- 千代
- リアルを追求すると、
たしかに勝てないと思います。
- 宇田川
- つくりはリアルで陶芸の世界にないんだけど、
色とか仕上げは
逆にリアルな造形の世界にはない、
陶芸の技術だからこその色をしているとか。
そういう風になってくると、価値が出てくるかもね。
- 千代
- たとえばタコの色をどうしようか考えたときに、
リアルに忠実に色をつけると、
これまでつくってきたことと
変わらないなと思いまして。
- ──
- せっかくなので見てもらいましょうか。
- 宇田川
- うん、これはかわっているよね(笑)。
- 千代
- ありがとうございます(笑)。
- 宇田川
- 陶芸の色って
焼き上がってから塗っているの?
線は最初から色付いてるのかな。
- 千代
- これは、もともとはこういうかんじで。
- 宇田川
- その辺の色は最初からなんだ、
なるほどね、これはおもしろいね。
うん、なるほど。裏もちゃんとやってあるわけ?
- 千代
- 横だけは(笑)。
- 宇田川
- ほおお。
たいへんそうだね。
- 千代
- そうですね、足から塗っていって
焼いて、釉薬をかけて、乾くまで、
さわっちゃいけないので。
- 宇田川
- ちなみに、その粘土って
そこまで細かく彫刻できるの?
- 千代
- 今までのものとそんなに変わらないですね。
やろうと思えばそれなりに細かくは。
- 宇田川
- まあ、自分が完全なリアルをやりたいならだけど、
目指す意味があるかっていうのもあるね。
- 千代
- デフォルメも好きになってきて、
リアルにつくる技術を学んできましたが
いまはちょっと単純化してデフォルメした方が、
見る人に、別の角度から楽しんでもらえるのかなって。
- 宇田川
- たとえば造形屋にリアルなタコを依頼したら
彫刻も色もさ、完全なタコができあがるじゃん。
- 千代
- 本物ってみんながまちがえるリアルさで。
- 宇田川
- そう。だからこその価値であって、
ちょっとでもリアルさが足りないと意味がない。
それに届かないなら
そっちをまねしても意味がないですよ。
それなら逆にその人たちができない方向に
持っていった方がおもしろいんじゃないの。
色とかこういうのにしておいて
正解だったんじゃない?
- 千代
- そうですね。
陶芸でないと、という意味で。
焼かないと表現ができない色ですし。
- 宇田川
- たとえば茶碗の世界であるさ、
デコボコしている質感で、彫刻はしていないけど
塗ってる素材にヒビがあるかんじも出せるわけ?
- 千代
- ああ、釉薬や粘土を変えていけば可能ですね。
- 宇田川
- それだったら粘土で彫るだけじゃなくてさ、
質感や、つくりたいイメージに合わせて
選んで表現してやると、
彫刻が上手い人にもまねできない、
陶芸ならではの技法になってくるよね。
- 千代
- 釉薬をうまく使えば、
マットで、ゴテゴテした質感とか
つるっとしたところとか、岩っぽいゴツゴツとか、
いろんな表現の幅はあると思います。
- 宇田川
- たとえば技術で複製をいっぱいしてさ、
上塗りの仕方に変化をつければ
いろんなバリエーションに
変えることもできるじゃん。
- 千代
- 土鈴でいえば、
同じ形だけど見た目も雰囲気も、
ちがうものにできると思います。
- 宇田川
- そのへんも普通の業界で考えると
作り物は「どうやって色を塗ろうか」だけど
「どういう風合いにしようか」って。
陶器の世界だとそこを変えられるよね。
洋風でも純和風でも侘び・寂びが、
あってもいいかもしれないし。
- 千代
- そうですね。
フィギュアとかジオラマとはまたちがった、
雰囲気は出していきたいと思ってます。
- 宇田川
- それでいえば陶芸の技術で
タコの目だけちがう素材にしてもいいわけよ。
義眼を入れるとかではないけど、
陶芸の世界の別の物のミックスを
造形の技術で
目の内側をくりぬけばいいわけじゃん。
われわれにとっては常識だけど、
いわゆる陶芸の方で
やろうとする人は少ないよね。
- 千代
- そうですね。
陶芸の素材しか使っていないのに
生きているような目をしているとか。
- 宇田川
- でも陶芸にしかみえない質感をしていて、
目が合っちゃうとか、
そんなものができるとおもしろいね。
- 千代
- どう、組み合わせていくか。
- 宇田川
- いわゆるスタンダードの陶芸家には
思いつかないかもしれないけど
特殊造形の世界で考えると普通の発想でさ。
造形のプロが扱うものは耐久力が必要だけど
芸術は、「お手を触れないでください」と書けばね。
そのものを使ってどうこうってないし。
- 千代
- 展示するってことで考えれば、そうなります。
繊細な物をつくっても成立はしますね。
- 宇田川
- さっきの明治の陶芸家ではないけど、
海外にも陶器はあるわけじゃん。
海外に出品したときにさ、
陶器自体は身近にあるわけだから。
どこになにを言われようが
世界中を探せば気に入る人は必ずいるしさ、
極端な話、世界の大金持ちとか買い手さえいれば
アーティストは生きていけるわけじゃん。
- 千代
- はい。
宮川香山も世界から評価をされていますし。
いまは世界に向けて発信はしやすいのかなと。
- 宇田川
- プロフィールを見てみて
「そういうことね。そりゃ、こういうのをつくれるわな」
みたいな。それが発展してくれば
陶芸の世界でも生きていける気がする。
20年やればできるようになるじゃなくて、
なんでもやってみようと思って
失敗を恐れずにトライしていくと良いかもね。
- 千代
- うん、うん。そうですね。
- 宇田川
- ただ、センスが光っているだけでなくて、
敵やライバルがいない。
いままで見たことない。
千代くんっぽさのようなところが出てくるとさ
新しくても、ある程度の作品数をつくると、
「そういう人」っていう認識がされるじゃん。
- 千代
- だれだれっぽさ、ですかね。
- 宇田川
- そういうのができあがったりすると
ファンがついたり、
コレクションしている人の目にとまったり、
次の作品を期待してくる人が出てきたりさ。
千代くんのつくりたいものを
自由につくって
しかもそれでご飯を食べていけるなら、
それに勝るものはないね。
- 千代
- そうなれば理想です。
第一線で活躍している方たちって
常に自分が何をしたいかを考えているなと。
つくりたい意欲が溢れている印象があって。
- 宇田川
- ある日本画のおじいちゃんが言っていたけど、
「今度これをつくりたい」っていう、
情熱やエネルギーが枯れたら終わりだよって。
若い人でも途中で
熱が無くなっちゃうことがあるみたい。
その火をたき続ければ、
うまくいけば、有名になることも、
生活していくこともできるよ。
陶芸で勝負する、やる価値はあるかもね。
- 千代
- そう言ってもらえると。
- 宇田川
- 作品を見てくださいって頼まれてさ、
きれいな茶碗なんか出されたら
「うん、がんばりな」ってなったけどさ(笑)。
- 一同
- (笑)。
- 宇田川
- こういうタコみたいなのが
出てくるなら発展性があるかもね。
個展やるんだって?
- 千代
- はい。今回、チャレンジしてみようと。
- 宇田川
- いつごろやるの?
- 千代
- 3月に恵比寿の弘重ギャラリーというところで。
- 宇田川
- であれば、まだ時間もあるし
いろいろ挑戦してみたら?
- 千代
- そうですね。
- 宇田川
- 発想はあっても実現可能かっていうね。
やってるうちに良い案が出たりするし。
- 千代
- 「こういうのもできるのかな」っていうものを、
思いつくかぎり、出してみようかなと。
- 宇田川
- そうしていけば今後の自分がさ、
これはたいへんだけどおもしろい、おもしろくないとか、
自分のスタイルにしていくには、
どれなのかっていうのが見えてくるかもしれないよ。
- 千代
- たとえば粘土って鉄分が多く含まれるものもあって、
あらい粘土とか種類が豊富なんです。
その粘土を色でわけていって、
粘土を組み合わせてつくるのも
陶芸でつくる意味として
いいのかなって思っています。
自分らしさは意識したいです。
- 宇田川
- そうだね。
ちょっとそういうときに個展見てくれた人たちが
財布のなかで買える小さいようなものがあって
お土産にして帰ろうとかね。
- 千代
- 土鈴でいま考えていますね。
複雑なかたちのものもつくってきたので、
デフォルメでくずしたものもおもしろいなって。
- 宇田川
- うん、うん。
- 千代
- 土鈴はうまく使いたいなと。
- 宇田川
- うん。その辺を自由に選べるところが
陶芸に縛られない特権なんじゃない?
自分としてもこだわりはないでしょ。
- 千代
- そうですね。
- 宇田川
- まあ、よくよく考えてみれば、
たしかに独立しないかぎりでは
特殊メイクの業界は、フリーでやっているとね。
- 千代
- アピールをしっかりしないと。
- 宇田川
- 充実できる仕事にしていきたいのなら
ずーっとがんばるのも一つの手だし、
その他に興味あるものが出たなら
それはそれでいいんじゃないの。
ただ、今までやってきたことをゼロにして
いまからまったく別業種っていうのは
やってきた時間がもったいないわけじゃん。
- 千代
- ええ。
- 宇田川
- うん、今までの経験を活かせる分野だとは思うよ。
- 千代
- お話を聞けてよかったです。
- 宇田川
- ちなみにこのタコちゃん、
つくるとどれくらいの時間がかかるの?
- 千代
- 原型だけだと
毎日作業ができれば1週間以内、
そのあとの絵付けも1週間くらいですね。
- 宇田川
- なるほど。販売もするわけでしょ。
- 千代
- そうですね、展示とあわせて販売もする予定です。
- 宇田川
- 芸術家はどう価値を付けていくっていうのも
これから大事になってくるね。
この先さらに「おお!」って
思わせてくれるものをみせてよ、期待してるから。
- 千代
- まだ時間もありますし、個展に向けてがんばります。
- 宇田川
- 個展も呼んでちょうだいね。
今日はどうもね。
- 千代
- ありがとうございました。
- ──
- 素敵なお話が聞けました。
ありがとうございました。
撮影:Takayuki Takeda
(おわりです。)