- 糸井
- 今まで姿を出さないでいた理由っていうのは。
- 浅生
- 何か「めんどくさい」が。
- 糸井
- めんどくさいだったんですね。
漫画家の方とかと同じですよね。
あの写真でわかっちゃったことだけど、
「あなた日本人じゃないですね」って聞かれて
「ワッカリマセン」って言えば、
通じちゃうような外見ですよね。
- 浅生
- 意外に通じないんですよね。
ハンパなんです。そのハンパなのを、
「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、
父方がヨーロッパの血が入ってて‥‥」
みたいに一々説明するのがもうめんどくさくて。
聞く人は1回なんですけど、
言う側は子どもの頃から何万回って言ってて、
もう飽きてるんですよね。
- 糸井
- 暗に「ここでも聞くな」
っていうふうにも聞こえますけど。笑
- 浅生
- そんなことないですけど。
何度も答えていて飽きてくると、
ちょっと茶目っ気が出て。
- 糸井
- 嘘を混ぜる。
- 浅生
- そう。ちょっとおもしろいことを
混ぜちゃったりするようになるんですよ。
そうすると、その時々でちょっと混ぜた
おもしろいことが相互作用して、
すごいおもしろいことになってたりして。
- 糸井
- 嘘つきになっちゃったわけですね。
- 浅生
- それで、相手が誤解とかして「こうじゃないの」
って言ったときに、訂正もめんどくさいから
「そうなんですよ」って言うと、そうなるんですよね。
- 糸井
- なりますね。思いたいほうに思うからね。
- 浅生
- AさんにもBさんにも訂正をしないから、
AさんとBさんでは違う「そうです」になってて。
それがAさんとBさんとぼくが一緒にいると、
話がすごいことになっちゃうわけですよ。
さらにぼくが説明するのめんどくさいから、
「いや、もう両方合ってます」みたいなことを言うと、
もはや完全にぼくと違うものがそこに存在し始める。
- 糸井
- それは小説家だってことじゃない。
空に書いた小説じゃない。
- 浅生
- そうですよね。
- 糸井
- そういうユラユラしてる場所に立たされてると
明らかに心がそういうふうになりますよね。
だから、嘘言ったり、デタラメ言ったり、
めんどくさいから「いいんじゃない」って言ったり。
今もそうですよね。
- 浅生
- そのときそのときで、嘘は言ってないんですよ。
- 糸井
- どうでもいいことについての嘘は、
もう無数に言ってますよね。
それが仕事になると思わなかったですね。
- 浅生
- ビックリしますね。
- 糸井
- 嘘の辻褄合わせみたいな仕事だね。
- 浅生
- 合ってなくてもいいんです、別に。
最近ずっと書いてる短編なんかは、
辻褄を合わせないほうが、おもしろいんですよね。
- 糸井
- 投げっぱなし。
みんな辻褄に夢中になりすぎですよね。
- 浅生
- 決着を付けたがるので。でも、そんなに物事、
辻褄がうまく行くとは限らないし。
- 糸井
- 辻褄の話は、どっかで特集したいですね。
だから、辻褄をやめます。
浅生さんが人生を変えるような経験についても
もう何万回としゃべってる?
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- これ、このまんま聞かないでおこうか。
人生を変えるような大事件が
浅生さんの身の上に起こって‥‥。
- 浅生
- 「すごいことが起こったんです。でも言わない」
みたいな(笑)。ヒドイです。