もくじ
第1回2、3行でいいよって言われたので、7000字書いて出したんです 2017-03-28-Tue
第2回いま分かった、僕たちって「最大の読み手」として書いてるんですね 2017-03-28-Tue
第3回書きたいことがあるというより、おしゃべりがしたいんです 2017-03-28-Tue
第4回根拠はないけど、水があるんですよ 2017-03-28-Tue

ライターと編集をしています。Twitterは、@osono__na7。

47歳「青年失業家」。
コピーライターが7000字書く理由

担当・園田菜々

第4回 根拠はないけど、水があるんですよ

糸井
たぶん今、泰延さんは、生きていく手段を問われている時期ですよね。みんな興味があるのは、泰延さんがどうやって社会に機能していくのか、ってところ。「何やって食ってくんですか?」とか、面倒臭い時期ですよね。
田中
そうですね。今まで担保されていたものがなくなったので、みんなが質問してくるし、自分自身でも「どうやって生きていこう」って考えることもあるし。
 
僕が今日聞きたかったのは、糸井さんは40代で広告の仕事をひと段落つけようとしたときに、やっぱりそういうことに直面されたのか、というところです。
糸井
まさしく、そうです。大冒険でしたよ。
田中
実は、僕がはじめて糸井さんと京都でお会いしたときに、「ほぼ日という組織をつくられて、その会社を回して、大きくしていって、その中で好きなものを毎日書くっていう、この状態にすごい興味があります」って聞いたんですよ。そしたら、「そこですか」っておっしゃって、それが忘れられなくて。
糸井
だって、辞めると思っていないから。
田中
僕も辞めると思っていませんでした。

糸井
どうして辞めたかっていうと、僕はそもそも、やりたくないことを捨ててきた人間なんですね。何かをやりたいというよりは、どうしてもやりたくない、という気持ちが強くて。でも、ひとっていうのは案外、そういう部分に人生費やしちゃうもんですよ。
田中
はい。
糸井
で、何者でもない誰かである、ということはいいんだけど、やっぱり過剰にないがしろにされるというのは嫌で。「受け手として僕にはこう見えた」って思いつくまでに時間やお金がかかるタイプで。車の広告とか、わざわざそのために車一台買ってましたからね。それでも、誠実になりきれなかった仕事というのは混じりますね。
 
「プレゼンの勝率が落ちたらダメだな」というのは思っていて、そういうときに「ご注進!ご注進!」みたいな感じで「みんなが、『糸井さんは広告から逃げた』とか言ってますよ」みたいなことを告げに来る馬鹿がいる。
田中
はいはい。
糸井
だから、「はぁーっ」と思って、「こういう時代にそこにいるのはまずいな」というか、「絶対嫌だ」と思って。で、そのとき、僕にとってのブルーハーツに当たるのが「釣り」だったんですよね。
田中
この前、聞いて笑ったのが、「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、魚がいるんじゃないかと思った」って。
糸井
そうそう、で、魚がルアーをものすごい荒々しさでひったくる感じが、僕をワイルドにしたわけですよ。青島グランドホテルに向かうまでの道のりに何回も水が見えて、野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
 
正月とかは、温泉旅行に行って、真冬に、海水浴やるようなビーチで一生懸命投げたりしてるんですよ。それを妻と子どもが見てるんだ。

田中
(笑)
 
そのときは、なんか釣れました?
糸井
まったく釣れません。根拠のない釣りですから。
田中
(笑)
糸井
でもね、根拠がなくても水があるんですよ。
 
いいでしょう? 僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
田中
いや、まさかその話がインターネットにつながるとは。
糸井
広告を辞めるという「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、「水さえあれば、魚がいる」っていうような、その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
 
昔、釣りのうまい人に、「一匹も釣れなかった経験はないんですか?」って聞いたんです。むやみに水に向かって投げているわけですから。そしてら、そのひとは他人事のように「釣りがある程度わかっていれば、基本的にそういうことはないんじゃないでしょうか」って。嬉しくてね。それは、インターネットでもそう思いますね。
田中
なるほど。
糸井
それを積み上げていったのが今に至るわけです。これからどうするんですか、なんてことは今日聞きませんけど、泰延さんもそういう、魚が一気にかかるようなことを味わえるといいですね。もしかしたらそれが、バンドを組むとか、そいうことかもしれないけど。
田中
(笑)
 
うん、でもなんだか、本当にどんどん失われて、頭だけで屁理屈言ってるな、みたいな時期だったんで、身体性を取り戻したいな、とは思いますね。
糸井
けっきょく、1時間のつもりが2時間(笑)
田中
いつもいつも(笑)
糸井
だから、収まらないよね、やっぱり。