もくじ
第1回プロローグ 2016-06-28-Tue
第2回うちがわを向いた、ぜいたく。 2016-06-28-Tue
第3回そこに「おさまった」姿。 2016-06-28-Tue
第4回1日、1センチずつ進む。 2016-06-28-Tue

1990年、
山形県生まれ、
山形県育ち。

シティ・ボーイに
憧れて、
片田舎から上京。

音楽界隈で、
荒波に飲まれつつ、
サバイブ中。

たのしいことばかり
ありますように。

じゅうたんやの父と息子が
はじめて、
じゅうたんのはなしを。

担当・シータカワタナベ

第4回 1日、1センチずつ進む。

息子
ここまで話を聞いて、
ひとつ思ったことがあって。
うん。
息子
もしかするとじゅうたんって、
使ってくれる人の大切にしたいものを、
その中に含んでいるんじゃないかと思って。
あぁ。
息子
最初の話に出てきた「内側のぜいたく」だったり、
使う人が大切にしたいと思っている価値観を、
その中に含むものなのかなって、思ったんです。
そうかもしれないね。
…そうだ。手織りのじゅうたんを、
職人さんが1日に織れる長さって、知ってる?

息子
前に聞いたような…。
たしか、7センチでしたっけ?
女性の職人さんが、
自分の肩幅の広さを織り進めていくのに、
1日およそ7センチ。
難しいものだと、1日1センチ程度のときもあります。
息子
1日、1センチ…。
職人さんが作業場にずらっと並んで、
自分の担当する箇所を、
1日6センチ、7センチと織っていく。
この応接間サイズのじゅうたんをつくるのには、
最低でも半年はかかってると思います。

息子
そうだろうなぁ…。
ものによっては、10人以上の職人さんが、
1年以上かかりっきりで織り続けて、
ようやく出来上がるときもある。
その間、職人さんにとっては、
毎日毎日、数センチだけ進むような日々が続くんです。
息子
…気の遠くなるような作業ですよね。
素材的にもデザイン的にも、
すごく難易度の高いじゅうたんを織りはじめたときには、
職人さんから
「社長、これは本当に納期まで終わりますかね…?」
って、言われることもあるしね(笑)。
だから、じゅうたんをつくるというのは、
前提として、とても手間暇がかかるし、
生産量にも限りがある。
本当に少しずつ進めていく、大変な仕事なんです。

息子
聞けば聞くほど、そう思います。
ただね、そのじゅうたんも、
半分まで織り上がると、その先が見えてくるんです。
1日数センチずつ進んで、ある日パッと見上げると、
そのじゅうたんの半分が織りあがっている。
そういう瞬間が来るんです。
そこまで来ると、終わりが見えてきて、
職人さんたちの手も、より早くなっていく。
息子
へえぇ…。
そういう過程を経て、
ようやくつくられるものだから、
それを良いと思ってくれる人の
価値観や大切にしたいものとは、
自ずと結びつきやすいのかもしれないね。
1枚1枚のじゅうたんがあって、
その先にひとりひとりのお客さまがいるわけですから。

息子
あの、聞きたかったんですけど、
じゅうたんの仕事をしていく中で、
今どんなことがうれしいですか?
少しずつ若い人たちが、
じゅうたんに興味を
持ってくれるようになったことかな。
まだまだ大変だけど、
今取り組んでいる「山形緞通」というプロジェクトや、
デザイナーの方々との仕事をきっかけに、
若い人たちの顔が見えるようになって。
息子
あぁー。
僕も、そのひとりなのかもしれないです。
そうなのかもね。
息子
……あの、今日言いたかったことがあって。
はい。

息子
僕、今はじゅうたんと
全然違う仕事やってるんですけど、
やっぱりそこに関わっていきたいと、
最近すごく思うようになったんです。
うん。
息子
どんな形で何が出来るかっていうのは、
まだまだ詰めなくちゃいけないと思うんですけど、
やっぱりこのじゅうたんに関わる仕事を、
絶対やっていきたくて。

そうか。
息子
また、こういうお話をさせてください。
うん、そうしましょう。

そういえば最近、
愛媛の今治に行って。
講演会で呼んで頂いたんですけど、
いつもそういう場所で話す機会があると、
来てくれたお客さまに
「山形緞通ってご存知ですか?」って、
聞くようにしているんです。
知ってる人には、手を挙げてもらって。
息子
はい、はい。
それで、その質問のあと
「工場にお越し頂いたことがある人?」と聞く。
最後に「うちのじゅうたんを持っている人?」と聞く。
そしたら居たんだよね、
最後まで手を挙げてくれている人が。
息子
うれしいなぁ、それ。
そういう場面が、その今治だけじゃなくて、
他の場所でもあって。
本当に少しずつだし、大変なことばかりだけど、
会社とじゅうたんについて
知ってる人が増えてきたのは、
今すごくうれしいね。
息子
うん。

そんな感じかな、最近は。
息子
今日は色々お話できて、すごく良かったです。
それなら良かった。
息子
…ってか、講演会してるんですね。
してるんだよ(笑)。
しかも、結構な数ね。
高校に行って、お話したりもします。
息子
想像できないんだよなぁ…(笑)。
最初、心臓バクバクだったよ。
息子
いまは、緊張せず?
そうだね。少し慣れたってのもあるし。
話を聞いてもらう機会だ!
という感じで、構えてます。
息子
すごい。
まぁでも、寝ている人がいたりすると、
気になるけどね。
息子
(笑)
「おれの話、つまんないのかなぁ」って思うよ。
一生懸命、話してるんだけど。
息子
ふふふ(笑)。
今度、僕もどこかで、見に行こうと思います。
予定が合えば、来てくださいね。


撮影:Kodai Kobayashi

(おわり)