次の日は列車の汽笛の音で目が覚めた。
まだ窓の向こうはうす暗い。
すっかり目が覚めてしまったので、
ラウンジで熱々のコーヒーを飲みながら
朝日に彩られていく風景をただしばらく眺めることにした。
しばらくすると一人の中国系アメリカ人女性に声をかけられた。
彼女の名はバーバラ。
ロサンゼルス近郊にオフィスのある日本車メーカーに
勤めて5年以上になるという。
今年は娘さんの大学卒業と就職も決まり、
育児がひと段落したので休暇を使って一人旅をしていた。
私が日本人だとわかると
「日本の車は本当に燃費がいいわよね。
私は特にマツダが好きなのよ」
と瞳を丸くして笑った。
それから、彼女の生い立ち、アメリカの保険制度、
日本の100円ショップの偉大さ、毎日緑茶を飲んでいること、
娘に彼氏ができなくて心配していることなど、話は尽きない。
途中からは隣りに座っていた老夫婦も話に加わって、
彼らの孫について話を伺った。
いろんな人がいる。いろんな人と出会える旅だ。
午後は読書にふけることにした。
石川直樹著の「最後の冒険家」を読みつつ、
ときどき窓の向こうの景色に目を向けた。
乗車時に「ハイ!」と声をかけてくれた客室乗務員が
この後アーティチョークの畑が見られることを教えてくれた。
本場のイタリアよりも生産量が多いという。
さっそくビールを頼んだ。
田園風景と読書とビールと全部をよくばりたかったから。
夕方からは時の流れが早く感じられた。
窓の向こうからは夕日がこちらを見ていた。
水平線のヨット、列車に手を振る子ども、
ビーチを歩くカップル、波を待つサーファー。
大都会がすぐそこまで来ているのが感じられた。
ロサンゼルスはすぐそこだ。
(旅の終わりです。ありがとうございました。)