もくじ
第1回ウソは、心苦しい 2017-10-17-Tue
第2回ゴールデン街とラブホテル 2017-10-17-Tue
第3回小説が売れない理由 2017-10-17-Tue
第4回サービス精神 2017-10-17-Tue
第5回富山の女子高生を喜ばせたい 2017-10-17-Tue

25歳の女性です。最近は、上野の赤ちゃんパンダに注目しています。

燃え殻さんと、ただ、会って話した。

燃え殻さんと、ただ、会って話した。

第5回 富山の女子高生を喜ばせたい

燃え殻
以前、トークショーがあったとき、
ぼくは新潮社の編集の人に、
「嫌だ嫌だ嫌だ」って言ったんです。
名言じゃないですけど、何か1ついいことを
言わないといけないんじゃないかなって。
多分、思いつかないから。
糸井
うん、よくわかります。
燃え殻
そしたら、編集の人に「いいんですよ。
動いてるの見たいだけなんですから」って
言われたんですよね。
そしたら、できたんです。
糸井
対談は、相手がなんとかしてくれることが、
大いにあるから、大丈夫。
もしご飯粒がついてたら、
「ご飯粒」って相手が言ってくれるじゃない。
燃え殻
ああ、そうですね。
糸井
何でもいいのよ。
ただ、ただ「会って話そう」だよ(笑)。

燃え殻
そういうほうが面白いって、
糸井さんは思ってるんですよね。
だって、銀座ロフトも
「10分前に来てくれればいい」
それでもう何もなく、ドーン、行こう、じゃないですか。
糸井
うん。
このことだけは伝えなきゃみたいなことは1つもない。
燃え殻
ああ(笑)、そうか。
糸井
あるとぼくはできなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
銀座ロフト、楽だったでしょう?
燃え殻
楽でした。

糸井
俺の知り合いに、お天気の話をするだけなのに、
悲しそうに暗そうに言う人がいるんだよ。
いつでも何かに文句を言うの。
燃え殻
(笑)。
ああ、情感たっぷりにお天気話って嫌だな。
糸井
心からね、ネガティブなことにまとめるの、その日を。
だから、「暑いわ」って言われたら
「いや、暑くない」とか、けっこう言う(笑)。
燃え殻
汗びっしょりかいてるのに(笑)。
糸井
うん。

燃え殻
心が通わないほうがいいことも、あるってことですね。
糸井
ほとんどの時間が通わないほうがいいんじゃないの?
通うにしても、10円分渡して10円分ね、
みたいな等価交換的な小銭のやりとり。
燃え殻
それくらいが、ちょうどいい距離感なのかな。
糸井
例えばぼくが今、燃え殻さんに100円あげたとするじゃない。
冗談で
「まあ、これで温かいものでも食べて」って手を握ってね。
そしたら、そのまま受け取っても、
お互いにギャグになるじゃないですか。
でも、もしこれが6800円ぐらいを渡したら、
「何、どうしたんですか」ってなりますよね。
燃え殻
それで「温かいもの食べて」つったら、ちょっと‥‥

糸井
ちょっと、なんか自分がどう見られたんだろうとか、
この人なんかへんなことするなとか、
気持ち悪いですよね。
だから、やっぱり基本は100円玉の流通ですよ。
日常に「何この100円!」っていう偶然があるとうれしい。
「鏡みたいに光ってる!」みたいな。
燃え殻
「ここで100円くれるのか!」っていうのもありますよね。
糸井
ありますね(笑)。
「ああ、もらっちゃおう」とかね。
燃え殻
「え、本当に? ありがとう」ってなりますよね。
糸井
うん、あると思う。
10円でもあるよ、それはね。
そういうことが楽しいの。
燃え殻
ああ、本当に、そうかもしれない。
糸井
そうですね。
燃え殻さんの小さいエッセイみたいなツイートは
100円とか10円の話なんだけど、
その100円が「なんで磨いたの、そんなに」みたいなとき、
人はうれしいんですよね。

糸井
何か書くってことはやめないんですか?
燃え殻
やめないつもりではいるんです。
小説だろうが、
お客さんからの企画だろうが、
美術制作のフリップ1枚だろうが、
受注があったことに対して全力で取り組むっていうことを
ずっとやってきていて。
全力で取り組んで、できれば喜んでもらいたい。
全然知らない人に、例えれば富山の女子高生に。
喜ばせるにはどうしたらいいんだろう、
こうやったら共感してくれるかな、
面白いって思うかなとかばかり考えてましたね。
だから、自分がこういうことを訴えたいとか、
正直なかったんです。
糸井
子どもがまだ小さいときに、
寝かしつけるのにデタラメな話をしてたことがあって。
主人公を子ども本人にしてあげたり、してあげなかったり、
出まかせにいろんなこと言っていると、ウケるんですよね。
それに、なんか似てますよね。
燃え殻
似てる。
糸井
ね(笑)。
燃え殻
本当にそうだと思う。
糸井
子どもがいるわけじゃないけど、
誰かが喜んで聞いているんだったら、
その喜んでる人に向かって、
そのあとどうしようかなって思いながら、
一緒に手をつないでたいみたいな。
そういうこと、あるよね。

燃え殻
ぼくはもう、それだけですね。
小説を仕事ではないところから始めていたので、
その純度を増したいっていうふうに思っていたんです。
仕事があるんだから、
自分の好きなことだけやればいいじゃないか、
という真逆の人もいると思うんですけど。
でも、せっかくそれが流通するものだとしたら、
これは関わった人も含めて
みんなが喜ぶにはどうしたらいいだろうと思いました。
それを探すのが楽しかった。

燃え殻
自分の作品だったら、
どんな残酷な話にもできるじゃないですか。
糸井
うん、そうですね。
燃え殻
ツイッターも、どんだけ残酷にも使える。
だけど、人を驚かせるとか、悲しませるのは、
狂気的なことをすればいいから、ある意味簡単で。
でも、面白がらせるのはけっこう大変。
糸井
そうだよね。
燃え殻
あと、安心させるとかね。
糸井
人って案外、普段は浮かない気持ちでいるもんね。
それをウキウキさせるのは、案外、力仕事ですよね。
燃え殻
その人が今どんな状態かって、わからないじゃないですか。
糸井
わかんない。そうだ。
燃え殻
だけど、ぼく自身がそんな明るい人間じゃないので、
ぼくがこれぐらいに思えば、
多分、ほとんどの人ならもうちょっと、
調子が出てるだろうから‥‥って思うんですよね。
糸井
調子が出る(笑)。
燃え殻
うん。
俺でもこのぐらい喜んでるんだから、
けっこうみんな喜んでくれるんじゃないかなって。
この性格はモノを作るのには向いてるかなと。
糸井
ずっとそれをやってきたことは確かだよね。
燃え殻
はいはい、はいはい。
糸井
壁新聞から始まってね。
燃え殻
そうですね。