- 糸井
- 小説を書き始めたのは、頼まれ仕事ですか?
- 浅生
- はい。
- 糸井
- 自分からはやらない?
- 浅生
- やらないですね。
- 糸井
- 頼まれなくてやったことってあります?
- 浅生
- 頼まれなくてやったこと‥‥、仕事でですよね?
- 糸井
- いや、仕事じゃなくてもいいです。
- 浅生
- ないかもしれない。
何ですかね、この受注体質な‥‥。
- 糸井
- 東北の震災当時、テレビが見れない被災者のために、NHKのニュースをユーストリームで一般の方が上げてるのを、自分の独断で許可しますっていうのは、日本のSNS史上に残るぐらいの決断だと思うんですけど。あれは自分から? 誰も受注しないですよね。
- 浅生
- いや、でもあれも「こういうのが流れてるのに、何でNHKリツイートしないんだよ」みたいなのが来て、初めてそれで知って、だから言ってみれば人から言われてやったようなもんで。自分で探して見つけたわけではないから。
- 糸井
- まぁ、それはそうだろうけどね。
- 浅生
- まぁ、でも、やるって決めたのは自分ですよね。
- 糸井
- 見つけてくるところまでは無理だよ、それは。
- 浅生
- 知らないですから。「こんなのがあるんだから、リツイートしろよ」みたいなの来て、「これはやるべきだな」と思って。
- 糸井
- あのあたりが、すごく「決断だな」っていうのは言えるし同時に「これは決断しちゃうでしょう」っていうくらいの雰囲気もあったよね。その大きな波っていうのが読めた瞬間ですよね。大きく逆らって磔になるようなことしたわけじゃなくて。
- 浅生
- いいことですから。
- 浅生
- ぼくが1番緊張したのは、「これからユルいツイートします」って書いたときが1番緊張しましたね。
- 糸井
- あぁ。
- 浅生
- あっちのユーストリームを流すのは、最悪クビになるだけじゃないですか。でも、「今からユルいツイートします」っていうのを、日常的なことをやりますっていうのを書くときは、やっぱり相当悩んだんです。多分半日ぐらい悩んだんですよね。何度も文章を書き直して、ほんとにこれでいいかなっていう。要するに1人で舵切ろうとしたんで、「ほんとにこれでちゃんと舵が切れるか」っていう。まぁ必要だろうなぁっていう。
- 糸井
- どっちが悩んだかっていうのも、よくわかりますね。それは、最悪どうなるっていうのが見えないことだからね。
その、嫌な間違い方をしたくないっていう怖さは(当時の)僕にもありました。
- 浅生
- ぼく、女川に震災直後から行ってFM作ったりとかしてたんですけど、それあんまり言わないようにしてたんです。メディアの人はよく一次情報が大事だって言うんですけど、ぼくはあんまり信用してなくて‥‥自分がそこに行って見たからって全部見てるわけでもないじゃないですか。でもまぁ、自分で見て自分でやって感じたことをちゃんと言えるっていう安心感のために行ってました。実感がないまま何か言うのはちょっと嫌だなと思ったので。
あとぼくは寄付はしたくなかったので、福島に山を買ったんです。もちろん、ぼくが買える程度の金額なので、全然大したことはないんですけど。山を買うとどうなるかっていうと、毎年固定資産税を払うことになるんですよ。そうすると、ぼくがうっかり忘れてても勝手に引き落とされるので、ぼくがその山を持っている限りは永久に福島のその町とつながりができる。
- 糸井
- 今も持ってるんですか。
- 浅生
- 今もです。だから「あっまた引き落とされてた」みたいな。
- 糸井
- 多分、浅生さんと僕は「ああいうのが嫌だな」っていう感覚が似てるんじゃないかな。意地悪なんだと思う、2人とも。
- 浅生
- ぼく、意地悪じゃないです。
- 糸井
- いや、要するに嫌なものがあるんですよ、いっぱい。その嫌なものって「何で嫌なんだろう」って思うと、「自分はそういう嫌なことしたくないな」って思う。そうすると、面倒でもそういう方法を。
- 浅生
- ぼくはだから、ストラクチャーを構築する。ストラクチャーを構築してシステムにしちゃうと、何もしなくてもそうなっていくので、そうしちゃいたいんですよね。
- 糸井
- そうそう。予算に組み込んじゃうとかさ。「人は当てにならないものだ」とかね、「人って嫌なことするものだ」とか、そういう意地悪な視線っていうのは、鴨さんのエッセイとか小説とか読んでてもそういうもんだらけですよ、やっぱり。
- 浅生
- 人間ってそういう、しょせん裏表がみんなあるのに、ないと思ってる人がいることがわりと不思議です。
- 糸井
- 「私はそっちに行かない」とかね。
- 浅生
- そんなのわかんないですもんね。
- 浅生
- ぼくいつも、自分が悪い人間だっていうおそれがあって。人は誰でもいいとこと悪いところがあるんですけど、自分の中の悪い部分がフッと頭をもたげることに対するすごい恐怖心があるんですよ。だけど、それは無くせないので、だから「ぼくはあっち側にいるかもしれない」っていうのを、いつも意識するようにしてます。
- 糸井
- そのとき、その場によって、どっちの自分が出るかっていうのは、そんなに簡単にわかるもんじゃないですよね。
- 浅生
- そうです。
- 糸井
- 「どっちでありたいか」っていうのを普段から思ってるっていうことまでが、ギリギリだと思います。
(つづきます)