- 糸井
- 小説、売れてたの。
- 燃え殻
- 本当ありがたい。なんで売れたんですかね。
- 糸井
- 自分ではどう思います?
- 燃え殻
- うーん‥‥これを発売したら誰かいろんな人たちが
買ってくれるんじゃないかっていう気持ちと。
「ああ、でも、いいのができたな」、
「あ、でも、これはダメかもしれないな」、
というのを繰り返すというのが本当に正直なところですね。
- 糸井
- 人に影響を与えるってことは絶対量としてあるんだよ。
このあいだ、ぼくの田舎の前橋に、
ブルゾンちえみが来たら1万人集まった。
でも、「燃え殻です」と言っても、まあ63人ぐらい。
「糸井重里です」って240人なんか集まって。
- 燃え殻
- そんなわけない。もっと入りますよ。
- 糸井
- まあ、でも、1万に比べると。
- 燃え殻
- ああ、なるほど。
- 糸井
- いっぱい売るってことは、
そういう事件になってないとダメなんで。
燃え殻さんの小説は、
事件になるかならないかの前にいて、
宝くじみたいに、これは1億円になるんじゃないのかって‥‥
- 燃え殻
- ああ、なるほど。
- 糸井
- うん。この先、文学界の「嵐」とかにね。
- 燃え殻
- 飲み込めない話(笑)。
- 糸井
- 文学界の‥‥
- 燃え殻
- ああ、嵐ね、嵐(笑)。
- 糸井
- 嵐。櫻井翔さんとか、そういうふうになる。
- 燃え殻
- (笑)
- 糸井
- ものすごい数の取材を受けてるでしょ?
- 燃え殻
- はい(笑)。サラリーマンなのに。
- 糸井
- サラリーマンなのにね。
- 燃え殻
- はい。
6月30日に本が出てから、ありがたいことに何十と取材を。
- 糸井
- 何十と。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
- はぁー。
- 燃え殻
- 新聞とかもいろいろとお話をしていただいて、
いろいろな方から来る質問が心苦しいんですよ。
- 糸井
- 心苦しい(笑)。
- 燃え殻
- 心苦しい(笑)。
- 糸井
- 答えてて。
- 燃え殻
- 答えてて、ウソをつかなきゃいけない自分が。
- 糸井
- てことは、新聞を読んだ人は、
ウソを読んでるわけですね(笑)
- 燃え殻
- 「なんでこの本を書いたんですか」とか
言われるじゃないですか。
今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、
小説って、何か訴えなきゃいけないことがないと
書いちゃいけないんですか?
- 糸井
- それは、例えば高村光太郎がナマズを彫ったから、
「高村光太郎さん、このナマズはなぜ彫ったんですか」って
聞くみたいなことですよね。
- 燃え殻
- そうそう。
「実はそれはすごく社会的に意味があることなんだ」
みたいなことを、高村さんは言えたんでしょうか。
- 糸井
- 言えないんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
- ぼくはもちろん答えなきゃいけないので。
この本はちょうど
90年代から2000年ぐらいのことを書いた本なので、
「90年代ぐらいの空気みたいなものを
一つの本に閉じ込めたかったんです」
というウソをですね、
この1か月ぐらいずっとついてて(笑)。
もうスルスル、スルスル、ウソが口から流れるようになって。
- 糸井
- うんうん。
「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。
で、おそらく読者と取材者ともに、
自分もその時代に居たという話をしたがりますよね。
- 燃え殻
- そうですね。
- 糸井
- 記者も、
「あ、その頃、ぼくもそこにいたんですよ」みたいな。
- 燃え殻
- ああ、そう。
新聞の文芸の記者の方とかは、同年代の人が多いんです。
新聞や雑誌の記者の方って、
学歴があって皆さんすごくいい形で、
社会に生きてるじゃないですか。
だから、「一緒ですよ」とか言われても、
一緒じゃねえよと思いながら、
「あ、そうですね」みたいな。(笑)
- 燃え殻
- いろんな人たちが見てるし、
その場所に居るいろんな人たちが
頷いてないと怖いじゃないですか。
- 糸井
- はいはいはい。
- 燃え殻
- だから、そういうのをなんかやっていて。
カメラマンの人も、
“ああ、最初はおまえのことよくわかんなかったけど、
あ、そういうこと書いてる人なんだね”って感じで
シャッターを押してくれたりとか。
ついてきた人も、
絶対本を読んでないんだけど、
“あ、そういう本を書いてるんだ。
だったらまあ、いいんじゃない?”みたいな感じで
取材の場が少し温まる。
温まりたいから、それをずっと言う(笑)。
- 糸井
- ずっと言う(笑)。