ジョニー・ウィアーのProfile


日本語 English
日本語 English
index

2013-10-25-FRI
2013-10-28-MON
2013-10-29-TUE
第4回 人生
2013-10-30-WED

Part Four  Life

第4回 人生
Part Four	Life
糸井
Itoi
やっぱり、多くの可能性に囲まれて、
あれもできる、これもできるって思えすぎると、
逆に自分の道が見えなくなりますね。
Someone growing up in a big city full of opportunities may get overwhelmed by all the possibilities and have a hard time finding his own path.
ジョニー
Johnny
自分自身の内なる声を見つけるのが
難しくなってしまうかもしれません。
でも、すごく裕福な環境で生まれた人だって、
自分の人生をよくしていく余地っていうのは
必ずあるんだと思います。
大金持ちで、いい家に住んでいて、
すばらしい友だちがいて、
なにもかも恵まれててっていう人でも、
それをどうとらえるかということが大事で。
そこからはじまって、
もっと自分はよくなれるっていうふうに
考える余地っていうのは、どんな人にもあると思う。
And his own voice. Even people who have everything still have room to improve themselves. Having all the money in the world, the biggest house, the most friends, the most beautiful life-all that matters is how you look at things. If you make that into a small thing, it can be small. And you can become better from it.
糸井
Itoi
ああ、すばらしい考えですね。
あなたのそういう考えは
いったいどうやって生まれたんでしょう。
なにか、本を読んでそうなったとも思えないし。
That's a wonderful way of looking at it. I'm curious to know how you came up with these ideas. I can't imagine you got it from a book.
ジョニー
Johnny
いってみれば、人生のいろんなことを集めてる、
っていう感じなんです。
これから生きていく、自分が生きていくうえで
役に立ちそうな経験とか情報を
なるべく集めて、ためておく。
その集めたものから学んでいかないと、
自分は前に進めないなっていう感覚があります。
It's my collection. I've sort of collected information and experiences over my life, not for nostalgia's sake, but for use in the future. I believe you have to collect experiences and learn from them to move forward.
糸井
Itoi
なるほど。
I see.
ジョニー
Johnny
たとえば、ぼくがはじめてアメリカの外に出たのは
13歳のときだったんですけど、
行き先はスロベニアだったんです。
アメリカ人が初めて国外旅行に行くときって、
ふつうはカナダかイギリスなんですよね。
でもぼくはスロベニアに行った。
その経験が、その後のぼくの人生において、
旅というものを決定づけたし、
外国を旅するときに何を快適に感じるか、
自分がそこに何を期待するかというのを、
最初のスロベニア旅行が決めたと思うんです。
My first trip out of the country was when I was thirteen, and I went to Slovenia. Usually Americans go to Canada or England. I went to Slovenia. And that experience in itself shaped the rest of the way that I think about travel-the way I feel comfortable in other countries. And I know what to expect because of my first trip to Slovenia.
糸井
Itoi
あなたはいろんなことを集めるだけじゃなくて、
集めたことや、経験したことを
編集して活かしてるんじゃないかな。
I think you're a very keen observer. That you don't just collect ideas and experiences, but also edit them and put them to good use.
ジョニー
Johnny
そうです、そうです。
そういうふうにして自分の人生を
自分の好きなようにしていきたいんです。
いろんな文化、目にしたいろいろなものから、
自分で気になったものを集めて、
自分で編集して、自分のものにしたいんです。
もしも雑誌でいい着こなしを見かけたら、
切り取って、それから、
自分がいいなと思う感じに変えてしまう。
好きなことを集めて
それを自分に活かしていくことは、
ぼくにとってとても重要なことです。
Yes. I want my life to be the way I like it. I know what I like, and I can take things from other cultures, other experiences, and edit them to make them exactly what I want them to be in my life. If I see somebody in a magazine wearing an outfit I love, I'll cut it out, but I'll change it to what I want it to look like. It's very important for me to collect what I like and use it the way I like it.
糸井
Itoi
劇作家みたいだね。
物語もつくるし、舞台装置も、
音楽も、登場人物もつくる。
You're like a playwright. You write the whole set, the stage, the music, and the characters.
ジョニー
Johnny
(笑)
(laughs)
糸井
Itoi
だからこそぼくは、あなたのスケートを見て、
スケートを離れてもこの人はおもしろいだろうな、
っていうふうに確信したんです。
That's exactly why I felt that you'd be a very interesting person off the ice and anywhere in the world.
ジョニー
Johnny
ありがとうございます。
Thank you.
糸井
Itoi
個々の選手はみんなそれぞれに個性を持ってるけど、
「自分のスケーティング」というのを
あなたほど思い切り表現できている
スケーターはいないと思う。
Every skater aspires to express his or her own skating, but you've far surpassed everyone, I think.
ジョニー
Johnny
スポーツって、選手の人柄みたいなものは、
見てるほうには伝わらないんですよね。
その選手の夢とか聞く機会があるわけでもないし。
フィギュアスケートの6分間の演技、
あるいはフットボールの2時間の試合を見ても、
選手のことは、ほんとにはわからない。
ぼくにとって大事なのは、
見てる人にぼくのことを知ってもらうことなんです。
なぜこういうことをやってるのか、
どういうふうにしてこの演技になったのか、
そういうことを見る人に感じてほしい。
そういう気持ちはすごく強いです。
多くのアスリートは自分の人格が表れることが
重要だとは信じてなくて、
プレイするときは勝つことがすべてなんですが、
ぼくは、オリンピックの6分間の演技を見た人に、
そこにどんなものが込められているか、
ということに興味を持ってもらいたい。
たぶん、糸井さんも同じじゃないですか?
たとえば何かを書いたとき、
たんにそのことばや文面だけじゃなく、
そこに込めたものが伝わってほしいですよね。
Oftentimes in sports, you don't have a chance to get to know the person. You don't get a chance to hear them talk, to hear what their dreams are. You watch a figure skater for six minutes, or a football player for two hours, and you never really know them. It's important for me that people get to know who I am. I want them to be able to watch my performance and understand where it comes from. Why I perform the way I do. A lot of athletes are more interested in winning the game than expressing personality. But I want people to have an interest in what goes into those six minutes when you see me in the Olympics.
糸井
Itoi
そうですね。
自分を知ってもらえたほうが、
自分がもっと自由にやれますよね。
Yeah. Having people understand you gives you more freedom.
ジョニー
Johnny
そのとおりです。
That's right.
糸井
Itoi
だから、フィギュアスケートという競技では、
勝った選手は、金メダルとか、
銀メダルとか、銅メダルをもらうわけだけど、
あなたはいつでも
「ジョニー・ウィアーの金メダル」を
もらっているような気がする。
In competition, there are strict rules and the winners are awarded gold, silver, and bronze medals-but I get the feeling you're always winning your own personal gold medal.
ジョニー
Johnny
そうです。そうです。
やっぱり大事なのは、試合が終わって、家に帰って、
鏡で自分の姿を見たときに、
よくやったなっていえること。
その夜、灯りを消して寝るときに、
ちゃんと自分に恥ずかしくないことをやったと
思えることです。
Yes. The most important thing is to be able to go home after a performance, look in the mirror, and know that you did a good job. To turn the light off right before bed and be proud of your accomplishment.
糸井
Itoi
いやあ、素晴らしい。そうです。
That's wonderful. Exactly.
ジョニー
Johnny
バカなジャッジがどう思おうと、ね(笑)。
No matter what the stupid judges think. (laughs)
糸井
Itoi
「マイ・オウン・ゴールドメダル」だよね(笑)。
Your own gold medal. (laughs)
ジョニー
Johnny
そうそう。
Yeah.
糸井
Itoi
そろそろ時間なんですけど、
つぎのオリンピックはロシアのソチで開催されますよね。
やっぱり、特別な思いがありますか?
So you're aiming for the next Olympics in Sochi, Russia. Is there any special meaning in it for you?
ジョニー
Johnny
やっぱりロシアは小さい頃から
自分のインスピレーションの源で、大好きだったので、
自分が選手として挑戦できる
最後の可能性がある世界的な大会が
ロシアで開催されるオリンピックだっていうのは、
もう、夢みたいなことです。
あと、もう一つの大事な意味があって、
もし自分が今度のオリンピックに出場できたら、
ゲイであることを表明している
唯一のスケート選手になると思うんです。
つい先日、プーチン大統領が、ロシアでは
ゲイは違法だというふうに法律を変えたんですね。
それはぼくにとって特別なことで、
ぼくは、アメリカを代表するだけじゃなく、
自分と同じグループの代表でもあるといえる。
自分を嫌うかもしれない国、
だけど自分は愛している国でのオリンピックだから
すごく特別な意味を持つと思う。
アメリカチームの一員としてソチに行くことに
どのくらいの可能性があるかわからないけど、
どれだけ小さくても可能性があるなら
ぼくは夢を追いかけたい。
Russia's been inspiring to me my whole career, so having my last competition in Russia, in front of the world, would be a dream come true. And now it also has another meaning if I went to compete in the Russian Olympics. I would be the only openly gay figure skater, and in a country where Putin just made it illegal to be gay. It'd be very special for me to represent not only America and myself, but also an entire group of people, in a country that may hate me, but that I love. It'd be very special for me. I don’t know how good my chances are of going to Sochi or being a part of the American team, but even if there's a small chance, it's a dream I'll chase.
糸井
Itoi
夢を見ることは生きることだからね。
Because to dream is to live.
ジョニー
Johnny
そう、人生は夢だから。いつも。
And life is a dream.
ジョニーからのメッセージ
message from Johnny
この対談は、2013年7月、
福岡で開催されたアイスショーのために
ジョニーが来日したときに行われました。

すでに報道されているとおり、
その後、ジョニーは現役から引退することを発表しました。
この対談を掲載するにあたり、
特別にメッセージを送ってくださいました。

オリンピックとは違う道を選んだ
ジョニー・ウィアーの
現在の率直な気持ちをお読みください。
Shigesato Itoi interviewed Johnny Weir in July 2013, when he came to Japan to perform at an ice show. Johnny recently announced his retirement from competitive figure skating. He provided us a special message as an addendum to this interview. Here Johnny spells out what he expects of his future without the Olympics. Please read on.
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
2013年7月、ぼくは糸井さんと対談する機会をいただきました。
その頃は、2014年のソチ冬季オリンピックを目指して、
トレーニングを重ねていました。
オリンピックに出られるのか、
スポーツマンとしての自分の将来はどうなのか、
明確な方向は見えていませんでした。

福岡で対談したあと、
肉体的にも個人的にもあまりにつらい日々があり、
ソチに行きたいけれども、現実的ではないと判断しました。

いまぼくは、この後の人生が僕に何を提示してくれるか、
その広がりにわくわくしています。
スポーツ選手ではない状態に慣れる調整期間をおいたら、
次の方向を見つけられるはずです。
いま、わかっているのは、フィギュアスケートの解説者として
アメリカのテレビの仕事をすること。
プロスケーターとして世界中のショーやツアーに出演できるよう、
いまもほぼ毎日練習をして、
体力と技量を維持するようにしています。
ファンのみなさんがいる限り、
日本でも、ぜひぼくのスケートを見ていただきたいです。

人生は思い通りにいかない。そのことはよくわかっています。
もうひとつわかっていること、
それは人生からほんとうにたくさんの恵みを授かったこと、
そしてぼくが自分自身を信じ続ける限り、
人々を楽しませたいという気持ちのある限り、
みんなを笑顔にできる限り、
その恵みは続く、ということなんです。

日本にぜひまた行きたいですし、
再び糸井さんやスタッフのみなさんとお会いしたいです。
糸井さんは、ここ数年のお付き合いの中で、
ずっとぼくをリスペクトしサポートし、
たくさんの教えと喜びをくださっています。
糸井さんもそのように感じてくださっていたら、
うれしいのですが。

皆さんに、そして日本に天の恵みがありますように。

2013年10月11日
ジョニー・ウィアー
When I had the pleasure of speaking with Itoi-san in July 2013, I was still unclear as to what my future would hold as far as the Olympics and my future as a sportsman. At that time my obvious goal was to compete at the 2014 Winter Olympics in Sochi and I was training for that end.

In the months after our interview in Fukuoka, I struggled a lot on a physical and personal level and decided that as much as I would want to compete in Sochi, it was not a realistic dream.

Now I am excited about what life holds next for me. I believe that I will find my new direction after an adjustment period to no longer being a competitive athlete. I will work as a figure skating analyst and expert for American television, and I still train on a nearly daily basis to stay in shape, take exercise, and so that I can perform all over the world as a professional skater in shows and tours, hopefully including Japan as long as my fans have an interest in seeing me!

Life does not always go as planned, that much I know, but I know that life has bestowed so many blessings on me and it will continue to as long as I believe in myself and as long as I have the will to entertain people, and make them smile, the world over.

I greatly look forward to my next trip to Japan and of course my next meeting with Itoi-san and his staff! Itoi-san has showed me so much respect and support over the past several years and I hope he has gained as much happiness and knowledge through our relationship as I have.

God bless you all, and God bless Japan.

October 11, 2013

Johnny Weir

お読みいただき、ありがとうございました!
Thank you for reading!
2013-10-30-WED
前へ Back