糸井 |
みなさん、こんばんは。
本日は「はじめてのジャズ2」という催しに
お越しくださいまして、ありがとうございます。
前回の1回目では、とにかく
僕らなりに「ジャズ」を楽しんでみたんです。
今日の2回目は、
タモリ教授のご説明にもありましたとおり、
ジャズのDNAを、たどってみようと。
つまり、ジャズがどんなふうに生まれて、
どんなふうに、僕らを楽しませてくれるのか。
その「歴史」と「豊かさ」について、
楽しみながら学んでみよう、ということなんです。
今日は、山下洋輔さんが
「フリージャズ」というご自身のスタイル以外の、
いろんな種類のジャズを演じてくださいます。
こういう、めずらしい場所に立ち会えたことじたいが
僕自身も幸せですし、
みなさんにとっても、なかなかない機会だと思います。
それでは、さっそく
すべてを握っていらっしゃる山下洋輔さんを
お呼びいたしましょう。
山下洋輔さんです、どうぞー!
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山下 |
どうも、こんばんは。 |
糸井 |
まず、オープニングの曲として、「GUGAN」。 |
山下 |
はい、はい。 |
糸井 |
山下さんオリジナルの「大フリージャズ」から
ぶちかましたわけですが
このイベントを、あの曲からはじめたというのは? |
山下 |
こういう場に参加していただくにあたって、
まず最初に「あいつは何だ」ってことを
わかってもらったほうがいいんじゃないかと。
1969年くらいに、ああいう演奏法を開発しまして、
お聴きいただいたとおり、「GUGAN」という曲は、
「グガン、グガン、ダバトトン、
グガン、ダバトトン」といっておりますから、
そういうようなタイトルがついているんです(笑)。
そして、ああいう音楽が、僕の原点なんですよ。
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糸井 |
自己紹介としての曲。 |
山下 |
名刺がわりですかね。 |
糸井 |
それじゃあ、さっそく
ジャズの歴史をたどっていきましょうか。
ちなみに、ここに座るはずのタモリさんは
ちょっと都合が悪いみたいで、
今すぐには来られないみたいなんですけど。 |
山下 |
あっはは(笑)。 |
糸井 |
まずは、ジャズ誕生以前、ですね。 |
山下 |
ジャズという言葉さえもない時代。 |
糸井 |
そんな時代に、何が醸成されていたから
ジャズという子どもが生まれたんでしょうか? |
山下 |
さっき、タモリ教授もおっしゃったけど、
アフリカ人奴隷が新大陸へ連れて来られるんですが、
最初が1619年なんです。 |
糸井 |
日本でいいますと、
徳川幕府が始まって間もないころですね。 |
山下 |
西洋音楽史でいえば、
ベートーベンなんかも、まだいません。
新大陸には、その時代以降の西洋音楽文化が、
植民地宗主国である
イギリス人、フランス人、スペイン人なんかによって
もたらされていきます。
当然、アフリカから連れてこられた人たちも
そういう西洋音楽に触れる機会はあったわけです。
100年間くらい、でしょうか。 |
糸井 |
ずいぶん、ながーい醸成期間だったんですね。 |
山下 |
クラシックを聴いていたかもしれないし、
踊りの音楽を楽しんでいたかもしれない‥‥。 |
糸井 |
はい。 |
山下 |
そういう音楽を真似しはじめたんじゃないかと、
まずは予想するわけです。ポルカとかね。 |
糸井 |
アフリカの人たちが。 |
山下 |
ええ、それと、あとひとつ。
新大陸におけるフランス人とアフリカ人の混血の人たちは
いわば「特別あつかい」だったんです。
クレオールと呼ばれている人たちですけれど。 |
糸井 |
いわば、エリートですね。 |
山下 |
そうです。フランス本国で
高等教育を受けたりもしています。
そういったクレオールたちは、
たぶん、楽器を習得する機会もあったろうし、
西洋の音楽文化に触れる機会が、とくにあった。 |
糸井 |
つまり、白人と黒人との出会い、
これがジャズの大もとであると。 |
山下 |
アメリカという新大陸で、アフリカとヨーロッパが
まるで衝突するようにして出会った。
その結果、生まれたのがジャズです。
ですから、その生まれかたからして、
ものすごいエネルギーを
内に抱え込んでいる音楽だと思うんです。 |
糸井 |
なるほど‥‥。 |
山下 |
そして、アメリカという新大陸で
ヨーロッパとアフリカが衝突して生まれた
ジャズという一種の民族学的現象は、
その後、全世界に広がっていったんです。
これには、地政学的、政治的‥‥
いろんな理由があるのかもしれないけれど、
やっぱり、その音楽の持つインパクトそのものが
すごかったんじゃないか、と思うんです。
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糸井 |
ぶつかったもの同士が、デカかった。 |
山下 |
ええ、なにしろ奴隷制度というのは、
人類史における、ものすごい悲劇じゃないですか。
その悲劇のおかげで、できてしまった音楽。
それほどまでに大きな代償を払ってできた音楽だからこそ、
強烈なエネルギーを持っているんだと思うんです。 |
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<つづきます> |