47歳「青年失業家」。コピーライターが7000字書く理由
担当・園田菜々
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第4回 根拠はないけど、水があるんですよ
- 糸井
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たぶん今、泰延さんは、生きていく手段を問われている時期ですよね。みんな興味があるのは、泰延さんがどうやって社会に機能していくのか、ってところ。「何やって食ってくんですか?」とか、面倒臭い時期ですよね。
- 田中
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そうですね。今まで担保されていたものがなくなったので、みんなが質問してくるし、自分自身でも「どうやって生きていこう」って考えることもあるし。
僕が今日聞きたかったのは、糸井さんは40代で広告の仕事をひと段落つけようとしたときに、やっぱりそういうことに直面されたのか、というところです。
- 糸井
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まさしく、そうです。大冒険でしたよ。
- 田中
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実は、僕がはじめて糸井さんと京都でお会いしたときに、「ほぼ日という組織をつくられて、その会社を回して、大きくしていって、その中で好きなものを毎日書くっていう、この状態にすごい興味があります」って聞いたんですよ。そしたら、「そこですか」っておっしゃって、それが忘れられなくて。
- 糸井
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だって、辞めると思っていないから。
- 田中
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僕も辞めると思っていませんでした。
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- 糸井
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どうして辞めたかっていうと、僕はそもそも、やりたくないことを捨ててきた人間なんですね。何かをやりたいというよりは、どうしてもやりたくない、という気持ちが強くて。でも、ひとっていうのは案外、そういう部分に人生費やしちゃうもんですよ。
- 田中
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はい。
- 糸井
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で、何者でもない誰かである、ということはいいんだけど、やっぱり過剰にないがしろにされるというのは嫌で。「受け手として僕にはこう見えた」って思いつくまでに時間やお金がかかるタイプで。車の広告とか、わざわざそのために車一台買ってましたからね。それでも、誠実になりきれなかった仕事というのは混じりますね。
「プレゼンの勝率が落ちたらダメだな」というのは思っていて、そういうときに「ご注進!ご注進!」みたいな感じで「みんなが、『糸井さんは広告から逃げた』とか言ってますよ」みたいなことを告げに来る馬鹿がいる。
- 田中
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はいはい。
- 糸井
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だから、「はぁーっ」と思って、「こういう時代にそこにいるのはまずいな」というか、「絶対嫌だ」と思って。で、そのとき、僕にとってのブルーハーツに当たるのが「釣り」だったんですよね。
- 田中
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この前、聞いて笑ったのが、「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、魚がいるんじゃないかと思った」って。
- 糸井
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そうそう、で、魚がルアーをものすごい荒々しさでひったくる感じが、僕をワイルドにしたわけですよ。青島グランドホテルに向かうまでの道のりに何回も水が見えて、野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
正月とかは、温泉旅行に行って、真冬に、海水浴やるようなビーチで一生懸命投げたりしてるんですよ。それを妻と子どもが見てるんだ。
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- 田中
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(笑)
そのときは、なんか釣れました?
- 糸井
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まったく釣れません。根拠のない釣りですから。
- 田中
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(笑)
- 糸井
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でもね、根拠がなくても水があるんですよ。
いいでしょう? 僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
- 田中
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いや、まさかその話がインターネットにつながるとは。
- 糸井
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広告を辞めるという「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、「水さえあれば、魚がいる」っていうような、その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
昔、釣りのうまい人に、「一匹も釣れなかった経験はないんですか?」って聞いたんです。むやみに水に向かって投げているわけですから。そしてら、そのひとは他人事のように「釣りがある程度わかっていれば、基本的にそういうことはないんじゃないでしょうか」って。嬉しくてね。それは、インターネットでもそう思いますね。
- 田中
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なるほど。
- 糸井
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それを積み上げていったのが今に至るわけです。これからどうするんですか、なんてことは今日聞きませんけど、泰延さんもそういう、魚が一気にかかるようなことを味わえるといいですね。もしかしたらそれが、バンドを組むとか、そいうことかもしれないけど。
- 田中
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(笑)
うん、でもなんだか、本当にどんどん失われて、頭だけで屁理屈言ってるな、みたいな時期だったんで、身体性を取り戻したいな、とは思いますね。
- 糸井
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けっきょく、1時間のつもりが2時間(笑)
- 田中
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いつもいつも(笑)
- 糸井
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だから、収まらないよね、やっぱり。
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