- 息子
- ここまで話を聞いて、
ひとつ思ったことがあって。 - 父
- うん。
- 息子
- もしかするとじゅうたんって、
使ってくれる人の大切にしたいものを、
その中に含んでいるんじゃないかと思って。 - 父
- あぁ。
- 息子
- 最初の話に出てきた「内側のぜいたく」だったり、
使う人が大切にしたいと思っている価値観を、
その中に含むものなのかなって、思ったんです。 - 父
- そうかもしれないね。
…そうだ。手織りのじゅうたんを、
職人さんが1日に織れる長さって、知ってる?
- 息子
- 前に聞いたような…。
たしか、7センチでしたっけ? - 父
- 女性の職人さんが、
自分の肩幅の広さを織り進めていくのに、
1日およそ7センチ。
難しいものだと、1日1センチ程度のときもあります。 - 息子
- 1日、1センチ…。
- 父
- 職人さんが作業場にずらっと並んで、
自分の担当する箇所を、
1日6センチ、7センチと織っていく。
この応接間サイズのじゅうたんをつくるのには、
最低でも半年はかかってると思います。
- 息子
- そうだろうなぁ…。
- 父
- ものによっては、10人以上の職人さんが、
1年以上かかりっきりで織り続けて、
ようやく出来上がるときもある。
その間、職人さんにとっては、
毎日毎日、数センチだけ進むような日々が続くんです。 - 息子
- …気の遠くなるような作業ですよね。
- 父
- 素材的にもデザイン的にも、
すごく難易度の高いじゅうたんを織りはじめたときには、
職人さんから
「社長、これは本当に納期まで終わりますかね…?」
って、言われることもあるしね(笑)。
だから、じゅうたんをつくるというのは、
前提として、とても手間暇がかかるし、
生産量にも限りがある。
本当に少しずつ進めていく、大変な仕事なんです。
- 息子
- 聞けば聞くほど、そう思います。
- 父
- ただね、そのじゅうたんも、
半分まで織り上がると、その先が見えてくるんです。
1日数センチずつ進んで、ある日パッと見上げると、
そのじゅうたんの半分が織りあがっている。
そういう瞬間が来るんです。
そこまで来ると、終わりが見えてきて、
職人さんたちの手も、より早くなっていく。 - 息子
- へえぇ…。
- 父
- そういう過程を経て、
ようやくつくられるものだから、
それを良いと思ってくれる人の
価値観や大切にしたいものとは、
自ずと結びつきやすいのかもしれないね。
1枚1枚のじゅうたんがあって、
その先にひとりひとりのお客さまがいるわけですから。
- 息子
- あの、聞きたかったんですけど、
じゅうたんの仕事をしていく中で、
今どんなことがうれしいですか? - 父
- 少しずつ若い人たちが、
じゅうたんに興味を
持ってくれるようになったことかな。
まだまだ大変だけど、
今取り組んでいる「山形緞通」というプロジェクトや、
デザイナーの方々との仕事をきっかけに、
若い人たちの顔が見えるようになって。 - 息子
- あぁー。
僕も、そのひとりなのかもしれないです。 - 父
- そうなのかもね。
- 息子
- ……あの、今日言いたかったことがあって。
- 父
- はい。
- 息子
- 僕、今はじゅうたんと
全然違う仕事やってるんですけど、
やっぱりそこに関わっていきたいと、
最近すごく思うようになったんです。 - 父
- うん。
- 息子
- どんな形で何が出来るかっていうのは、
まだまだ詰めなくちゃいけないと思うんですけど、
やっぱりこのじゅうたんに関わる仕事を、
絶対やっていきたくて。
- 父
- そうか。
- 息子
- また、こういうお話をさせてください。
- 父
- うん、そうしましょう。
- 父
- そういえば最近、
愛媛の今治に行って。
講演会で呼んで頂いたんですけど、
いつもそういう場所で話す機会があると、
来てくれたお客さまに
「山形緞通ってご存知ですか?」って、
聞くようにしているんです。
知ってる人には、手を挙げてもらって。 - 息子
- はい、はい。
- 父
- それで、その質問のあと
「工場にお越し頂いたことがある人?」と聞く。
最後に「うちのじゅうたんを持っている人?」と聞く。
そしたら居たんだよね、
最後まで手を挙げてくれている人が。 - 息子
- うれしいなぁ、それ。
- 父
- そういう場面が、その今治だけじゃなくて、
他の場所でもあって。
本当に少しずつだし、大変なことばかりだけど、
会社とじゅうたんについて
知ってる人が増えてきたのは、
今すごくうれしいね。 - 息子
- うん。
- 父
- そんな感じかな、最近は。
- 息子
- 今日は色々お話できて、すごく良かったです。
- 父
- それなら良かった。
- 息子
- …ってか、講演会してるんですね。
- 父
- してるんだよ(笑)。
しかも、結構な数ね。
高校に行って、お話したりもします。 - 息子
- 想像できないんだよなぁ…(笑)。
- 父
- 最初、心臓バクバクだったよ。
- 息子
- いまは、緊張せず?
- 父
- そうだね。少し慣れたってのもあるし。
話を聞いてもらう機会だ!
という感じで、構えてます。 - 息子
- すごい。
- 父
- まぁでも、寝ている人がいたりすると、
気になるけどね。 - 息子
- (笑)
- 父
- 「おれの話、つまんないのかなぁ」って思うよ。
一生懸命、話してるんだけど。 - 息子
- ふふふ(笑)。
今度、僕もどこかで、見に行こうと思います。 - 父
- 予定が合えば、来てくださいね。
撮影:Kodai Kobayashi
(おわり)