もくじ
第1回「小説家という仕事」 2016-06-28-Tue
第2回「自分にしか書けない小説」 2016-06-28-Tue
第3回「社会をつくる、という意識」 2016-06-28-Tue
第4回「あきらめるのが好き」 2016-06-28-Tue

90年生まれ。
自由な物書きになるべく、修行中。
人間生活を大切に、がモットー。

第2回 「自分にしか書けない小説」

―そもそも今回は、「ほぼ日の塾」の課題ということでインタビューをお受けいただいたわけですが、ほぼ日はご覧になったことありますか?

山崎
はい。ときどき記事を拝読してます。
あと、ほぼ日手帳使ってます。

―ほぼ日手帳使われているんですね!
以前山崎さんが、ネットがあまりお好きじゃない、ということを書かれていて、少し気になっていたんですが、今はネットに関してはどういう印象をお持ちですか?

山崎
私がデビューした頃は、
まだインターネットのリテラシーが浸透してなくて、
当時ネットで私の名前を検索すると、
ぶす、っていう内容で1ページ目が埋まっていたんです。
その頃はネットというものが嫌いでしたけど、
今は好きですよ。
マナーを守る人が多くなったし、
インターネット、便利だな、と思ってます。
これから、ネットという媒介を利用することで、
本の世界もどんどんよくなっていくんだろうな、
と思っています。

―今はポジティブなお考えということで、良かったです。ちょっとお話があったので伺いたいのですが、山崎さんは、「ぶす」について作品でも書かれていますが、私は読んでいて結構ショッキングでした。そもそも、ぶすの定義って人それぞれだと思いますし、そんな匿名でぶすって言うような人は無視すればいいんじゃないか、とか思っちゃうんですけど、あえてそこの声を拾われるんだ、と。

山崎
ぶすの定義については、
あまり深く考えたことなかったんですけど、
ネットで、そういう知らない人たちから
ぶす、ってたくさん書かれているのを見たら
さすがに、これはなんだろう、
って思いますよね。
それで色々考えていると、
書きたいことが
むくむくわいてくるんですが、
それを人に話すと、
書かないほうがいい、
って、すごく言われるんです。

なんでネットで人のことを
ぶす、と書く人はいるのに、
私が表現として、
書いちゃいけないんだろう、と思って。
ぶすって言葉はインパクトがあるから、
たしかに書くのに慎重になった方が
いいのかもしれないですけど、
私は「ぶすについて、いい文章書ける気がする」
と思っていて。
お笑い芸人さんとは違う「ぶす」という言葉の捉え方が、
いつかできるかなって。
だから今後、
小説できちんとぶすには取り組んでみたいです。

―なるほど…そういうお考えだったんですね。たしかにそういう小説はあまり読んだことがないですし、とても楽しみです。ところで、山崎さんはいつもどんな読み手を想定して、本を書かれていますか?

山崎
一番は、
「自分自身が読んで、面白く感じたい」
と思っているかもしれないですね。
自分がこういう本ほしい、というような
いい本をつくっていけたらいいと思っています。

―山崎さんが思う“いい本”て具体的にどんな本でしょうか?

山崎
私がいい本と思うのは、
まずテキストが、
ウヮー素敵だなぁ!
というものに仕上がって、
装丁もこれしかない、というもの。
書店にも大切に場所を作って置いてもらえて、
それで、読者さんも「この本すごい!」って、
大事に本棚にしまってくれるような、
そんなすべての工程に
神経が行きわたっているような本、
だと思っています。

―山崎さんの本のデザインも毎回とても素敵ですよね。ご自分から細かく指示されてるんですか?

山崎
デビューしてから数年の頃は
自分から頑張ってどんどん言わないと、
こんな作家の端くれの私のために、
仕事を頑張ってもらえないんじゃないか、
と思って、
自分からも「こういうのにしてほしいんです」
とか、よく言ってたんですけど。
今は、むしろ私が何か言うと、
「作家の意見だから通そう」って
相手がプレッシャーに感じちゃったりするかも、
と思うようになって、
できるだけプロにお任せするようにしています。

装丁のデザイナーさんに関しては、
「この人でお願いしたい」
という場合もありますし、
編集者さんから
「この方どうですか」って
ご提案いただくこともあります。
でもこれまではおかげさまで、
すごく恵まれてきたと思います。

―そうでしたか。本作り、という話で言うと『かわいい夫』の版元である夏葉社さんも、島田さんという個人の方がお一人でやられていて、一冊一冊丁寧な本作りをされている印象があります。

山崎
もともと夏葉社さんは
素敵な出版社さんだな、
と思っていました。
それで、『かわいい夫』は
ぜひ夏葉社さんにお願いしたいな、
と思って、原稿を読んでいただきました。

―どの出版社さんから本を出すか、ということで、なにか気持ちの違いみたいなものはありますか?

山崎
大手の出版社さんから出しても、
夏葉社さんのような
個人の出版社さんから出しても、
本を書く時の気持ちや
入稿する際の思い入れみたいなものは
とくに変わりません。

ただ、
夏葉社さんから出させていただいて、
とくによかったな、と思ったのは、
『かわいい夫』が、
地方の小さな書店さんにも
ちゃんと届いたことですかね。

地方の場合だと
届くのに時間がかかることも多くて、
しかも大きい本屋さんに
配本がたくさん行きがちなので、
小さな書店さんまで
行きわたらないこともあるんです。
これまで地方の書店に行ったときに、
「うちには入らなかったんですよ」
と言われることもあったので
気になっていたのですが、
今回はツイッターとかで見てたら、
地方の小さな書店さんでも
『かわいい夫』を
置いてもらえていたみたいで
うれしいな、と思いました。

そういう地方の小さな書店さんにも届く
ということは
島田さんが自分で営業して、
関係をつくって、
それで直接本を書店さんに送ってるから、
可能なことなんですよね。
もちろん、大きい書店も好きだし、
置いてもらえることは
とてもありがたいんですけど、
大きい出版社さんだとそこまでは
なかなか手が回らないのかな、とも思います。

山崎ナオコーラさんインタビュー 関連本②

以前私は、島田さんが
夏葉社を立ち上げるまでについて書かれた
『あしたから出版社』を読んで、とても感銘を受けました。
かつては小説家を目指していた島田さんは、
編集の経験もないまま33歳のとき、一人で夏葉社を立ち上げました。
純粋に本を愛し、また本を愛する人々に支えながら、
出版社をつくっていく島田さんの道程にとても胸が熱くなり、
勇気をもらった一冊です。

『あしたから出版社』(就職しないで生きるには21)
島田潤一郎
晶文社

第3回 「社会をつくる、という意識」