もくじ
第1回「小説家という仕事」 2016-06-28-Tue
第2回「自分にしか書けない小説」 2016-06-28-Tue
第3回「社会をつくる、という意識」 2016-06-28-Tue
第4回「あきらめるのが好き」 2016-06-28-Tue

90年生まれ。
自由な物書きになるべく、修行中。
人間生活を大切に、がモットー。

第3回 「社会をつくる、という意識」

―お話を伺っていて、山崎さんは小説家という仕事に出会えて、とても素敵だな、うらやましいな、と感じます。自分に合う仕事ってどうやったら見つかると思いますか?

山崎
そうですね、難しい問題ですよね。
自分に合う仕事を見つけるというのは
大変なことだとは思います。
私は今、
自分の好きな、本をつくる仕事をしていますが、
好きじゃないことを続けて、
天職になる人もいますしね。

―山崎さんは作家だけでなくて、編集者やライターとしてもの書きになる、ということは考えたことはありますか?

山崎
就職では出版系がいいとは思っていましたが、
うまくいきませんでした。
実際に編集者さんとお仕事してると、
編集者と作家は全然違うな、
私は編集者にはなれないな、と感じます。
編集者さんは人と接するのがうまいですよね。
私も、もちろん人は好きなんですけど(笑)、
人と接するのはそんなに得意ではないですね。

―たしかに編集者の方は比較的コミュニケーション能力が高い印象があります。中学生のころ、人見知りだったとおっしゃってましたが、人見知りはなおりましたか?

山崎
大学に入ったときに、
急に友達ができたんですよね。
でも会社で働いているときも
自分の意見を言うことは
得意ではなかったので、
人見知りがなおったとは思わないんです。
でも、作家になって
こうやって人としゃべったり、
人前で話すようになって、
だんだん慣れてきましたね。

だから、25くらいの私が、
今の自分を見たら、
ものすごく驚くと思います。

―私はいま26歳なんですけど、最近になってやっと社会と自分の関わり方、みたいなものを考えるようになりました…。山崎さんは、年齢や経験によって、社会に対しての思いは変化しましたか?

山崎
26というと、私はデビューした年齢なんですよね。
20代のころは、
もっと自分のことを思っていた気がします。
自分がどういうものが好きか、とか。
どういう風に見られているか、
仕事でどういうことをしたいか、とか。
そういうことをよく考えていました。

なので、社会をつくる、という意識が
強くなってきたのは
30代に入ってからだと思います。

最近は、自分というものが、
あんまりなくなってきました。
たとえば私は作家ですけど、
私の本だけを売りたい、
ということではなく、
他の人の本がたくさん売れるような、
業界を盛り上げるための、
一部の仕事をするだけでも
文学者として意義があるのかもしれない、
と思うようになりました。

そういうことを感じるようになったのは
30を過ぎてからなので、
年齢の影響はあるかもしれませんね。

―そうだったんですか。10代、20代くらいで、自分がこれから先どうしていいかわからない、とか悩んでいる人も30代になったら視界が開けますかね。

山崎
そうですね。
今はとくに成功とかしてなくても
だまされたと思って、自殺なんかせず、
30くらいまでとりあえず、
ちょっと踏ん張ってみてほしいですね。
だんだん楽になってくると思います。
それで、自分というものが、
どうでもよくなってくると、
社会的に大成功している仕事じゃなくても、
誰かしらの役に立ってたり、
仕事の歯車の一つになっていることに
気づけるので、
この程度でもいいのかなって、
肯定的な気持ちになってくるかも
しれないですよ。

―ちょっとホッとしました(笑)。逆に、山崎さんが、今社会に対して抱いている不満とか、変わったらいいな、というところはありますか?

山崎
社会がもっとこうなったらいいのに、
というのは、
私はそんなにないかもしれないです。

今私は30代ですが、
一番社会をつくっていく世代だと自負しています。
なので、社会に対しての問題点や不満を言うと、
単に私がやれていないこと、
イコール、自分への悪口にもなっちゃうんですよね。

多様性を肯定する社会、
ということを作品では書いていますが
私自身が生きづらいとか
苦しい、とか思うことは
あまりないです。
むしろ、今ってどんどん
多様性を肯定する社会になってるんだな、
と感じるんです。
前の世代の人が切り開いてくれた
「多様性の肯定」を享受する、
という感じの方が近いかもしれないです。

山崎ナオコーラさんインタビュー 関連本③

私が山崎さんの世界観に
はまっていくきっかけになったのは、
『この世は二人組ではできあがらない』
という作品でした。

主人公の栞は大学を卒業後、
働きながら小説を書いています。
仕事に恋愛に、
悩んだり楽しんだりする日々を送りながら
彼女は自分の居場所を模索していきます。

はじめてこの作品を読んだのは
3年以上前のことと記憶していますが、
今回改めて読み直してみて、
とくに心に残った箇所を引用します。

「人間として生きていくにあたって、
個人として過ごすだけでなく、
周りの人間の役に立ちたい。
(中略)
現代社会に合わせて人生設計を立てるなんて、
ばかだ。
社会というのは、作れるものだ。
そこに合わせて生きるのではなく、
大人になった私たちがこれから構築し、
新しい生き方を始めるのだ。
もっと寛容な、
未来の社会に人生を設定して、
これからの時代を自分で作りたい。
まるで戦時下みたいなたくさんの死者が、
自殺によって生まれているこの国で、
私はまだ、
自分が何をすればよいのかを知らなかった。」


山崎ナオコーラ
『この世は二人組ではできあがらない』
新潮社

第4回 「あきらめるのが好き」