もくじ
第1回生で観て浮かんだ、3つのことば。 2016-12-06-Tue
第2回緩急。 2016-12-06-Tue
第3回憑依。 2016-12-06-Tue
第4回地車。 2016-12-06-Tue

出版社で営業の仕事をしています。社会人1年目。

3つのことばを手がかりに聴く</br>上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト

3つのことばを手がかりに聴く
上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト

担当・ミネオ

第3回 憑依。

続いて、「憑依」。

これは、曲の全体の話というより、
ピンポイントな話です。

刻一刻と変わる局面の中でも、
ひときわ目が釘付けになるのが「ソロ」の部分。

筆頭は、やはり上原ひろみさんです。
そのソロを見た時に、「憑依」という言葉が浮かんできたのです。

何かしら映像を1度でも見たことのある方は
ご存じかと思いますが、
上原ひろみさんの指は、とても速く動きます

……何のひねりもない表現になってしまいましたが、
実際、どう書けばいいのやら。
「目にも止まらぬ」と書いてもまだ足りないような、
とにかく、言葉が見つからないほど速いのです。

ソロパートはアドリブで弾かれるため、
観ている誰にも、どう転がっていくのか予想がつきません。
もしかすると、弾いているご本人ですら、
一寸先は分らないのかもしれません。

連なる音のドラマチックさだけでなく、
「衝動」をそのまま吐き出した感じと、
隅から隅まで研ぎ澄まされた感じが両立しているような、
「状態」そのものに圧倒され、言葉を失ってしまうのです。

また、触れられずにはいられないのが、
ドラムのサイモン・フィリップス氏のソロ。

スネア、バスドラ、タム、シンバル等々、
叩くものが合わせて10個も15個も
あるのはいいとして、
それらを素早く細かく万遍なくさらっていく
手捌きに見惚れてしまいます。

そして何よりも、音が力強いのです。
「ジャズ」というジャンルに収まりきらない
と言われるトリオの演奏ですが、
理由は氏のドラムにあると思います。

先日の浜松公演では、数分間ひたすら
ソロをやり続ける独壇場の時間もあったほど。
特に、生で見た時の凄みが違うので、
ライブではぜひ注目してもらいたいポイントです。

彼らの「憑依」に共通するのは、
とにかく「楽しそう」だということ。
そして、その「楽しさ」が
周りに伝染していくことです。

演奏を観る中で私が特に好きなシーンは、
ソロパートで「ゾーンに入っている」
当の本人の表情はもちろんのこと、
その様子を見守る、周りの2人が
とても楽しそうに笑っているところ。

それを見て、観ているこっちも楽しくなってくる。
そんな循環を広げるものだから、
「憑依」はやっぱり外せないキーワードなのです。

演奏中、3人は本当によく
顔を見合わせていて、終始楽しそうです。
「常時超絶技巧」とでも呼びたいくらいの
テクニックを披露しながらあれだけにこやかなので、
ある意味、ずっと憑依状態なのかもしれません。

(つづきます)

第4回 地車。