にまで拡げられたら、
そのくらいの人たちまで届くかもしれない。
それができたら、どんな景色が見えるだろうって。
水野
わぁ。ぼくも糸井さんの年齢になったとき、
それくらいのことが言えてるかな。
言えてたらいいな、と思います。
糸井
でも、オリンピックのときの曲の
根底にある思いは、
1000万人にも通じるものだったでしょうし。
水野さんのそういうことだって、
明日にも訪れるかもしれないですよ。
水野
はい、自分の作品については、
なかなか客観的に見られないですけど
‥‥そうですね。
いつか『上を向いて歩こう』みたいな
曲ができたらと思っています。
糸井
あの曲はすごいよね。
水野
はい、憧れの曲なんです。
億単位、もしかしたらそれ以上の単位で
何十年と愛され続けていて。
世界にも届いていて。

でも、そういうことを実現した歌は
これまでいくつもあるし、
可能性はぜったいあるはずだと思ってて。
糸井
水野さんはすでにその尻尾みたいなものを
つかんだことのある人だから、
ぼくよりもっとリアリティがあるかもね。
それ、楽しい話ですよね。
水野
頑張りたいんですけどね。
糸井
いや、やろうよ。
やろうよっていうのもあれだけど(笑)。
水野
はい、やりたいです(笑)。
糸井
‥‥いや、こういうね、
垣根もサイズもぜんぶ超えちゃった、
しかもビジネスの話でもなんでもない話が、
年の違いも越えてやりとりできるって、
幸せな時代ですよね。
水野
ぼくは今日、糸井さんと自分の考えていることに
通じる部分があることがわかっただけでも、
すごくうれしかったです。
糸井
それはぼくもですよ。
水野さんと話が通じるということは、
その後ろ側にいる人たちにも
話が通じるということだと思うから。
「‥‥なんだ、みんな通じるじゃん」みたいな。

そして、今度はいっしょになにかできたら、
またおもしろいですね。
水野
それはもう、ぜひ。
糸井
いま勝手に思ったことだけど、
たとえば『ドコノコ』つながりで、
「犬と猫と人間がいっしょに暮らすこと」
についての歌が作れたりしたら、
すごくうれしいな。

犬と猫と人間の
「どうしていっしょにいるんだろう?」は、
ぼくにはすごく不思議で、おもしろいんですよね。

そして『ドコノコ』がそういうところから
出てきたものなんだ、ということが伝わったら
それは誇らしいですよね。
水野
作るヒントにはぜったいなりますね。
糸井
ね、もし水野さんだからこそのスタンスで
そういう犬や猫の曲ができたら、うれしいな。

‥‥だって水野さん、
「いきものがかり」だから。
その係でしょう?って(笑)。
水野
わぁ(笑)。
すごい、きれいにまとまるなあ。
そうですね。すごい。そうだった。
糸井
じゃあ、なにができるかわからないけれど、
また打ち合わせをしましょう(笑)。
水野
はい。長い打ち合わせをしたいです。
糸井
打ち合わせって、いちばんおもしろいんだよね。
異なる人同士が真剣に考えを持ち寄ることで、
何かが見えてきますよね。
水野
ぼく、「いきものがかり」をやってきて、
楽しいことってすごくたくさんあるんですけど、
なかでも、高校、大学くらいのときかな。
山下とずっと話をしてたときが
とりわけ楽しかったんですよ。
当時、いつも山下の車で移動してたんですけど、
そのときぼくはいつも彼の助手席に座って
ふたりでずーっと
「いきものがかり」のことを話してたんです。
糸井
それは楽しいよ。
水野
ほんとうに細かいことまでの意見交換を
ずっとしていて、
「次のライブのこの曲はこうしたほうが」とか、
「ボーカルの吉岡は
歌うことに集中したいタイプだから、
俺らであいつを助けてあげよう。
あいつは歌に集中してもらって、
考えることはとにかく俺らでやろう」とか。
そうやって、車のなかで話してたのが
すばらしく楽しかったんですよ。
糸井
それはもう、さきほどの、
山下の言ってた人生そのものだね。
そういう生きかたをしたいわけでしょう?
水野
はい、そうなんです。
話してたのは、ほんとに子供のような
「『笑っていいとも!』に出てみたい」とか、
そんな夢ですけど。
それでも、
「じゃあ出るにはどうしたらいいか」って、
二人でバカみたいにずっと
話しあうわけです。
「こういうことをしなきゃだめだ」とか、
「いや、このラジオに出なきゃ」とか、
なんにも世間を知らないのに。
言ってることがもう、楽しくて。楽しくて。
糸井
それだね。水野さん、それをやればいい。
そういうことって、
大人になってからもできるから。
ぼくはいまもやってるよ、そういうこと。
水野
うらやましいです。したいです。
がんばります(笑)。
糸井
しよう、しよう。
また会いましょうよ。
水野
はい、ぜひ。
また会いましょう。
(おしまいです。お読みいただき、
ありがとうございました)
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2016-11-04-FRI