- ──
- 最初のきっかけはツイッターなんです。
ある日、タイムラインを見ていたら、
千代くんと共通の知り合い経由で
見たことない作品が目に飛び込んできて。
- 千代
- 途中経過も載せていたんですけど、
最終的な完成形を載せたら、友だちが拡散してくれたんです。
- ──
- はい。その完成形に心を奪われました。
「なんだこりゃ」と。
作品そのものと、つくった方に興味を持って。
それで、知り合いに聞きました。
「これをつくった方ってどういう人?」
そうしたら「幼なじみだよ」って(笑)。
また、そこで驚いて。
というのも、ぼくと同い年ですし。
- 千代
- そういえば同い年でしたね。
- ──
- 同性代で陶芸の作品を
つくっている人がいるんだということと、
こういった作品をつくる人がいるんだ、
という二重の驚きがあって。
「会えますかね」と知り合いに頼んだんです。
陶芸の作品をつくってる方って、
自分の身近にはいなかったので。
- 千代
- 興味を持っていただいて。
- ──
- ここで活動をしていて、
陶芸も教えているから
連絡してみればと言われて。
- 千代
- そうですね。
- ──
- ぼくは深大寺にいったのが、そのときはじめてで。
環境がいいですよね。空気もきれいだし、
時間もゆっくり流れている気がするし、
あと蕎麦も美味しい(笑)。
- 千代
- 観光地としての面もあるんだけど、
そこまで混雑はしてないですね。
ゆったりとしていて。
- ──
- 夏にはじめて訪れたとき、
印象としては、ジブリのような世界観を
もっている場所だなあと。
温かみもありますよね。
- 千代
- お客さんと同じ場所で
お店の作業をしているところに
親近感のようなものがあるのかなあ。
- ──
- 身近に感じられるんだけど
別世界に来たような、そんな違和感が心地よくて。
今回、また取材という形でこさせてもらって、
季節は変わっているんだけど、また趣がありますね。
- 千代
- 冬は冬で、また別の。
- ──
- 風鈴の音が鳴っていて、
外は開いていて、ストーブもあって。
いいなあって。
- 千代
- 夏も窓があいているんで、
風がぱーっとぬけて、風鈴もチリンチリンって。
- ──
- その場で陶芸を教えてもらいながら
お互いの話をして。
また今度ご飯いきましょうって。
- 千代
- ええ。そこからですね。
- ──
- ぼく自身、一度しっかり、
お話をうかがってみたかったんです。
- 千代
- それはありがたいです。
- ──
- 千代くんは特殊メイクの仕事から
陶芸の道に転向したんですよね。
- 千代
- はい。特殊メイクのあとに陶芸へ。
なかなか珍しいタイプだとは思います。
- ──
- 特殊メイクの道を志したきっかけはなんでしょう。
- 千代
- 中学生のころからエイリアンや
クリーチャーの作品が好きで。
ものづくりの方面にいきたいなと思っていたんです。
あるときメイキング映像をみて
「こんな仕事あるんだ」と。
「あ、これかもしれない」
と思い始めたのがはじめですね。
- ──
- そういう造形をつくって表現をしたいと。
- 千代
- はい。調べていくうちに、
特殊メイクとか造形の専門学校をあることを知って。
地元が鳥取なんですけど、
高校を卒業して東京に行こうと。
高校1年生のときには決めていました。
- ──
- はやいですね!
当時から将来、特殊メイクや造形の
プロフェッショナルとして活動したいなって
思っていたわけですか。
- 千代
- 方向としてはそうですね。
もともと芸術家に憧れていました。
作品をつくって、その対価として
お金をいただいて生活をしていくような。
- ──
- 裏方として自分のつくったものを
世の中に発信したいと。
- 千代
- もちろん自分の名前も
世に出していきたいのはありましたね。
そういう想いを持って上京しました。
- ──
- 特殊メイク漬けの毎日ですか。
- 千代
- そうですね。
授業の後も居残りして作業を続けるとか。
没頭してやっていました。
- ──
- 専門学校ということは2年間ですかね。
- 千代
- はい。ぼくの通ってた専門学校は2年制でした。
- ──
- その先の進路も、作品をつくりながら考えるわけですか。
- 千代
- 1年経つとインターンがあります。
卒業2、3ヶ月前のタイミングからなのですが、
当時、いちばん行きたかったのが自由廊という会社で。
特殊メイクの会社で、業界でも有名です。
- ──
- ほおー。
- 千代
- でも周りのみんなは、
「あそこは人気が高いからむずかしいぞ」って。
ぼくは思いきって電話してアポをとって、
手伝いをさせてほしいとお願いをしました。
- ──
- はい。
- 千代
- 一週間後に連絡がきました。
「いついつにお願いします」と。
やって後悔しようと思って電話したおかげでした。
うれしかったですね。
はじめは1週間の期間ということだったんですけど
忙しくて今月いっぱいまで、というように延長が続いて。
そのころは辛いようなことはなくて、
とにかく吸収しようと取り組んでいました。
- ──
- 鍛えられたわけですね。
- 千代
- ある程度は認めてもらえたのか、
専門学校を卒業した後、フリーという立場で
自由廊に出入りするようになりました。
2ヶ月くらい集中的に仕事をして、
また次回というようなスタイルで。
- ──
- 一つの案件に対して
プロジェクトのような仕事の進め方になるんですか。
- 千代
- 仕事は多種多様にあって、
人手が足りない時期に呼ばれるかんじですね。
会社も信頼できるフリーの方を探していて。
- ──
- ではフリーの方は、
いろんな会社の仕事をするような。
- 千代
- そうですね。
仕事が一段落したら、
また別の会社で仕事をする方が多いですね。
- ──
- うん、うん。
- 千代
- そういうことをやって
継続的に呼んでもらえてはいましたね。
- ──
- コンスタントには関係があって。
- 千代
- 自由廊から紹介してもらった会社で
仕事をすることもありました。
特殊メイクといっても
そういう会社って領域が広いんです。
特殊造形が多いんですが、映画のメイクとか、
イベントに展示するキャラクターの等身大の造形とか。
- ──
- 呼ばれて自分のスキルが上がっていくかんじですよね。
紹介があった会社でも仕事をしながら。
表現するモチベーションで続けてこられたわけですか。
- 千代
- はい。ただ、会社でつくっているものって
クライアントの作品ですので、
人に「これをつくったんだよ」って
自信を持って言えないところはありましたね。
すべてを自分がつくったわけではないんです。
- ──
- 「このキャラクターの、ここの角度みてよ」って
なるわけですか。
- 千代
- 自分というものをもっと前に出していきたい、
でもフリーをやめて飛び出すような踏ん切りもつかなくて。
- ──
- やめる勇気はないけれど。
- 千代
- このままで大丈夫かなと。
一つの技術に特化しているとまたちがうと思いますが。
- ──
- たとえば、彫刻だったらこの人っていう。
- 千代
- そういった腕があればいいんですけど。
サブとしての関わり方がどうしても多くて。
- ──
- よくいえばオールラウンダーな存在だったわけですよね。
- 千代
- 本来やりたかった彫刻や
作品をつくるということが、あまりできていなくて
葛藤のような感情が出てきました。
いっかい区切りがついて、
次の案件も決まっていなくて
どうしようかなって思ったときに、
いろいろ悩んではいたんですけど。
じゃあここでいったん環境を変えてみようと。
- ──
- 一歩を踏み出して。
- 千代
- はい。この業界からはなれてみようかなと。
別業種の仕事をしながら時間をつくって
自分の作品づくりに充てた方が
今後のためになるんじゃないかなって。
- ──
- 「もっと技術を磨きたい」と。
- 千代
- そうですね。
フリーですと忙しいときに呼ばれるので
自分の時間がなかなかとれなくて。
そのときの自分の仕事にどうしても追われて、
寝ないと遅刻するような生活だったので。
決意をしてからいろいろ仕事を探していました。
きっかけはまたSNSで、フェイスブックなんです。
- ──
- あら、フェイスブックで。
- 千代
- 専門学校時代の知り合いが、
深大寺で陶芸の仕事をしていて、
その方が留学するので、どなたかいませんかと。
ふと調べてみたら偶然、
自分の家から徒歩15分もかからないところに窯があって。
- ──
- へええ。
- 千代
- それで電話しました。
面接をしたその日に合格をもらって。
「いいんですか」みたいな(笑)。
そこからですね、陶芸と出会って。
- ──
- 縁というか偶然のきっかけだったんですね。
陶芸、はじめましてですよね。
- 千代
- はじめまして。
- ──
- 陶芸とは、なんぞやと。
- 千代
- はじめは陶芸そのもの自体を
あまりよく知らないところから。
- ──
- まずは陶芸のいろはを吸収してから、
自分の作品づくりになっていくんですか。
- 千代
- そうですね。
フラットな気持ちで今までの技術を活かしながら、
特殊メイクや造形的な、陶器では今までない作品を
つくれたらと思っていました。
- ──
- ああ。
- 千代
- 陶芸は手を動かしながら覚えていきました。
いろいろ陶芸にふれて、先輩方に教えてもらって。
「これってこういうものなのですか」って聞けば
教えてもらえるんですけど、ああだ、こうだはなくて。
自由な環境で、いろいろつくっていこうと。
そこから陶芸に惹かれていきました。
- ──
- 陶芸という表現ならではの魅力はありますか。
- 千代
- 粘土を焼いて、
それ自体が作品になるっていうのが、いいですね。
色づけには釉薬という薬品を使いますが、
陶芸独特の色合いの味が出ますし。
- ──
- 「焼いたらそれを作品として出せる」というのは、
これまでやってきた特殊メイクのところと
くらべてのちがいですか。
- 千代
- はい、特殊メイクや造形ですと、
粘土で彫刻して、それを型取りして。
その型に別の素材を流し込む複製のようなものですね。
- ──
- つまり、オリジナルではないと。
- 千代
- 量産はしやすいんですけどね。
その一方で、陶芸ですと
粘土で彫刻したものを焼いて完成なので、
彫刻したそのままが作品になりますし、
まったく同じものにはなりません。
フィギュアとくらべると「一点もの」なところです。
あとは焼いて作品にするときの偶然性も魅力ですかね。
- ──
- 「こんなかたちになったぞ!」っていう。
- 千代
- 焼いてはじめてわかるってことは、ありますね。
- ──
- そうして自分の作品も
つくるようになってゆく。
- 千代
- そうですね。
ただ、特殊メイクの業界をやめたとき、
あれだけ作品づくりを望んでいたのに、
自分のつくりたいものってなんだろうと思ったんです。
- ──
- ああー。
自分は、なにを表現したいのか、と。
(つづきます。)