- 田中
- この間みんなで、燃え殻さんとか永田さんとか古賀さんと雑談したじゃないですか。
- 糸井
- うん。
- 田中
- あれ、9月?
- 糸井
- 9月。
- 田中
- あの時点で辞めると思ってなかったですから。
- 糸井
- 素晴らしいね。あぁ。
- 田中
- 辞めようと思ったのが、11月の末ですね。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- で、辞めたのが12月31日なんで、1ヶ月しかなかったです。
- 糸井
- 素晴らしい。
- 永田
- 11月末に何かあったんですか?
- 田中
- いや、なんか、これが本当にね、
- 糸井
- (笑)
- 田中
- この間も、ちょっと昨日たまたま書いたんですけど、理由になっていないような理由なんですけど、やっぱり、
- 糸井
- ブルーハーツ?
- 田中
- ブルーハーツですよ。だから、なんか、だから、まだこんなね、50手前にオッサンになっても、おっしゃったように中身は20うん歳のつもりだから、それを聞いた時のこう、思い出して、「あ、これは、なんかもう、このように生きなくちゃいけないな」って。かと言って、何かを伝えたいこととか、「熱い俺のメッセージを聞け」とかないんですよ。相変わらず、なんか見て聞いて、「これはね」ってしゃべるだけの人なんですけど、でも、なんか、「ここはでなくちゃいけないな」ってなったんですよね。
- 糸井
- あの、どうしてもやりたくないことっていうのが世の中にはあって、そこを僕は本当に逃げてきた人なんです。で、逃げたというよりは捨ててきた。で、どうしてもやりたくないことの中に、なんか案外、人は人生費やしちゃうんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
- で、それは、僕は、何かをやりたいというよりは、やりたくないことをやりたくないほうの気持ちが強くて、で、そこから、しょうがなく、マッチもライターもないから、木切れをこう、こうやって火を起こしはじめたみたいなことが自分の連続だったと思ったんで、だから、広告も、なんかどうしてもやりたくないことに似てきたんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
- で、「これ、いや、まずいなぁ」、つまり、プライドっていう言葉に似ているけど違うんですよね。どうしてもやりたくないことに近い。で、うーん‥‥、無名の誰かであることはいいんだけど、やっぱり過剰にないがしろにされる可能性みたいな、こう、魂が。
- 田中
- はい。
- 糸井
- そういうのは嫌ですよね。
- 田中
- とはいえ、糸井さんのそのお仕事、広告、広告時代っていうのもおかしいけれども、広告のお仕事見てても、「この商品について、この商品の良さを延々語りなさい」とか、そのリクエストに応えたことはないですよね、最初から。それは。
- 糸井
- 何なんだろう、だから、さっきの、「受け手として僕はこう見えた、これはいいぞ」って思いつくまで書けないわけで、だから、僕、結構金のかかるコピーライターで、車の広告するごとに一台買ってましたからね。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
- だから、それはおまじないでもあるんだけど、「いいぞ」って思えるまでがやっぱりちょっと大変っていうか、だからお酒は飲めないけれども、その分どうやって取り返そうかみたいなところは結構ありましたし、だから、どこかでやっぱり受け手であるっていうことにものすごく誠実にやったつもりではいるんです。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
- で、誠実にやりきれなかった仕事っていうのは混じりますね。打率から言ったら、「これはチャチャっとやったけど、できちゃった」っていうのは時にはありますから、どれかって言いませんけど。でも、広告の仕事を辞めるっていうのは、「あ、このまま、『あいつ、もうだめですよね』って言われながら、なんで仕事やっていかなきゃならないんだろう?」っていうふうにたぶんなるんだろうなと。で、「あいつもうだめですよね」って僕についてみんな言いたくてしょうがないわけですよ。で、何回も経験してきているんで、「あ、プレゼンの勝率が落ちたら、もうだめだな」っていうのは思ってて、で、「ご注進、ごちゅうしん」みたいに、「みんなが、『糸井さんんは広告から逃げた』とか言ってますよ」みたいなことを告げに来る馬鹿とかいますから。
- 田中
- はいはい。
- 糸井
- だから、「はぁーっ」と思って、「こういう時代にそこにいるのはまずいな」っていうか、「絶対嫌だ」と思って。で、僕にとってのブルーハーツに当たるのが釣りだったんですよね。ずっと釣りしたかったんで。で、そこで、誰もが平等に、その、コンペティション、なんていうの、争いごとをするわけですよね。コンペティション。
- 田中
- コンペティション。
- 糸井
- で、その中で勝ったり負けたりっていうところで血がわくんですよ、やっぱりね。
- 田中
- この間おかしかった(笑)、「始めた頃は、ちょっと水たまりを観ても、魚がいるんじゃないか」って(笑)。
- 糸井
- 家族旅行を正月、温泉旅行に行った時に、まったく根拠なく、砂浜で一生懸命、何か釣れるのを、真冬に、海水浴をやるようなビーチで一生懸命に投げてる。
- 田中
- (笑)なんか釣れましたか、その時は?
- 糸井
- まったく釣れません。根拠のない釣りですから。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- でも、根拠がなくても水があるんですよ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- いいでしょう?これ、僕にとってのインターネットって水なんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- もう今初めて説明できたわ。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- 水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。で、それが自分に火を点けたところがある。だから、僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)。
- 田中
- 水と魚、はぁ。
- 糸井
- おもしろいんですよ。その朝1人で誰もいない所で釣りをしていると、初めて釣れる1匹っていうのが、朝日が明ける頃に、何も気配がなかった、ただの静けさの田んぼの間の水路みたいな川で、泥棒に遭ったかのようにひったくられるんですよ。で、「俺の大事な荷物が今盗まれた!」っていう瞬間みたいに、パーッと惹かれるんですよ。その喜び。それがね、なんだろう、俺を変えたんじゃないですかね。
- 田中
- なるほど。いや、その話が、まさかインターネットにつながるとは。
- 糸井
- 思いついてなかったですね。
- 田中
- あぁ。でも、言われてみたら、きっとそういうことですよね。
- 糸井
- 広告を辞めるとかっていう、「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、「水さえあれば、魚がいる」っていうような、その期待する気持ちに、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- うわぁ、素敵なお話ですね。
- 田中
- いや、本当に(笑)。
(終わります)