めんどうだけど、今日も表現しよう。
第4回 ぼくは、表現せずにはいられない。
- 糸井
- 浅生さんって、「あいつはしょうがない」けど、
あんまり人に迷惑かけてないっていう
すごいバランスのところに立ってますよね。
- 浅生
- そうですね。だから「あいつはダメだ」なんです。
- 糸井
- いや、どっちでもなくて
それが「おもしろい」になってるんじゃないかな。
NHK_PRは、おもしろいが武器になったケースですよ。
- 浅生
- でも、どうしても目立ちがちなので、
あんまり目立たないようにするには
どうしようかなってことは考えてました。
目立たない方法って
ほんとに気配を消してうまく溶け込むか、
逆に突き抜けるぐらい目立っちゃうのか、
どっちかしかなくて。
飛び抜けて目立っちゃえば、また違う立ち位置に
行けるんですよね。
僕はいつもそのどっちかをわざと選ぶんです。

- 糸井
- 突き抜けるぐらい目立つっていうのは?
- 浅生
- 例えば、みんながやらないようなことに
あえて「はい」って手を挙げること。
いずれ押し付けられる可能性があるものは
自分から先にいっちゃう。
そうすることで、自分で目立つことを選んだから
目立つのはしょうがないよねって納得したい。
- 糸井
- 確かにNHK_PR時代もそういう開き直りを感じました。
- 浅生
- ああ、そうですね。
- 糸井
- 陽動作戦みたいに、呼び寄せて逃げるとかね。
あれ、NHKっていう名前ついていながら
あの役割を担うためのノウハウはないから、
あれはおもしろかったね。
- 浅生
- おもしろかったですね。相当ムチャでしたから。
まぁ、あれも結局やっちゃって飛び抜けちゃったほうが
楽になるっていう。
冷静になって一つひとつをよく見ると
そんなにおもしろくないんです。
- 糸井
- おもしろかったですよ。あの、何だろう。
「それは人が言ったことがないな」みたいな‥‥
変なおもしろさ。ものすごくツイートしたし
ものすごい数のツイートも見たでしょうけど、
ほぼ24時間みたいなものですよね。
- 浅生
- ツイートの自動設定をして
前の日に翌日にやることを一気に書いて
タイマーで設定しちゃうんです。
いわゆる返信やリツイートも全部タイマーで。
だけど、普通に見ている人は、
まさか前の日のツイートに対して
リツイートしてるなんて思わない。
- 糸井
- リツイートされた本人よりも
見てるだけの人のほうが数が多いってことを
わかってるわけだよね。
- 浅生
- そうですね。でも、結局ツイッターって絞り込むと
1対1のやりとりなんです。
その1対1の関係を他人にどう見せるのかを
演出してあげる。
そうすると、すごくやってるように見えるんです。
- 糸井
- NHK_PRさんと何回かリアルタイムで
やりとりしたことがあるよ。
- 浅生
- そうですね。
たまにリアルタイムのツイートを混ぜるんです。
嘘に本当のことを少し混ぜると
全部が本当の話に思えるっていう。
それは映像も同じですよね。
全てCGじゃなくて、そこに実写の人を何人か混ぜたり‥‥。

- 糸井
- ツイッターも構造で考えるんですね。
今回は、浅生さんが書いた本を出版する関係で
作家として、インタビューされる機会も増えましたよね。
『アグニオン(新潮社)』が発売されて
これまでで一番表面に立ってるような気がします。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 日本で一番、「買ったけど読んでない」っていうことを
申し訳なさそうに告白する人の多い本ですね。
「浅生鴨さんへ遊ぶカネ送金しました」っていう
表現の遊びもありましたけど、
僕はちゃんと読む気もあるし、買いましたよって
自己申告してる人も多いですよね。
ぼくは、2冊持ってます。
- 浅生
- 2冊もありがとうございます。
女川に行った時も「アグニオン持ってます」って
言ってくれた人に会いました。この現象は何でしょうね。
- 糸井
- きっと作者に対する親しみが強いんですよ。
- 浅生
- 普段、本を読んだことのないようなタイプの人からも
「買いました!」って言われて。
申し訳なくてなんか‥‥。
- 糸井
- 『アグニオン』を書くきっかけは何だったんですか?
- 浅生
- 2012年かな。ツイッターが炎上してしまって
始末書を書いたり、落ち込んでショボンとしてたときに
新潮社の編集者から
「何かちょっと書いてもらえませんか」ってお話を頂いて
『yom yom(新潮社)』っていう雑誌を読んで、
足りないものは何かって話になったときに
「若い男の子向けのSF的な話ってこの中にないよね」って。
そしたら「じゃ、なんかそれっぽいものを‥‥」ってことで
そのまま話が進んだんです。
- 糸井
- えっ、そういうことだったの。
- 浅生
- とりあえず10枚ぐらい書いてみたら
話の原型みたいなのができあがって、それを編集者が読んで
おもしろいから物語にして連載しましょうって。
でも連載の1話とか2話で、いろいろな伏線を仕込むから
この先の展開が自分でもどうなるかわかんないわけです。
- 糸井
- 『おそ松くん』とかを連載で読んだことあるけど
全然気にすることないよって思うね。
おそ松くんが主人公で六つ子の物語を書いたはずなのに
チビ太やデカパンとか異形の者たちの話になってるしね。
- 浅生
- これもそうです。
まず最初に原稿用紙で500枚ほどの話を書いたんですよ。
それまでの物語を解決するための舞台回しとして
あるキャラクターが登場する。
そしたら編集の方に
「この人を主人公にもう1回書きませんか」って言われて、
その500枚はもう思い切って全部捨てて
ゼロから書き直しました。

- 糸井
- めんどくさがりなのにね‥‥
書き終えたときは作家として
新しい喜びってありましたか?
- 浅生
- マラソンを最後まで走れたっていう達成感というより
安心感のほうが大きかったですね。
もともと自分で走ろうと思って
走り出したマラソンではなくて、
誰かにエントリーされて走るって感覚でしたから。
- 糸井
- 浅生さんに代わりに走ってくれって頼んだとしても、
これだけのことをやってるって、
周りからも見られてるから
自分で手を挙げてなくても挙げたことになっちゃう。
例えば、小津安二郎『秋刀魚の味』みたいな作品で
少年が読んでもおもしろい内容を書いてくださいとかね。
- 浅生
- 書いてるうちに、必ずどこかで『エビくん』みたいな
妙なものが混じるんです。
糸井さんは18年間毎日原稿書いてますよね。
- 糸井
- ほんとうに嫌なんだ。
でも、毎日続けてるっていうアリバイができるから
かえってその方が楽なんだと思う。
日曜も営業してる蕎麦屋がまずくてもね
しょうがないよって言ってあげて。
努力賞が欲しいね、ぼくも。
- 浅生
- 毎日続けてるっていう努力賞ですね。
- 糸井
- うん。その努力賞で稼ぐ。
- 浅生
- やっぱり、めんどくさいですよね。
- 糸井
- いや。書くのが嫌いな人には
浅生さんのやってることはできないです。
『伴走者』(講談社「群像」2016年9月号掲載)も持ってますよ。
こっちの方がすっと読める気がしますね。
- 浅生
- そうですね。『伴走者』の方が大人向けです。
読み始めると早いんですよ。多分、小1時間もかからない。
- 糸井
- それでならしてから『アグニオン』を読みましょう。
タイトルだけでも苦しいから
「神々の黄昏」とかさ、そういうタイトルにしてよ。

- 浅生
- 何だかわかんないタイトルにしたかったんです。
- 糸井
- ペンネームだって明らかに本名じゃない人が書いてるし、
何だかわからないものにする癖がついてるんですかね。
- 浅生
- そうかもしれない。
- 糸井
- めんどくさいなら
表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。
やっぱり表現しない人生は考えられないでしょ。
- 浅生
- 困ったものでその通りです。
きっとそこが一番の矛盾ですね。
- 糸井
- 仕事もしたくないし、何にも書くことがない。
でも何か表現してないとダメっていう矛盾。
- 浅生
- 生きてられないんです。
でも受注がないと、自分からはやらないっていうね。
考えてみると、ひどいですよね。
- 糸井
- 受注があれば、めんどくさいけど
ぼくは表現する欲が満たされる。
だから、多いに好きでやりますよってことですね。
そこが似てるんじゃないかなぁという気がしますね。
- 浅生
- 何かに、かこつけてるんですかね。
- 糸井
- うん。そうねぇ。何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
- うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
- 表したい欲ですよね。
「表したい欲」って、裏表になってるのが
「じっと見たい欲」ですよね。
- 浅生
- じっと見たい欲?
- 糸井
- うん。多分表現したいってことは、
よく見たいとか、もっと知りたいって
そういうことでしょう?
- 浅生
- 画家の目が欲しいんですよ。
普通の人とは、また違う見方をするじゃないですか。
きっと画家の目があると、おもしろいんだろうなって。
- 糸井
- 絵を描いてたほうが、画家の目を得られるんじゃない?
- 浅生
- そうかもしれないです。

- 糸井
- ほんとうに、画家の目ってすごいです。
しかも、個性によって、実は違う目だったりする。
それは、ぼくが普段考えている「女の目が欲しい」とか
同じじゃないですかね。
受け取る側の話をしてるけど
やっぱり表現欲と表裏一体ですよね。
さっき、ぼく臨終の言葉を言ったので、浅生さんの死ぬときの最期の言葉はどうでしょう。
- 浅生
- 前に死にかけたときは
心から死にたくないって思ったんですよ。
もし今、急に死ぬとしたら「仕方ないかな」ですね。
- 糸井
- ぼくの「人間は死ぬ」って言うのと、
あまり変わらないような気がしますね(笑)。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- これで今日は終わりにしましょう。
- 浅生
- ありがとうございました。