糸井 では、次の質問にいきます。
「ついきいてしまうCDを教えてください」
いいですよね、この質問も。
山下 はい。
旅先の公演の後に
その土地土地のジャズ喫茶に寄ると、
ぼくはだいたいかならず、
マイルスデイビスの
『Relaxin'』というのをかけてください、
といいます。
オーナー自慢のLPが並んでいるお店では、
なんだか知らないけどそうしています。

『Relaxin'』ぼくがいちばん最初にきいた
マイルスかもしれないし、
ジョン・コルトレーンが若くして入って、
はじまる前の声が、入っているんですよね。
ボソボソボソボソ……。
タモリ そうそう。
山下 ピアノがイントロをはじめたら、
やり直しなんかしてるんですね。
そういう臨場感がおもしろいし、
レコードの解説を、当時読んだら、
「ビールはどこだ?」「栓抜きどうしたの?」
とか、いっているらしい、と……。
なんかそれが、すごくかっこよくきこえて。
糸井 解説も読む前には、
「ビールはどこだ?」を、
「やっぱり、かっこいいなぁ」
と思っていたわけですね。
山下 そうそう。
糸井 ちょっとまぬけな気がしますが、
そういうのって、ありますよね。

ジャズのレコーディングというのは、
基本的には1発録り以外はないんですか?
山下 そんなことはないですよ。
今は特に、何度も録る人のほうが多いです。
もうぼくはずっと、1発録りですけど。
糸井 へぇ。
タモリさんのオススメの名盤というのは?
タモリ ライオネル・ハンプトンの
『スターダスト』は、くりかえしききますね。
これは、いろんな意味ですごいと思うんです。
1947年の録音だから、私、2歳の時なんですけど。

ライオネル・ハンプトンというのは、
有名なビブラフォン奏者なんですが、
ジャズフェスティバルで、寄せ集めのグループで、
この『スターダスト』を、演奏するんですが……
何かやろうって時に、集まったやつらが
共通で知っているものがそれしかなかったらしい。

で、軽くやろうというふうにして
はじまっていくんですけども、
だんだん、乗ってくるんです。
タモリ ライオネル・ハンプトンは
映画の撮影があるから、
ほんとはそこで帰らなきゃいけないのに、
いちばん、乗っちゃったんですよね。

それでものすごい演奏で……
これはモノラルなんですけれども、
若いやつにこれをきかせると、
モノラルって誰も思わないんです。
ものすごい臨場感があるんですよ。
糸井 ステレオにきこえるんですか?
タモリ ステレオにきこえるんです。
ものすごいクリア。

クリアにするために
たくさんの場所で録音してみたって、
かえってクリアじゃないというのを、
今のレコーディングの人は知らないんです。
糸井 レコーディングは、
マイク1本立てただけなんですか?
タモリ ほとんどそうだと思います。
床を足で踏んだ音も含めて、
音楽としてやっているんですね。
ものすごくリアルな演奏ですよ。
サックスとかが前に出てきて……。
糸井 今、タモリさんは、
それをCDで聴いてるんですか?
タモリ 今はCDできいています。
山下 あのなかでは、
ベースがフレーズを
いちいちクチで歌って弾いちゃうという。
糸井 きっと、この会場のお客さん、
これを買おうと思ってますよ?
山下 いいですね。
タモリ そういうの、いいですね。
山下 ライオネル・ハンプトンですよ。
ライオネル・ハンプトンの、『スターダスト』。
タモリ 『スターダスト』
糸井 きいてみたくなりますねぇ!


2005-05-09 (c)Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005