もくじ
第1回旅のはじまり 2016-12-06-Tue
第2回相席の昼食 2016-12-06-Tue
第3回朝日が昇る 2016-12-06-Tue

北海道出身
北海道育ち。
『水曜どうでしょう』が大好きな子どもでした。

鉄道の旅

鉄道の旅

担当・sunrise

人はなぜ旅をするのか。
私はまだその答えを見つけることはできていないけど、
大人になるにつれて旅に求めるものは変わっていった。
昔は目的地での過ごし方ばかり考えていたけれど、
いまは旅をする時間そのものを楽しみたいと思う。
私のおすすめは「鉄道の旅」。

アメリカはシアトルからロサンゼルスまでを36時間かけて、
アムトラックという鉄道を使って移動した時の回顧録です。

アムトラック(Amtrack)とは
アメリカ大陸を縦横無尽に走る旅客鉄道のことです。
車社会(長距離の場合は飛行機が当たり前)のアメリカにとって、
そもそも鉄道は一般的な乗り物ではありません。
料金も食事込みとはいえ、決して安くはないですし、
数時間の遅延もよくあることなので、
乗客のほとんどは鉄道の旅が好きな人、
またはゆっくり旅をしたい観光客が多いように思います。

鉄道の旅の魅力を、少しでもみなさんと共有できればうれしいです。

第1回 旅のはじまり

出発のちょうど1時間前に
シアトルのキングストリートステーションに到着。
荷物を預けて、さぁそろそろホームに行こうかという時に
「停電により遅延」とのアナウンスが入った。
日本なら「お急ぎのところ恐れ入ります」といった
お詫びのアナウンスが流れるところだが、ここはアメリカ。
特に詫びる感じもなく、
ほかの乗客も「いつものことね」といった感じで
椅子に腰を戻して静かに次のアナウンスを待っていた。

私はというと、6年間務めた会社を退職した後に渡米し、
1年間の勉強を終えたばかりだった。
日本へ帰国する前に最後の贅沢をしたいと思い
このシアトルからロサンゼルスの一人旅を計画。
飛行機を使えばたった2時間半の距離を
36時間かけて横断する。
遅延のハプニングさえも、ワクワクした。

1時間以上遅れることも当たり前のアムトラックだが、
今回は30分遅れで済んだ。
アムトラックに乗り込むと客室乗務員が
「ハイ!」と満面の笑みで迎えてくれた。

個室は向かい合わせのシートをスライドすると
ベッドのようになり、大柄な男性でも十分快適に
過ごすことができるスペースが確保されていた。
座り心地を確かめたあとは、さっそく車内を探検!

パーラーカー(一等級乗客専用特別車)では
ワインテイスティングを楽しむシニアグループ、
ソファに座りながら景色を眺めている中年夫婦、
互いを干渉せず本を読んでいる若いカップルなど、
それぞれ楽しんでいる姿があった。
私も一席を借りて、ただゆっくりと景色を眺めた。
ワシントン州の風景が時速30マイル(約50km)で流れる。

私が暮らしていたサンディエゴという街は
カリフォルニアの最南端に位置し、
ラテンの雰囲気を残した美しいビーチが有名な
にぎやかな場所だったが、
目の前に広がるワシントン州の風景は
静かでみずみずしい緑と清らかな空が印象的だった。
アメリカに来てつらいこともあったけど、
眼前の大きな自然が象徴するように
アメリカは大きい国で多様性に対する寛大さが大好きだった。
もうすぐアメリカを離れるという現実を考えると
急にセンチメンタルな気持ちになった。

(つづきます)

第2回 相席の昼食