山下 さっきタモリさんから、
「アフリカとヨーロッパの音楽が
 アメリカで出会ってできたのがジャズ」
「ジャズではアフリカの記憶が語られる」
という話が出てきたけど、
ジャズの中には、
いろんなアフリカの痕跡があるんです。

リズムの中には、
ちょっとヨーロッパ的な感性では
考えられないものが混ざってきているし、
音階にもそういうものがありますし、
それに影響された和音というものも、
非常に変形して「妙なもの」になっています。
タモリ これは山下さんが
研究されているんですが、ジャズ特有の
「ブルーノート」という音があるんです。
糸井 重要そうな言葉ですね!
教科書だったらアンダーラインのところ!
タモリ 音としては、
ミとソとシというのが、
半音、ぜんぶ下がるんですよね?
山下 そうです。
この音階が、どうも、
アフリカから来てるんじゃないかと……。
糸井 ちょっとピアノで叩いていただけますか?
山下 いいですよ。



これをブルースの音階というんですけど、
これがどうも入ってきているんです。
おかげで、ジャズでは、
和音も変わってきてしまうという現象があります。

ほんとは
正調クラシック和音になるはずが、
ジャズの和音に変わってゆきます。
この話をちゃんとやると、何時間もかかりますね。
音楽大学の授業1年ぶんになってしまいますけど。

だからここでは、
ひとつの例だけとりだしてお伝えします。
正調クラシック和音に、
ジャズの和音を入れたという現象を利用して、
ジョージ・ガーシュインというジャズマンは、
『ラプソディ・イン・ブルー』
という曲を作ったんですね。

タモリさんがさっきおっしゃった
7度の音が半音さがったものに、
ふだんのクラシックどおりの5の和音をつけると、
ぶつかりが生まれる……それを
意識的に残す、というのがこの曲なんです。

ですから、
『ラプソディー・イン・ブルー』
のブルーは、青ではないんです。
あれは、ブルースのブルーです。
……思わず深入りをしてしまいました!
糸井 お、会場から拍手が!
タモリ これはいちばん大事なところです。
たとえば、ミの音が半音さがるというのは、
クラシック音楽では、
長調が短調になるという意味ですよね?
でも、ジャズではいっしょにやってしまう。
ここのところが、不思議なところなんです。
ジャズとしてきく場合には違和感がないという……。
山下 これが、タモリさんがおっしゃった、
ジャズに見られる「民族音楽」的な要素です。

たとえば、日本古来の音楽を
ドレミの音階に乗せようとすると、
同じことが起きます。
ピアノの鍵盤にない音を、
日本の音楽も、たくさん使いますから。
タモリ はい。
半音といいましたけれども、
半音の間に「四分の一音」があって、
アフリカの音楽には、
四分の一音が、よく出てくるんです。
その音は西洋の楽器では出ないから、
半音にさげて出すわけです。
山下 それで、音程を動かしますよね、
歌なんかのときは。
タモリ 「アーッ」と、少しさがるんですけど。
糸井 うまい! ものすごい!

さすがに、
ヘンな音の出しかたはセンスありますね。
タモリ 変な音は、おまかせください。
バグパイプのモノマネから、なんでもできますので。

(バグパイプのモノマネ)
山下 (笑)わはははは!
糸井 (笑)もったいないくらいです。

つまり、鍵盤で叩ける音だけを、
音だと思いこんではいけないということですね。
山下 はい、それは西洋の楽器ですから。
すべての音を12音で割ったというのも、
ものすごい発明ではあるのですけれども、
それによって、何かを切り捨ててはいるんです。
糸井 で、捨てられちゃった音が、
復讐しにやってきたみたいにして、
ジャズが生まれたわけですね……。
山下 それは言えますね!
タモリ アジアなんかでも、
おもしろいコードがあるんです。
たとえば、メジャー7という
シがフラットしないようなコードでも、
中近東の音楽なんかは、平気で、
シを、フラットさせちゃうんですよね。
それでも、違和感がないんです。

ガムランの楽器はぜんぶ手作りといわれます。
低い音は、一本の竹で出すには弱い音なので、
二本作るんですが、ふつうの西洋音楽ですと、
その二本を、同じピッチに揃えるんですよね。

でもガムランでは揃えないんです。
わざと、ズラすんですよ。
山下 そう。
糸井 揃えないんですか? へぇー!
タモリ すこしズラすんですよね。それを、わざとズラす。
糸井 わざとなんですか。
山下 わざとやることを、たのしんでいるんです。
だからほんとは高度な音感なんですよ。
タモリ はい。高度な音感なんです。
糸井 おもしろいなぁ、こういう話!


2005-05-10 (c)Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005