出発のちょうど1時間前に
シアトルのキングストリートステーションに到着。
荷物を預けて、さぁそろそろホームに行こうかという時に
「停電により遅延」とのアナウンスが入った。
日本なら「お急ぎのところ恐れ入ります」といった
お詫びのアナウンスが流れるところだが、ここはアメリカ。
特に詫びる感じもなく、
ほかの乗客も「いつものことね」といった感じで
椅子に腰を戻して静かに次のアナウンスを待っていた。
私はというと、6年間務めた会社を退職した後に渡米し、
1年間の勉強を終えたばかりだった。
日本へ帰国する前に最後の贅沢をしたいと思い
このシアトルからロサンゼルスの一人旅を計画。
飛行機を使えばたった2時間半の距離を
36時間かけて横断する。
遅延のハプニングさえも、ワクワクした。
1時間以上遅れることも当たり前のアムトラックだが、
今回は30分遅れで済んだ。
アムトラックに乗り込むと客室乗務員が
「ハイ!」と満面の笑みで迎えてくれた。
個室は向かい合わせのシートをスライドすると
ベッドのようになり、大柄な男性でも十分快適に
過ごすことができるスペースが確保されていた。
座り心地を確かめたあとは、さっそく車内を探検!
パーラーカー(一等級乗客専用特別車)では
ワインテイスティングを楽しむシニアグループ、
ソファに座りながら景色を眺めている中年夫婦、
互いを干渉せず本を読んでいる若いカップルなど、
それぞれ楽しんでいる姿があった。
私も一席を借りて、ただゆっくりと景色を眺めた。
ワシントン州の風景が時速30マイル(約50km)で流れる。
私が暮らしていたサンディエゴという街は
カリフォルニアの最南端に位置し、
ラテンの雰囲気を残した美しいビーチが有名な
にぎやかな場所だったが、
目の前に広がるワシントン州の風景は
静かでみずみずしい緑と清らかな空が印象的だった。
アメリカに来てつらいこともあったけど、
眼前の大きな自然が象徴するように
アメリカは大きい国で多様性に対する寛大さが大好きだった。
もうすぐアメリカを離れるという現実を考えると
急にセンチメンタルな気持ちになった。
(つづきます)