浅生鴨さんってどんなひと?

第5回 表現しない人生は考えられない
- 糸井
- 表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 受注なのに。
- 浅生
- そうなんです。それが困ったもんで。
- 糸井
- そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
- そこが多分一番の矛盾。
- 糸井
- 矛盾ですよね。「何にも書くことないんですよ」とか「言いたいことないです」「仕事もしたくないです」。だけど、何かを表現してないと‥‥。
- 浅生
- 生きてられないです。
- 糸井
- 生きてられない。
- 浅生
- でも、受注ない限りはやらないっていうね。ひどいですね。
- 糸井
- だから、「受注があったら、ぼくは表現する欲が満たされるから、多いに好きでやりますよ、めんどくさいけど」。これはでも、自分がちょっとそこが似てるんじゃないかなぁという気がしますね。
- 浅生
- かこつけてるんですかね。何かに。
- 糸井
- うん。そうねぇ。何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
- うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
- 表現したい欲ですよね。表現したい欲と裏表になってるのが「じっと見たい欲」ですよね。

- 浅生
- 「じっと見たい欲」?
- 糸井
- うん。多分表現したいってことは、「よーく見たい」とか「もっと知りたい」とか「えっ、今の動きみたいなのいいな」とか、そういうことでしょう?
- 浅生
- そうですね。ぼくは、画家の目が欲しいんですよ。あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。きっと画家の目はあるとおもしろいなって。
- 糸井
- それはでも絵を描いていたほうが、画家の目が得られるんじゃない?
- 浅生
- そうかな。そうかもしれない。
- 糸井
- いや、すごいですよ、ほんと、画家の目ってね。違うものが見えてるんですからね。
- 浅生
- あと、見えたとおりに見てるっていうか、見たとおりに見えてるじゃないですか。ぼくらは見たとおりに見てないので。
- 糸井
- そこに加えて画家は更に個性によって、それぞれ実は違う目だったりするしね。でもそれはぼくなんかが普段考える「女の目が欲しい」とか、そういうのと同じじゃないですかね。受け取る側の話をしてるけど、でもそれはやっぱり表現欲と表裏一体で、受け取ると表現する‥‥。これはどうでしょうねぇ。
臨終の言葉をぼくさっき言ったんで、浅生さんは今、臨終の言葉何かどうでしょう。受注、今した。自分の死ぬときの言葉。

- 浅生
- はい。死ぬときですよね。
前死にかけたときは、そのときは「死にたくない」って思ったんで、すごく死にたくなかったんですよ。今もし急に死ぬとして‥‥「仕方ないかな」。
- 糸井
- (笑)これで終わりにしましょう。いいですね。
- 浅生
- 「仕方ないかな」っていうので終わる気がしますね。
- 糸井
- 「人間は死ぬ」とあまり変わらないような気がしますけど。
- 浅生
- そうですね。人間の心理ですね(笑)。