最後の「地車」。
ご存じの方はご存じかと思いますが、「だんじり」と読みます。
そう、「だんじり祭り」の「だんじり」です。
いきなりの毛色の違うことばに
驚かれたかもしれませんが、
「地車」は、トリオを表す上で
欠かすことのできないことばだと思います。
注目して頂きたいのは、その構造。
地車を支え、走らせる役と、
高所に上って、力強く舞う役。
この関係が、トリオの演奏を観ている中で
ふと思い出されたのです。
誤解のないように補足しますと、
演奏中に、絶えず誰かが
「上っている」ということではありません。
「緩急」をつけながら、3人で足並みを揃えて
曲を進行させていく時間は、演奏の基本の部分です。
3人が地車を走らせることを基本にしつつ、
時に誰かが上に上って踊る、「ソロ」の時間がある。
重要なことは、
ここまで挙げてきた「緩急」も「憑依」も、
すべてこの地車の形で行われるということ。
たとえば「緩急」の鋭さが印象的なのも、
1人ではなくトリオでタイミングを
ピタリと合わせるスリルがあるからこそ。
地車を押す方向と、その変わり目を合わせなければ、
隊列は途端に乱れてしまいます。
「憑依」と呼べるようなソロ演奏の凄みも、
底で盛り上がりつつも正確に刻まれている
ビートの存在を抜きしては生まれません。
「地車から落ちずに踊り狂う」という
絶妙なバランス加減が、観る者を圧倒するのです。
地車を縁の下で支えるのは、
ベースを弾くアンソニー・ジャクソン氏。
どっしりとした体躯から繰り出される、
正確無比でありながら、うねるように疾走する
ベースラインには、「安定感」と「スリル」が共存しています。
支える役と、踊る役。
それらが局面によって入れ替わりながら、
時にリズミカルに、時に優雅に、
時に突き抜けるように進んでいく、「地車」。
「緩急」も「憑依」も、
1人では成り立たなかったり、
トリオだからこそスリルが際立ったりする。
ここまで色々と書き連ねてきましたが、
彼らのプレイの見所を1つだけ挙げよと問われたなら、
「トリオだからこそ生まれるもの」
に注目してくださいと、私は言いたいです。
また、聴いてほしい曲を1つだけ挙げよと言われたら、
まずは「MOVE」を推します。
彼らの音楽を長く聴き続けてきた方には、
あまりにもストレートすぎる選曲だと
思われるに違いありませんが、
「緩急」と「憑依」と「地車」が最もよく表れている曲です。
冒頭でも少し触れましたが、
彼らは今、日本ツアーの真っ最中です。
本記事が公開される頃には残念ながら、
チケットの手に入る公演が、
残りわずかとなっているかもしれません。
そしてさらに残念なことに、
ベースのジャクソン氏が病気療養のため、
日本ツアー不参加。
しかし、トリオ・プロジェクトは歩みを止めず、
世界的ベーシスト、アドリアン・フェロー氏を
迎え、ツアーを続けています。
ジャクソン氏の一日でも早い復帰が待たれるのと同時に、
フェロー氏を迎えた今のトリオのパフォーマンスもまた
素晴らしいものになっています。
今回のツアーの成功と、
トリオが完全復活して
また日本公演をする日が来ることを祈って、
締めくくりたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(おわります)