もくじ
第1回嫌いな人を、追いかける 2016-12-06-Tue
第2回つなぎとめられたのは、なぜ? 2016-12-06-Tue
第3回わたしたちは、どこへ行くのか 2016-12-06-Tue

長野県出身東京都在住。1981年生まれ。趣味は食べ放題です。クレープとカニが好き。

Tw:@yunico_jp

わたしの嫌いな人

わたしには嫌いな人がいます。
でも、嫌いな気持ちってなんなんだろう?
きちんと考えてみたくなりました。
嫌いな人と、自分の気持ちに、真正面から向き合ってみると、
自分のこと、相手のこと、いろいろなものが見えてきたのです。
それに誰も予想していなかった事件が起きたりもして……

「嫌い」という、ネガティブなワードで始まってごめんなさい。
最後まで読んでいただけたらうれしいです。
全3回でお届けします。

第1回 嫌いな人を、追いかける

その人は、同じ会社の同僚で、一緒に働き始めてもう5年。
自分と年の近い女性である。
ときどきお酒を飲んではめを外すことはあるけれど、
明るくまじめで、みんなから好かれている人だった。
大人になってから誰かのことを「苦手」と思うことはあっても、
「嫌い」になったことは、あまりない。
所詮、他人は他人。この広い世界でわかり合えない人もいる。
他人に期待をするな。人を変えるより、自分が変われ。
そんなことはわかっていると思っていたのに、
彼女に対してはどうにもそう思うことができなかった。

きっかけは「家族」。
彼女もわたしも家族がいる。
仕事をがんばりたいけれど、家では家族とも向き合わなければいけない。
女性が仕事と家族を両立させることは、なかなかむずかしい。
家族の話を持ち込むことは、自分の弱みを見せることだと思っていたし、
家族を理由に、逃げ道を用意していると思われるのはいやだった。
だから、わたしは職場で、極力家族の話をしない。
家族は大切だけれど、家のそとではひとりの社会人として見られたい。

反対に、彼女は家族がいることを隠さなかった。
休憩時間の会話でも、彼女は普通に家族の話をしたし、
SNSにも家族の写真をよくあげていた。
彼女のように家族を中心に働く人は、世の中にもたくさんいる。
ただ、わたしの考えるスタンスと違うだけ。
決しておかしなことではないし、むしろ自然だ。
考えすぎて頭でっかちになっているのは、わたしの方。
わかっているのに、わたしとは違う「自分の見せ方」をする彼女と、
毎日顔を合わせていると、だんだんそうは思えなくなっていった。

「ゆにこさんと、家族の話がしたいです」
隣に座った飲み会で、彼女にそう言われたことがある。
彼女も考え方や見せ方がわたしとは違うことを感じていたと思うけど
きっと、気を遣って話しかけてくれたのだろう。
でもわたしはそんな話、したくなかった。いらいらして、
「そういうのは他の人としてください」
それだけ言って席を離れた。
彼女は驚き、戸惑いの表情を浮かべて黙っていた。
わたしが家族の話を避けたいこと、そしてそうでない彼女に対し、
よく思っていないことがはっきり伝わったと思った。
お互い家族があっても、自分の見せ方のほうが正しいと思いたい。
彼女より仕事ができると思われたいし、負けたくない。
ライバル心みたいなものが、わたしの中で燃え上がっていた。
自分の中の敵意に気づき、社内で彼女と一緒になることを避けた。
彼女が参加するとわかっている飲み会にも行かなくなった。

一緒に仕事をすることはあまりなく、避けていれば特に問題もなかった。
ところが、反対に、何故だかやたらと彼女のことが気になってしまう。
彼女がわたしの考えと違うことをするたびに、その様子を追ってしまう。
自分と違うところを見つけていらいらするのではなく、
彼女を追いかけていらいらするところを見つけてしまう。
だんだんそのいらいらは、募りに募って「嫌い」という名前がついた。
そして、嫌いだと思い込むほど、また彼女のことを追ってしまうのだった。

彼女の仕事の小さなミスも、たぶんわたしが一番先に見つけた。
時には本人に直接指摘をし、わざわざ自分で作り直して渡したりもした。
彼女はありがとうございます、と受け入れ、それ以上は何も言わなかった。
そんな態度にまたいらいらして、難癖をつける理由を探してしまう。
髪の色が明るく変わっているのを見れば「髪色明るすぎない?」、
スカートを履いているのを見れば「寒いのになぜ?」、
スマホがAndroidなのを見れば「iPhoneの方が使いやすいのに!」、
机に置いてあるジュースの空き缶でさえ「また甘い炭酸ジュース飲んでる!(昨日もその前も甘いものを飲んでいた)」と、わたしをいら立たせる。
もはや言いがかりの域で、まさに坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、状態である。
もう自分でもどうしようもなかった。

廊下で会っても挨拶もしない。
彼女も同じように、わたしのことを避けているように感じたが、
こちらがこんな態度なら仕方がないだろう。
直接話すこともないので、彼女の本当の気持ちはわからなかった。

第2回 つなぎとめられたのは、なぜ?