もくじ
第1回陶芸、はじめまして。 2016-12-06-Tue
第2回背中を押してくれた存在。 2016-12-06-Tue
第3回いいとこどりしよう。 2016-12-06-Tue
第4回自分のスタイルをつくれるか。 2016-12-06-Tue

1991年生まれ。
放送局にいます。

いま、日本文化に
はまってます。

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することが好き。
ミーハーです。

陶芸だから、できること。

陶芸だから、できること。

担当・菊地将弘

第4回 自分のスタイルをつくれるか。

千代
リアルを追求すると、
たしかに勝てないと思います。
宇田川
つくりはリアルで陶芸の世界にないんだけど、
色とか仕上げは
逆にリアルな造形の世界にはない、
陶芸の技術だからこその色をしているとか。
そういう風になってくると、価値が出てくるかもね。
千代
たとえばタコの色をどうしようか考えたときに、
リアルに忠実に色をつけると、
これまでつくってきたことと
変わらないなと思いまして。
──
せっかくなので見てもらいましょうか。

宇田川
うん、これはかわっているよね(笑)。
千代
ありがとうございます(笑)。
宇田川
陶芸の色って
焼き上がってから塗っているの?
線は最初から色付いてるのかな。
千代
これは、もともとはこういうかんじで。

宇田川
その辺の色は最初からなんだ、
なるほどね、これはおもしろいね。
うん、なるほど。裏もちゃんとやってあるわけ?
千代
横だけは(笑)。
宇田川
ほおお。
たいへんそうだね。
千代
そうですね、足から塗っていって
焼いて、釉薬をかけて、乾くまで、
さわっちゃいけないので。
宇田川
ちなみに、その粘土って
そこまで細かく彫刻できるの?
千代
今までのものとそんなに変わらないですね。
やろうと思えばそれなりに細かくは。
宇田川
まあ、自分が完全なリアルをやりたいならだけど、
目指す意味があるかっていうのもあるね。
千代
デフォルメも好きになってきて、
リアルにつくる技術を学んできましたが
いまはちょっと単純化してデフォルメした方が、
見る人に、別の角度から楽しんでもらえるのかなって。
宇田川
たとえば造形屋にリアルなタコを依頼したら
彫刻も色もさ、完全なタコができあがるじゃん。
千代
本物ってみんながまちがえるリアルさで。
宇田川
そう。だからこその価値であって、
ちょっとでもリアルさが足りないと意味がない。
それに届かないなら
そっちをまねしても意味がないですよ。
それなら逆にその人たちができない方向に
持っていった方がおもしろいんじゃないの。
色とかこういうのにしておいて
正解だったんじゃない?
千代
そうですね。
陶芸でないと、という意味で。
焼かないと表現ができない色ですし。
宇田川
たとえば茶碗の世界であるさ、
デコボコしている質感で、彫刻はしていないけど
塗ってる素材にヒビがあるかんじも出せるわけ?
千代
ああ、釉薬や粘土を変えていけば可能ですね。
宇田川
それだったら粘土で彫るだけじゃなくてさ、
質感や、つくりたいイメージに合わせて
選んで表現してやると、
彫刻が上手い人にもまねできない、
陶芸ならではの技法になってくるよね。
千代
釉薬をうまく使えば、
マットで、ゴテゴテした質感とか
つるっとしたところとか、岩っぽいゴツゴツとか、
いろんな表現の幅はあると思います。
宇田川
たとえば技術で複製をいっぱいしてさ、
上塗りの仕方に変化をつければ
いろんなバリエーションに
変えることもできるじゃん。
千代
土鈴でいえば、
同じ形だけど見た目も雰囲気も、
ちがうものにできると思います。
宇田川
そのへんも普通の業界で考えると
作り物は「どうやって色を塗ろうか」だけど
「どういう風合いにしようか」って。
陶器の世界だとそこを変えられるよね。
洋風でも純和風でも侘び・寂びが、
あってもいいかもしれないし。
千代
そうですね。
フィギュアとかジオラマとはまたちがった、
雰囲気は出していきたいと思ってます。
宇田川
それでいえば陶芸の技術で
タコの目だけちがう素材にしてもいいわけよ。
義眼を入れるとかではないけど、
陶芸の世界の別の物のミックスを
造形の技術で
目の内側をくりぬけばいいわけじゃん。
われわれにとっては常識だけど、
いわゆる陶芸の方で
やろうとする人は少ないよね。
千代
そうですね。
陶芸の素材しか使っていないのに
生きているような目をしているとか。
宇田川
でも陶芸にしかみえない質感をしていて、
目が合っちゃうとか、
そんなものができるとおもしろいね。
千代
どう、組み合わせていくか。
宇田川
いわゆるスタンダードの陶芸家には
思いつかないかもしれないけど
特殊造形の世界で考えると普通の発想でさ。
造形のプロが扱うものは耐久力が必要だけど
芸術は、「お手を触れないでください」と書けばね。
そのものを使ってどうこうってないし。
千代
展示するってことで考えれば、そうなります。
繊細な物をつくっても成立はしますね。
宇田川
さっきの明治の陶芸家ではないけど、
海外にも陶器はあるわけじゃん。
海外に出品したときにさ、
陶器自体は身近にあるわけだから。
どこになにを言われようが
世界中を探せば気に入る人は必ずいるしさ、
極端な話、世界の大金持ちとか買い手さえいれば
アーティストは生きていけるわけじゃん。
千代
はい。
宮川香山も世界から評価をされていますし。
いまは世界に向けて発信はしやすいのかなと。
宇田川
プロフィールを見てみて
「そういうことね。そりゃ、こういうのをつくれるわな」
みたいな。それが発展してくれば
陶芸の世界でも生きていける気がする。
20年やればできるようになるじゃなくて、
なんでもやってみようと思って
失敗を恐れずにトライしていくと良いかもね。
千代
うん、うん。そうですね。
宇田川
ただ、センスが光っているだけでなくて、
敵やライバルがいない。
いままで見たことない。
千代くんっぽさのようなところが出てくるとさ
新しくても、ある程度の作品数をつくると、
「そういう人」っていう認識がされるじゃん。
千代
だれだれっぽさ、ですかね。
宇田川
そういうのができあがったりすると
ファンがついたり、
コレクションしている人の目にとまったり、
次の作品を期待してくる人が出てきたりさ。
千代くんのつくりたいものを
自由につくって
しかもそれでご飯を食べていけるなら、
それに勝るものはないね。
千代
そうなれば理想です。
第一線で活躍している方たちって
常に自分が何をしたいかを考えているなと。
つくりたい意欲が溢れている印象があって。
宇田川
ある日本画のおじいちゃんが言っていたけど、
「今度これをつくりたい」っていう、
情熱やエネルギーが枯れたら終わりだよって。
若い人でも途中で
熱が無くなっちゃうことがあるみたい。
その火をたき続ければ、
うまくいけば、有名になることも、
生活していくこともできるよ。
陶芸で勝負する、やる価値はあるかもね。
千代
そう言ってもらえると。
宇田川
作品を見てくださいって頼まれてさ、
きれいな茶碗なんか出されたら
「うん、がんばりな」ってなったけどさ(笑)。
一同
(笑)。
宇田川
こういうタコみたいなのが
出てくるなら発展性があるかもね。
個展やるんだって?
千代
はい。今回、チャレンジしてみようと。
宇田川
いつごろやるの?
千代
3月に恵比寿の弘重ギャラリーというところで。
宇田川
であれば、まだ時間もあるし
いろいろ挑戦してみたら?
千代
そうですね。
宇田川
発想はあっても実現可能かっていうね。
やってるうちに良い案が出たりするし。
千代
「こういうのもできるのかな」っていうものを、
思いつくかぎり、出してみようかなと。
宇田川
そうしていけば今後の自分がさ、
これはたいへんだけどおもしろい、おもしろくないとか、
自分のスタイルにしていくには、
どれなのかっていうのが見えてくるかもしれないよ。
千代
たとえば粘土って鉄分が多く含まれるものもあって、
あらい粘土とか種類が豊富なんです。
その粘土を色でわけていって、
粘土を組み合わせてつくるのも
陶芸でつくる意味として
いいのかなって思っています。
自分らしさは意識したいです。
宇田川
そうだね。
ちょっとそういうときに個展見てくれた人たちが
財布のなかで買える小さいようなものがあって
お土産にして帰ろうとかね。
千代
土鈴でいま考えていますね。
複雑なかたちのものもつくってきたので、
デフォルメでくずしたものもおもしろいなって。
宇田川
うん、うん。
千代
土鈴はうまく使いたいなと。
宇田川
うん。その辺を自由に選べるところが
陶芸に縛られない特権なんじゃない?
自分としてもこだわりはないでしょ。
千代
そうですね。
宇田川
まあ、よくよく考えてみれば、
たしかに独立しないかぎりでは
特殊メイクの業界は、フリーでやっているとね。
千代
アピールをしっかりしないと。
宇田川
充実できる仕事にしていきたいのなら
ずーっとがんばるのも一つの手だし、
その他に興味あるものが出たなら
それはそれでいいんじゃないの。
ただ、今までやってきたことをゼロにして
いまからまったく別業種っていうのは
やってきた時間がもったいないわけじゃん。
千代
ええ。
宇田川
うん、今までの経験を活かせる分野だとは思うよ。
千代
お話を聞けてよかったです。
宇田川
ちなみにこのタコちゃん、
つくるとどれくらいの時間がかかるの?
千代
原型だけだと
毎日作業ができれば1週間以内、
そのあとの絵付けも1週間くらいですね。
宇田川
なるほど。販売もするわけでしょ。
千代
そうですね、展示とあわせて販売もする予定です。
宇田川
芸術家はどう価値を付けていくっていうのも
これから大事になってくるね。
この先さらに「おお!」って
思わせてくれるものをみせてよ、期待してるから。
千代
まだ時間もありますし、個展に向けてがんばります。
宇田川
個展も呼んでちょうだいね。
今日はどうもね。
千代
ありがとうございました。
──
素敵なお話が聞けました。
ありがとうございました。

撮影:Takayuki Takeda

(おわりです。)