もくじ
第1回淀川長治さんのお葬式 2016-11-08-Tue
第2回「たくさん映画を観なさい」 2016-11-08-Tue
第3回「友情愛情をぐっとつかんで離さない世界」 2016-11-08-Tue

日本文化と食と寅さんを愛する、87生まれ。サブカルから伝統文化まで、いろんなことを書くお仕事をしています。ロマンチックに生きたい、です。Twitterはここです。

淀川長治さんと父と私。

淀川長治さんと父と私。

担当・羽佐田瑶子

第2回 「たくさん映画を観なさい」

父は、淀川さんの生き方を敬愛し、マネをしているような人でした。
淀川さんが小学生の時、
学校を抜け出して映画館に通っていた話を聞いて
父も中学生の時、学校をサボっては
映画館に行っていたそうです。
映画の友やキネマ旬報を毎号買い、
それは今でも家に大切に保管されています。


父は、淀川さんの人生観にも多くの影響を受けていました。
「小さい時もそれぞれ感受性を持っています。
きれいな映画、冒険、
頑張って生きていく意志、危機一髪を助かる力、
そういうのを見ると勇気とか美の感覚とかを持つので
小さい時にもいい映画をみせてあげてくださいね。」

そう言った淀川さんの言葉どおり、
「勉強しろ!」と言われた記憶はありませんが
「映画は観たほうがいいよ」とは何度も言われました。
映画館に行くお金も、できるだけ出してくれました。
レンタルビデオ店で、お小遣いをにぎりしめて映画を借りてくると、
「どんな映画を借りてきたの?」と必ず聴かれ
今日はアカデミー賞をとったものを借りてきた、
今日はひげのついたおじさんの映画だよ
(チャップリンのこと)と言うと
「おもしろそうな映画を借りてきたね」と
必ず褒められました。
大きくなってから淀川さんの自伝を読んだとき、
淀川さんも同じような育てられ方をしていたことを知り、
父も影響されていたんだなと思いました。

褒められるのが嬉しかった私は小学校6年生の時、
「淀川長治の選んだ名作100選」という本をにぎりしめて
1ページ目から全映画を制覇するという遊びに夢中になりました。
「映画には必ずいいところがある」という淀川さんの教え通り、
評価はしない、感想は書こうと父と約束し、メモをしていました。
素晴らしき、我人生!、道、
ベニスに死す、黄金狂時代・・・
このとき、今でも大好きで大切な映画に出逢いました。

オードリーヘップバーンの『ローマの休日』。
オードリーの美しさにひとめぼれした私は、
中学生なのにボーダーや大きなハットを買い
ベスパを購入するためにお金をためました。
『マイフェアレディ』の主人公が身なりだけではく、
言葉や心が上品に美しく変わっていく女性の姿は
私の一生の憧れですし、お手本です。

『ウエスト・サイドストーリー』では、
日常の中に音楽やダンスがある楽しさを知り
道端で唄い始めるような子になってしまったそうです。
今でもミュージカル映画が大好きですし、
日常の中にロマンがある人生を歩みたい、と思っています。

父と母はよく言いました、
「たくさん映画を観なさい」と。
そのおかげで、私と弟は小さなころから
本当にたくさんの映画を観せてもらいました。

映画から一番教わったことは
「人間はおもしろい」ということです。
時には悲しくて観ていられない映画もありましたが、
どの映画にも不器用でも愛すべき人間の生き方が描かれ
教室が世界だと思っていた私は、
人間は難しくて、美しくて、おもしろいことを知りました。
淀川さんはご自身が好きな映画について、こう語ります。
「美しく、人間がよく描かれているもの。
全編に制作する人たちの心配りがあるもの」と。
心を大事にされ、上品なものや美しいものを愛する
淀川さんらしい考えは、私の中にも根付いています。

(つづきます)

第3回 「友情愛情をぐっとつかんで離さない世界」