糸井 |
冒頭のタモリ教授の講義にも出てきましたけど、
ジャズが生まれるまえからあった
ブルースだとか、ワークソングだとかってうのは
まだ「ジャズ」とは呼べないんですか?
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山下 |
呼べないでしょうね。
ただ、黒人たちの音楽を整理統合して、
西洋音楽の教養でピアノ音楽にした人がいるんです。 |
糸井 |
具体的な誰か、がいるんですか? |
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山下 |
スコット・ジョプリンという黒人で、
70年代の『スティング』という映画の主題歌で使われて、
とても有名になりました。
理論も習っていた黒人ピアニストという、
当時では、かなりめずらしい人でね。
彼の同胞たちがやっていたような
アフリカの節やリズム、
これは西洋音楽には絶対にないんですよ。 |
糸井 |
ほう‥‥。 |
山下 |
黒人たちの独特なリズム感として伝えられてきたものを
整理統合して、自分の作品として曲集を出した。
それが世にいう、ラグタイムです。 |
糸井 |
ラグタイム。 |
山下 |
ええ、ダンスミュージックですね。
この音楽が1800年代の終わりごろに出版されて、
それこそ、世界中に大評判を呼んだんです。
もちろん、フランスにだって渡っていったでしょう。
かのドビュッシーも、ラグタイムに影響されて
「ゴリウォークのケークウォーク」という曲を
『子どもの領分』という組曲のなかで書いています。 |
糸井 |
昔からあるクラシックが
ラグタイムという新しい音楽に影響されて変化した、と。 |
山下 |
ええ、その証拠に、ケークウォークって、
黒人のあいだに発祥したダンスの一種なんですけど、
知らなければ、絶対に出てこない言葉ですからね。 |
糸井 |
そのあたりも、演奏してくださる? |
山下 |
ええ、もちろん、やりますよ。 |
糸井 |
あ、タモリさんがいらっしゃいました! |
タモリ |
いや、すいません、遅れて。 |
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糸井 |
今まで、どちらへ? |
タモリ |
いやあの、ちょっと仕事があったもんで。 |
糸井 |
ついさっき、
似たかたがお見えになってましたけど。 |
タモリ |
あ、そうですか。 |
糸井 |
ご親戚のかたとかですかね? |
タモリ |
ああ、さっき、すれちがった人かな。 |
山下 |
あっはは(笑)。 |
糸井 |
いま、山下さんが解説してくださっていまして。 |
山下 |
ピアノ音楽によるジャズってところをね。 |
タモリ |
ああ、大事ですねぇ。 |
山下 |
で、話をもとに戻しますと、
ラグタイムって、いっさい即興がないんです。
今では、ジャズといえば、
もう90%くらい即興が命になっていますから、
ラグタイムを
ジャズとは呼ばないって人もいるぐらいなんです。 |
糸井 |
ほおお‥‥。 |
山下 |
スコット・ジョプリンの音楽が
黒人コミュニティの踊りに使われて、
で、その踊りを
白人たちがおもしろがって真似して‥‥。
だから、ケークウォークって
黒人か白人か、いったいどっちがはじめたんだって論争が
いまだに、ありますよね。 |
糸井 |
奪い合い。 |
山下 |
そう、奪い合いです。
こういうことって、よく起きるんですよ。
ブルースにだって、主導権争いがあるし。 |
糸井 |
音楽家って、意外と主導権争いするんですね。 |
山下 |
白人音楽である「ブルーグラス」なんかも、
あれ、ブルースじゃないかとか、
逆に、黒人のほうが盗んだんだろうとか‥‥。
そういう話は、しょっちゅうありますよ。 |
タモリ |
アメリカって国は
何にも生んでないですからね! |
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糸井 |
出てきたとたんに毒舌です。 |
タモリ |
所場代取ろうとしてんですよ! |
糸井 |
どこか、さっきの「親戚のかた」みたいな‥‥(笑)。 |
<つづきます> |