「浅生鴨」のことを知りたい人へ。
浅生鴨×糸井重里

第5回 矛盾してるけど、何かを表現していないと生きてられない。
- 浅生
- ぼくが小説を書くと、必ずいつもどこか妙なものが混じるんですけど、今回のSFとは全く違う作品の準備も始めてる感じです。
糸井さんが小説を書いたときは、自分からですか。
- 糸井
- ぼくは嫌で嫌で嫌で嫌で、もう本当に嫌でしょうがなかった。二度と書かない。
浅生さんはまた頼まれたら書く?
- 浅生
- 多分嫌いじゃないんです。
- 糸井
- 物語を観るのがすごく好きな人なんだから、ぼくとは違いますよ。
ぼくはめんどくさいもん。
- 浅生
- めんどくさいんです。間違いなく。
- 糸井
- ぼくとはめんどくさいの種類が違うね。ぼくのは、もうほんとにめんどくさいから(笑)。
- 浅生
- ぼくのめんどくさいだって負けてませんよ(笑)。
- 糸井
- めんどくさいって言っても、横尾(忠則)さんも「めんどくさい」って言いながら絵を描くじゃない。ぼくは書かないもん。
- 浅生
- でも、18年間毎日原稿書いてますよね。
- 糸井
- ほんとに嫌なんだ(笑)。
- 浅生
- ぼくは毎日書いてないですもん。
- 糸井
- 毎日のほうが楽なんだよ、かえって。アリバイができるから。毎日やってるっていう。日曜もやってる蕎麦屋がまずくてもしょうがないよねっていう。だから努力賞が欲しいね、ぼくは。
- 浅生
- 毎日やってるという。
- 糸井
- うん。努力賞で稼ぐ。
- 浅生
- やっぱりめんどくさいですよね。
- 糸井
- いや、でもね、書くのが嫌いな人にはやっぱりできないですよ。
海外ドラマシリーズとかでも、ぼくは1シーズン観て2シーズン目の途中でもうめんどくさいもん。あれを5シーズン観るっていうだけでもすごいですよ。
- 浅生
- 中では11シーズンとかあるんですよ。
もうね、勘弁してくれって思うんです。
- 糸井
- 猫も呆れるよね。
- 浅生
- どう考えてもあれは7シリーズで終わるべきだった、みたいなやつがダラダラ続いて10とか11とかいかれた日には。
- 糸井
- それ、何のことですか?
- 浅生
- 何でしょう、『クリミナル・マインド』とか。
- 糸井
- 『ロスト』は何シーズンですか?
- 浅生
- 『ロスト』はシーズン5か6で、最初からグダグダでしたけど、あれは作り方がおもしろい。脚本家がいっぱいいるんですよ。それぞれが好きにエピソード書くんで。
- 糸井
- 伏線の始末はお前がやってくれっていうんでしょ。
- 浅生
- そうです。
『アグニオン』が辛かったのは、自分で始末しなきゃいけないところ。
- 糸井
- 当たり前じゃん!
- 浅生
- 連載だったので。第1話とか2話に、自分でもこの先どんな話になるかわからないけどとりあえずいろいろ伏線を仕込むから、回収してかなきゃいけなくて。
- 糸井
- まったくわかってなかった?
- 浅生
- まったく。ざっくりとは決めてたんですけど、2話の途中ぐらいから話が変わってきてて。
- 糸井
- 『おそ松くん』とかを連載で読んだ経験のあるぼくには、そういうのって全然気にすることないよって思うね。だって、『おそ松くん』はおそ松くんが主人公なはずなのに、六つ子の物語を書いたはずなのに、チビ太とかデカパンとかの話になっちゃってるから。
- 浅生
- これも元々そうで、実は1回原稿用紙で500枚ぐらい書いたんですよ。書いて、最後の最後にそれまでの物語をある意味解決するための舞台回しとして、1人キャラクターが出てきて、それが最後締めていくんですけど。
それを読んだ編集者から「このキャラがいいね。この人を主人公にもう1回書きませんか」って言われて。だからもうその500枚は全部捨てて、もう1回そこからゼロから書き直したっていう。
- 糸井
- めんどくさがりなわりにはそうやってゼロから。
ぼくもSFは読まないわけじゃないんだけど、
時代がちょっと違うのよ。
だから、もう『アグニオン』っていう
タイトルだけでちょっと苦しいもん。
そういうのタイトルなの? もっとなんか
「神々の黄昏」みたいなのにしてよ、っていう(笑)。
- 浅生
- ぼくはあえて何だかわかんないタイトルにしたかったんです。
- 糸井
- ペンネームも明らかに本名じゃない人が書いてるし、何だかわからないものにする癖がとにかくついてるんですね。
- 浅生
- ああ、そうですね。そうかもしれない。
- 糸井
- 一生何だかわからないんでしょう(笑)。
だから、このインタビュー、今まででいちばんややこしいかもしれないですね。でも、ちゃんとしゃべってることはしゃべってるからね。
- 浅生
- 真摯に答えてます(笑)。
- 糸井
- その通りです。
じゃあ真摯にまとめに入ろうかな(笑)。
浅生さんは表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 受注されないとやらないのに。
- 浅生
- そうなんです。それが困ったもんで。
- 糸井
- そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
- そこが多分一番の矛盾。
- 糸井
- 矛盾ですよね。「何にも書くことないんですよ」とか「言いたいことないです」「仕事もしたくないです」。だけど、何かを表現してないと‥‥。
- 浅生
- 生きてられないです。
- 糸井
- 生きてられない。
- 浅生
- でも、受注ない限りはやらないっていうね。ひどいですね(笑)。
- 糸井
- だから、「受注があったら、ぼくは表現する欲が満たされるから、多いに好きでやりますよ、めんどくさいけど」と。これはでも、ぼくと浅生さんがちょっとそこが似てるんじゃないかなぁという気がするんです。
- 浅生
- かこつけてるんですかね。何かに。
- 糸井
- うん。「何かを変えたい」という欲ではないですよね。
- 浅生
- はい。変えたいわけではないです。
- 糸井
- 「表したい欲」ですよね。表したい欲と裏表になってるのが「じっと見たい欲」ですよね。
- 浅生
- 「じっと見たい欲」?
- 糸井
- うん。多分表現したいってことは、「よーく見たい」とか「もっと知りたい」とか「えっ、今の動きみたいなのいいな」とか、そういうことでしょう?
- 浅生
- 画家の目が欲しいんですよ。あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。きっと画家の目はあるとおもしろいなって。
- 糸井
- それなら絵を描いてたほうが、画家の目が得られるんじゃない?
- 浅生
- そうかもしれない(笑)。
画家って、見たとおりに見えてるじゃないですか。ぼくらは見たとおりに見てないので。
- 糸井
- ぼくなんかが普段考える「女の目が欲しい」とか、そういうのと同じじゃないですかね。受け取る側の話をしてるけど、でもそれはやっぱり表現欲と表裏一体で、受けると出す‥‥。
ぼくはさっき臨終の言葉を言ったんで、浅生さんは今、この対談の最後に臨終の言葉を何か言ってください。この場で受注します(笑)。
- 浅生
- はい。死ぬときですよね。
前に死にかけたときは、「死にたくない」って思ったんですけど、今もし急に死ぬとしたら‥‥「仕方ないかな」。
- 糸井
- (笑)これで終わりにしましょう。いいですね。
- 浅生
- 「仕方ないかな」っていうので終わる気がしますね。
- 糸井
- 「人間は死ぬ」とあまり変わらないような気がしますけど(笑)。ありがとうございました。
- 浅生
- ありがとうございました。