なんとか駒を進めたオーディションの
最終課題は異色なもので、
その内容は『ニコニコ生放送』で配信を行い
自分への投票を募り、
得票数順に15名中上位5名が
決勝に進めると言ったものだった。
期日は一カ月弱。
配信時間に制限はなかったため、
おのずと一日中配信を行う人が有利といった
むちゃくちゃな構造だった。
私は日中仕事があったので、
帰宅してからが勝負になる。
自宅から生放送を配信し、
選挙演説のように毎日繰り返し投票を募り、
寝落ちするまで放送は続いた。
少し仮眠して仕事に行く。
当然仕事中にうとうとすることも多々あり、
会社では毎日めちゃめちゃ怒られていた。
当時そんな自分を応援してくれる人が
少なからずいたから、
余計に私は負けるわけにはいかず、
妙なプレッシャーと寝不足で肌は荒れに荒れた。
終盤に近づくにつれ、
他のオーディション参加者も
連日寝ずに放送を続けていた。
声は枯れ、表情からは笑顔が消え、
モニタ越しにも悲鳴を上げているのが見てとれた。
放送終了の数時間前には泣き出す女の子が続出した。
そのニコニコ生放送でのオーディションを
盛り上げた要因の一つに、視聴者が打てる
“広告”というシステムがあり、
それは課金することで見ている動画のスポンサーになり、
動画の閲覧者数を増やすことが出来るといったものだった。
最後には各参加者の放送枠でこの広告合戦も行われていた。
私にも何人か広告を打ってくださる奇特な方がおり、
(そのほとんどは会ったことがない人)
私にはそれが信じられず、
どうして見ず知らずの人間を、
私財をつかってまで応援してくれるんだろう?
とずっと疑問に思っていた。
連日遅くまで続く放送枠にずっと寄り添い、
励ましのコメントをくれる人も少なくなかった。
初回放送時は100人程度だった来場者数は、
終盤10000人近くまで伸びた。
放送で呼び掛けが出来るラスト1時間を切ったとき、
私は疲労と、動画を見てくれる人の応援コメントと、
絶えず打たれる広告とに申し訳なさと嬉しさで
気持ちがいっぱいいっぱいになり、
たとえネットの世界とは言え、
いままでの人生でこんなに人に後押しして
もらったことなんてあったかなあと思うと余計泣けてきて、
大げさだけど自分を全肯定してもらっているような、
そんなとても温かい気持ちになったのを
今でも鮮明に覚えている。
多分そこが、私の人生におけるブレイクスルーだったのだ。