もくじ
第1回カタログに書いてないところが、好きだ。 2017-04-18-Tue
第2回自分に似ているから、好きだ。 2017-04-18-Tue
第3回家族だから、好きだ。 2017-04-18-Tue

自転車と山歩きが好きなコピーライターです。40歳を前にフリーになりました!どうしましょう。

僕の好きなもの</br>SAABという車

僕の好きなもの
SAABという車

担当・足立 遊

第2回 自分に似ているから、好きだ。

自分がどんな人間で、
どんな人でいたいのかを考えることは、
誰と、どんな音楽を聴きながら、
どこに行きたいかを考えることに
似ているのかもしれない。

好きな人と、カーディガンズを聴きながら、
房総半島をドライブしたい。
気の合う友達と、レッチリをかけながら、
フジロックに行きたい。
ひとりで、フィッシュマンズを歌いながら、
夜中の東京を走るのもいいかもしれない。

当時、僕はひとり暮らしだったので、
収納や装備がたくさん付いた
生活に便利な車を選ぶ必要はなかった。
かといって、どう背伸びをしても、
ドイツやイタリアの高級車を乗りこなすような
スマートさも、お金も、持ってはいない。

無理して自分を飾らないこと。
できるだけマイペースでいられること。
いつも穏やかで、にこやかな気持ちでいること。
自分の考えはあるけど、人に押し付けないこと。
モテたい気持ちが前面に出すぎないこと。
一緒にいる人も心地よいこと。
サービスが行き過ぎて、おせっかいにならないこと。
遊び心があること。
「お先にどうぞ」と、道を譲れること。
その気になれば、
高速をかっ飛ばして遠くへ行けること。

自分がいつもそういう人でいられたかは定かでないけど、
少なくともSAABに乗っている時間の僕は、
なるべくそういう人でいたつもりだ。

ところどころ丸みを帯びた、北欧家具のような温かさ。
派手さはないけど、質の良いボタンが付いている
シャツのような仕立ての良さ。
航空機メーカーとして培われた、技術力と安全性の高さ。

世の中の流行から少し離れた場所で、
静かに、誠実に作られてきた
ものづくりの良心が息づいている。

きっと、マーケティングにも力を入れたはずだけど、
どうしても譲れないものづくりの哲学があって、
自動車業界の進化に適応できなくなった絶滅種なのだろう。

独特のこだわりがあって、ちょっと不器用な車。
僕がそんなSAABに親近感を覚えるのは、
どこか自分に似ているところがあるからだと思う。

(続きます)

第3回 家族だから、好きだ。