転機は突然訪れた。彼女が会社を辞めるという。
聞いたときには、最終出社日まで、もうそんなに時間は残っていなかった。
嫌いな人がいなくなる。
二度と会わなくて済むかもしれない。
ライバル心を燃やしていらいらしなくていい。
うれしい知らせのはずなのに、その話を聞いて、わたしはすごく動揺した。
よくわからないもやもやに襲われてそわそわし、仕事が頭に入ってこない。
どうして辞めるの?
家庭の事情?
次はどこへいくの?
どんな仕事をするの?
誰かに誘われたの?
聞きたいことはたくさんあった。本人に話しかけてしまいたい。
でも、もちろん、話しかけることなんてできない。
間を持ってもらうような共通の同僚もいないし、どうすることもできない。
何もできず、なんでこんなに動揺しているのかわからないまま、
着々と彼女の最終出社日が近づいてきた。
同じ時期、ほぼ日の塾、80人クラスの選考が通った。
80人の枠に対して1000人近い応募があったと塾の冒頭で聞いた。
その中に入れたのは、とてもラッキーなことだったと思う。
当日、丸1日に渡る授業を受講し、懇親会ではほぼ日スタッフさんによる、
お手製のカレーをいただいた。おいしいカレーは、おかわりもOKだった。
喜び勇んでおかわりの列に並ぼうとしたとき、心臓が止まるぐらい驚いた。
なんと、あの彼女もカレーのおかわりの列に並んでいたのだ!
彼女もまた、ほぼ日の塾に応募し80人の中のひとりに入っていた。
目が合った瞬間、彼女も驚いた顔をしたが、すぐに
「参加していたんですね!」
と、明るい声で言った。
その声のトーンにつられ、
「そうなの。全然気づかなかった、びっくりしたよ!」
と、わたしも自然にそう受け答えた。
あれ?
その場では、ひとことふたことだけ話して別れたが、
ずっと嫌いで避け続けてきたのに、突然自然に話せて驚いた。
自分の態度も、彼女の態度も、今までの流れからするとおかしい。
なんで今、自然に話すことができたのだろう??
よくわからないのに、わたしはなぜだか、とてもほっとしていた。
80人クラスの中から、さらに実践編へと進む40人の選考があった。
そして、その40人の中にも、わたしと彼女が入っていた。
結構な倍率の中、この二人が一緒に残っている。
これにはなにか、意味があるのだろうか…。
会社では相変わらず話すことのないまま、
彼女は最終出社日を迎えて退職してしまった。
もう会わなくなると思ったのに、
それをつなぎとめるようにほぼ日の塾、実践編が始まった。