もくじ
第1回 2016-12-06-Tue
第2回 2016-12-06-Tue
第3回 2016-12-06-Tue
第4回 2016-12-06-Tue

ふだんは本の編集をしています。今回「ほぼ日の塾」を通して、改めて編集はおもしろいなあ、と思いました。貴重な機会をありがとうございました!

八ヶ岳に</br>ギャラリートラックスがあるだけで

八ヶ岳に
ギャラリートラックスがあるだけで

担当・レレレ

第4回

――
お話を聞いていると、二郎さんのまなざしを借りて、
世界を見ることができたら、と思ってしまいます。
悦子
ほんとうに、いつもなにかおもしろいことをやってました。
うちに帰ると、焚き火をしていたり、縄文土器のかけらを
掘り出してきて、すごいの見つけた!って言っていたり(笑)
 
それが、911のときに、世の中ひどいことになっている、
人類はこのままじゃダメだ、と気づいてしまったって。
それまでは、政治や社会の問題にのめり込むことはなくて、
できることなら、つくることだけを考えていたい、
という人だったんだけど、それからは、ずっとBBCばかり
見つづけていて。
――
よっぽどショックだったんですね。
悦子
社会も人類も憂いて、亡くなる1、2年前くらいは
寡黙な重いひとになってしまって…。
どうしたらいいんだろう、という思いを、自分の内側に
溜めこんでしまっていたんだと思うんですけど。
 
人が多すぎるから、お金もいるし、どんどん複雑にして
お金を生み出す、世の中になってしまっている。
それを単純にするのは、本当に難しいって。
地球の行く末や未来のようなものを、いつも考えていて、
「遠くに灯りが見えるんだけど、消えそうなんだよね」って
よく言っていました。
――
まさに今の時代の感じですよね。
悦子
そうなの。
――
灯りが見えているうちは、まだかろうじて大丈夫だけれど、
それを絶やさないようにしていかないと…。
悦子
それで、二郎さんは自分の思いとして、トラックスに
”HOPE”を描いたんです。
 
わたしが、「地球に”HOPE”はある?」って聞いたら、
「いやあ、消えそうだけれど、まだついてるよ」って。

――
病気のことがわかったのは、突然だったんですか?
悦子
その頃、カンボジアに映像を撮りにいっていて、
帰国後に、病院についてきてって言うから、
一緒に行ったら、大学病院を紹介されて、
検査をしたら、すい臓がんだということがわかって。
でも、手術はしないということで、
自宅で、訪問看護の治療を続けながら、
親しい友人にだけ伝えて。
ガンが見つかって、2ヶ月でした。
 
そのときの二郎さんを見ていて、
死にざまって、生きざまなんだな、と感じたんです。
わたしは、治そうという気持ちでいてほしかったんだけど、
もう、やることは全部やっちゃったから、って。
 
八ヶ岳に来てからの10年間で、あれだけつくって、
ありとあらゆることをやり尽くした。
ほんとうに凝縮した10年間だったんだと思います。
――
もし、二郎さんがまだお元気でいらしたら、今のこの状況を
どう思われたんだろうなあ、と思ってしまいます。
悦子
江戸時代とかだったら、長寿で、ずっと、
ものをつくり続けていたかもしれないけれど、
二郎さんにとっては、もうあの時点で、
世の中が、ギリギリだったんだろうなあって。
わたしが思っていた以上に、
ものすごく繊細で、世の中のことを考えだすと、
敏感に反応してしまう人だったから。
――
ただ、トラックスがあることが、
二郎さんを感じられる場所がこうしてあることが、
みんなにとって、大きな支えになっている
ようにも感じます。
悦子
いまでも、ここを大事に思ってくれている人がたくさんいて、
そのおかげで続けることができていて。
お金に変えられない豊かさがこうしてあることは、
本当にみんなのおかげだなあって。
 
この場所をもとに「地縁」でひとが集まっているって、
よく言うんですけど、別の意味のDNAでつながっている関係。
それは「血縁」の血よりも、よっぽど濃いよねって。
 
ギャラリーをやっていると、世代を超えて、
いろんな人と出会えて、それこそ、若いころから知っている
アーティストが子供をつれて遊びに来てくれたり、
気づいたら、たくさん子供や孫がいるようなものだから(笑)
 
二郎さんが亡くなる一年前くらいから、
展示をやらなくなって、ひたすら映像ばかり流していたので、
いつ来ても真っ暗だし、これじゃあ、
お客さんが来なくなっちゃうよ、って言ったんです。
そうしたら、二郎さんが…
 
「いいんだよ、えっちゃん、八ヶ岳にトラックスがあるだけで」
 
その言葉が、今もわたしのなかにずっとあるんです。

ギャラリートラックス
〒408-0017 山梨県北杜市高根町五町田1245
http://www.eps4.comlink.ne.jp/~trax/main/top.html
OPEN / 金・土・日・月曜日 12〜5pm
※ランチは事前に予約を