第4回 千葉県と氣志團とユーモア。
- 糸井
- この『えとえとがっせん』のたぬき、
よく見たら、口も描いてなければ
鼻もちゃんと描いてないし、
鼻の黒い部分も塗ってないじゃないですか。
これ発明ですよね。
だって、これでたぬきって分かるんだよ。
- 大島
- たしかに。
- 石黒
- かわいいですよね。
- 糸井
- うん。
- 石黒
- あ、自分で言っちゃった(笑)。
- 糸井
- こんなたぬき見たことない。
遊んでるわあ、ホントに。
これ、今売れているでしょ。
『いもうとかいぎ』と比較してどうですか?
- 石黒
- こっちの『えとえとがっせん』のほうが、
多分売れていると思います。
でも、『いもうとかいぎ』は、
絵本業界の正しい、ちゃんとした人たちが、
すごく褒めてくれるんです。
- 糸井
- 「石黒さん、こういうのもできるんじゃない」
- 石黒
- そう、そんな感じです。
「やれるんじゃん」みたいな。
- 糸井
- 「こういうところがあるんだからぁ」なんて。
- 大島
- じゃあ、『えとえとがっせん』で、
その正しい道をまた閉ざしてしまったんですね。
- 筒井
- がっかりさせちゃったね、きっと。
- 石黒
- (笑)
- 糸井
- いや、大丈夫ですよ。
やればいつでもできるという自信はついたと思います。
でも、『いもうとかいぎ』のほうも、よく見たら、
正しい人の目を隠れて変なことしてますよね。
この、ドロドロした描法とか、
でてくる金魚のおかしさとか。
- 石黒
- 実はちょっと『マッドマックス』の影響もあるんです。
- 糸井
- そうきたか。
- 石黒
- ちょっとね。ちょっとだけね。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 正統派の人は、そういう部分は見ないでしょうね。
- 大島
- よもや『マッドマックス』とは。
- 糸井
- たしかに『マッドマックス』のわけのわかんなさは、
これに通じるものがありますね。
あの映画は、「これでいいや」と
決めたチーム全体の意思がすごいですよね。
- 石黒
- あれは素晴らしいですね。
私、すっごくハマっていた時期があって、
10回くらい観ました。
WOWOWで観て、金曜ロードショーで観て、
DVDでも何度も観て。
『マッドマックス2』は特にコスチュームもヒドくて
おかしいんです。
- 糸井
- 石黒さんの作品も、一番しっかりしているのは
ユーモアの部分の骨組みですよ。
そこはちょっと譲れないくらい、
笑いについての厳しさをお持ちですよね。
- 石黒
- はい。そこしかないんです。
多分私は感動もさせられないし、
怖がらせることもできないし、
もう笑いしかないじゃん、と思ってます。
そういう中でしか育ってこなかったので。
- 糸井
- そんなに自己認識していたんですか。
- 石黒
- そうです。
- 糸井
- 大阪育ち?
- 石黒
- 千葉です。
- 糸井
- 千葉ってそういうところなの?
- 石黒
- そうですよ、ピコ太郎も出てますし。
- 糸井
- 出てますしって言われても(笑)。
あとそうだ、氣志團がいるね。
- 石黒
- 氣志團大好きです。
マツコ・デラックスも千葉ですよね。
大好きなんです、マツコ。
- 糸井
- そうそう。
マツコは千葉でキムタクと同級生だったらしいね。
あの人たちは実はお互いに本名を知ってるらしい。
- 一同
- へえー。
- 糸井
- 千葉って、漁師町のいい加減さと、
実は山のほうが多いという事実と、
住むところが少ないのに、
面積はあんなにデカいという、
そういう粗雑な感じがありますよね。
なんか、こう、「笑い飛ばせ」みたいな。
- 石黒
- そう。千葉は明るいんですよ。
ドロドロしているところも
多少あるかもしれないけれど、
根っこは明るい県民性だと思います。
- 糸井
- あとね、「恥ずかしい」という感覚が
ちょっと種類が違う気がします。
そこ恥ずかしいの? みたいな。
- 石黒
- あっ、そうなんです!
その通りです。
なんか、カッコつけてる人を見ていると、
恥ずかしくてしょうがないというか。
そこは大阪の人も同じかもしれない。
(大阪出身の編集者、筒井さんのほうを見て)
- 筒井
- そうですね。
- 糸井
- 大阪の人だと、
恥ずかしい人見ると、攻撃しちゃいますよね?
- 筒井
- つい‥‥そうですね、はい(笑)。
- 糸井
- 千葉の人たちは攻撃するんじゃなくて、
ズラして笑うんですよ。
- 筒井
- ああー、なるほど。
- 糸井
- 以前、デビューして間もない氣志團が
夜のテレビ番組に出ていたのを偶然見たんです。
そのとき、彼らが金のライマブレスレットを
付けていたんですよ。
「それは何ですか?」
「ライマブレスレット。カッコいいでしょう」
と言ってて。
ライマブレスレットは、
ある時代にテレビ局の人たちを中心に大流行して、
そのあと流行がだいぶ収まっていたのに、
氣志團がそれを付けてた。
その根性がカッコよくて、
ぼくはライマブレスレットを買ったんです。
リスペクトの意味で買いました。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- あと、彼らは木更津で
大ロックフェスをやってますよね。
- 石黒
- そうですね、「氣志團万博」を。
- 糸井
- あの力量はやっぱりすごいもんね。
永ちゃんも出演させたし。
- 石黒
- いや、氣志團はすごいですよ。
- 大島
- 石黒さんはヤンキーだったこととかあるんですか?
- 石黒
- いや、ないです。
でも兄がまあまあヤンチャで、威張ってましたね。
- 糸井
- 『ビー・バップ』とか読んでた?
- 石黒
- はい。兄が押入れにいっぱい隠してあったから、
私も全巻読みました。
私も『湘南爆走族』が好きで、全巻揃えていました。
あと、兄はジャッキー・チェンが好きでした。
昔、映画が高かったから、
うちでは1年に1回、
正月にだけ映画を観に行けたんです。
で、浅草かどっかに映画を観に行くときになって、
「どんな映画がいい?」と兄に訊いたら、
「ジャッキー・チェン」。
全然選択肢がないんです。
で、ブーブー言いながらも、
弟も私も結局ジャッキー・チェンにハマっていて。
- 糸井
- (笑)いいなぁ。
前々からどうも怪しいと思っていたんですよね、千葉は。
千葉のこと、
これからもうちょっと注意して見るようにします。
- 一同
- (笑)
- (つづきます)
2017-02-01-WED
石黒亜矢子さんの新刊2冊、好評発売中です。
『えとえとがっせん』
石黒亜矢子著 WAVE出版 税込1,620円
いつも威張っている十二支のけものに、
今度こそぎゃふんと言わせたいたぬき。
満月の夜、彼らを呼び出して、
仲間たちと一緒に勝負を挑みます。
絵巻物「十二類絵巻」を下敷きに、
大幅にアレンジした奇想天外な十二支絵本です。
『石黒亜矢子作品集』
石黒亜矢子著 玄光社 税込2,916円
石黒亜矢子さんがこれまで描いてきた、
化け猫や迫力ある妖怪など、
作品200点以上を収録した作品集です。
個展にて発表された作品も一挙掲載。