もくじ
第1回 2016-12-06-Tue
第2回 2016-12-06-Tue
第3回 2016-12-06-Tue
第4回 2016-12-06-Tue

ふだんは本の編集をしています。今回「ほぼ日の塾」を通して、改めて編集はおもしろいなあ、と思いました。貴重な機会をありがとうございました!

八ヶ岳に</br>ギャラリートラックスがあるだけで

八ヶ岳に
ギャラリートラックスがあるだけで

担当・レレレ

第3回

――
トラックスは、二郎さんの作品を展示する
ギャラリーとして始まったんですか?
悦子
八ヶ岳に来て、二郎さんがつくるものを見ていて、
それがすばらしかったから、二郎さんがつくったものを
並べてギャラリーをやるのはどうだろう、と
思ってはじめたんですけど、実際に、二郎さんの個展を
やったのは、何年も経ってからでした。
 
最初は、知り合いの陶芸家が、地元の作家を
紹介してくれたり、友人のアーティスト角田純さんが
現代美術の作家や写真家に声をかけてくれて、
始まったんです。
 
ギャラリーの運営は、主にわたしがやっていて、
二郎さんは、2週間ごとの展示のたびに、
その作品にあわせた展示台や装置をつくりだして、
しつらえや照明を含めて、
空間まるごとつくり変えてしまうんです。
だから、同じ場所なのに、ドアを開けるたびに、
まったく違うところになっていて、
みんな、すごく驚いていました(笑)
 
しかも、作品の力を120%くらいアップさせる
展示をするから、作家のひとたちもよろこんでくれて、
いつもみんなに新鮮な驚きを与える人でした。
――
それは、見てみたかったです。
悦子
そのうちに、二郎さんに店舗設計の相談が入ったり、
こういうテーブルを家にもつくってほしい、という
依頼がぽつぽつ入るようになって。
 
当時は、ショップに廃材を使うという発想自体が
なかったから、すごく新鮮にうつったみたいで、
クリエーターやファッション関係の人たちが、
こぞってやってくるようになったんです。
 
でも、二郎さんは、トラックスをどういう場所にしたいか、
尋ねられても、ぼくの意思はあまり重要じゃなくて、
トラックスがひとり歩きしていくんですよ、と言って、
あくまで、自分はギャラリーのサポーターだと思っていて、
オーナーと呼ばれるのをすごく嫌がっていました。
 
いまでも、トラックスに来て、ギャラリーの展示でなく、
二郎さんのつくったものをしげしげと見ている人も
けっこういて、木工でもやられているんですか、と聞くと、
いえ、建築家です、みたいなことがよくあって(笑)
――
二郎さんの影響を受けて、作り手になった人が、
いろんなところにいらっしゃるんですね。
悦子
しかも、同じことをやるのが嫌いな人だったから、
次はなにをするんだろうって、みんな楽しみにしていました。
 
古材を使った家具をつくっていたら、廃材ブームが来て、
二郎さんはそれを嫌がって、今度は、ホームセンターで買える
ものだけでつくる、と言い出して、ベニヤ板を使い始めたり、
そのあとは、映像を撮りだしたり。
――
興味が移り変わっていくきっかけは、何かあるんですか?
悦子
やっぱり自然のなかで、インスパイア―されて
いたんじゃないかな。
 
椅子特集の本が出ていたよ、買ってこようか?
と聞いても、あー、見ない見ない、
そんなの見ても影響受けるだけだから、と言って、
森の中に入っていってしまうんです。
――
(笑)
悦子
八ヶ岳に来て、ほんとうに彼は変わったんです。
 
縁あって、こちらに移ってきて、
最初に住んだのは、築130年のくらいの農家でした。
それからトラックスを始めるにあたって、
住みだして、その後、家のうしろに
草原が広がっている、すごいロケーションのところに
住まい兼アトリエをもったこともあって、
自然のまっただなかで、どんどん創作意欲が
広がっていったんでしょうね。
 
朝でかけていって、お昼ごはんを食べに戻ってきて、
夕方、暗くなるまで帰ってこないので、
なにをしているのか、と思っていたら、
ある日、森のなかに案内してくれて、
ずっとひとりで、自然にあるものを材料に、
オブジェのようなものをつくっていたことがわかって、
驚いたり…。そういう毎日の連続でした。  
 
ただ、ギャラリーをやっていると、
どこか文化的なものに触れたい気持ちもあるものだから、
映画やコンサートに行けないなんて、
と思うこともあったんですけど。
 
あるとき、わたしがリゾートに行きたいって言ったら、
二郎さんが、こんないいところに住んでいて、
どこに行きたいの?!って(笑)
――
いまここにある暮らしこそが、なによりも楽しいんだ、と。
悦子
ほんとうに、日常のなかに非日常を見つけだす天才でした。
 
えっちゃん、ちょっと2階にあがってきて、と言われて、
階段をのぼっていくと、部屋の窓いちめんに、
ちいさな灯りがともっていて、えーーー、ここはどこ?!
なんてこともありました。

(つづきます)

第4回