昼食は食堂車で取ることになっていた。
乗務員がランダムに席を案内してくれる。相席だった。
同じテーブルには私のほかに3名。
アメリカ人カップルのマークとイザベル。
そして一人旅をしているアメリカ人男性のアレックス。
マークとイザベルは見ているこっちが恥ずかしいくらい
終始イチャイチャしていた。
若くていいな、と最初はうらやましく思っていたが
だんだん「はいはい、もういいですよ」と言いたくなった。
アレックスはシアトル在住。
私の拙い英語にじっと耳を傾け、
ゆっくり、わかりやすく話してくれる紳士的な人だった。
ロサンゼルスの近くで育ったそうで
今回は父親を訪ねる旅だと教えてくれた。
それは楽しみだね、と伝えると、
神妙な表情で、少し間をあけてからこう言った。
「父とは長く確執があってね…。
でも昨年、父がガンであることがわかったんだ。
一緒に今後のことを話したいと思っている」
家族の深刻な問題でも私のためにわかりやすく説明してくれる、
そこに彼の優しさが表れていた。
飛行機ではなくアムトラックを選んだのは、
父親に会う前に一人で考える時間がほしかったからだと言う。
わかる気がした。私の父も病と闘っている。
ふと、周りの乗客を見渡してみた。
ここにいる誰もが何かしらの悩みや問題を抱えている。
アムトラックは、目的地へ正確に最短時間で
到着するための手段としては落第点だけど
自分の心と向き合う時間を求めている人には、きっと応えてくれる。
心の旅をしている人が、他にもきっといるのかなと思った。
(つづきます)