燃え殻さんと、ただ、会って話した。
第5回 富山の女子高生を喜ばせたい

- 燃え殻
- 以前、トークショーがあったとき、
ぼくは新潮社の編集の人に、
「嫌だ嫌だ嫌だ」って言ったんです。
名言じゃないですけど、何か1ついいことを
言わないといけないんじゃないかなって。
多分、思いつかないから。
- 糸井
- うん、よくわかります。
- 燃え殻
- そしたら、編集の人に「いいんですよ。
動いてるの見たいだけなんですから」って
言われたんですよね。
そしたら、できたんです。
- 糸井
- 対談は、相手がなんとかしてくれることが、
大いにあるから、大丈夫。
もしご飯粒がついてたら、
「ご飯粒」って相手が言ってくれるじゃない。
- 燃え殻
- ああ、そうですね。
- 糸井
- 何でもいいのよ。
ただ、ただ「会って話そう」だよ(笑)。

- 燃え殻
- そういうほうが面白いって、
糸井さんは思ってるんですよね。
だって、銀座ロフトも
「10分前に来てくれればいい」
それでもう何もなく、ドーン、行こう、じゃないですか。
- 糸井
- うん。
このことだけは伝えなきゃみたいなことは1つもない。
- 燃え殻
- ああ(笑)、そうか。
- 糸井
- あるとぼくはできなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
銀座ロフト、楽だったでしょう?
- 燃え殻
- 楽でした。

- 糸井
- 俺の知り合いに、お天気の話をするだけなのに、
悲しそうに暗そうに言う人がいるんだよ。
いつでも何かに文句を言うの。
- 燃え殻
- (笑)。
ああ、情感たっぷりにお天気話って嫌だな。
- 糸井
- 心からね、ネガティブなことにまとめるの、その日を。
だから、「暑いわ」って言われたら
「いや、暑くない」とか、けっこう言う(笑)。
- 燃え殻
- 汗びっしょりかいてるのに(笑)。
- 糸井
- うん。

- 燃え殻
- 心が通わないほうがいいことも、あるってことですね。
- 糸井
- ほとんどの時間が通わないほうがいいんじゃないの?
通うにしても、10円分渡して10円分ね、
みたいな等価交換的な小銭のやりとり。
- 燃え殻
- それくらいが、ちょうどいい距離感なのかな。
- 糸井
- 例えばぼくが今、燃え殻さんに100円あげたとするじゃない。
冗談で
「まあ、これで温かいものでも食べて」って手を握ってね。
そしたら、そのまま受け取っても、
お互いにギャグになるじゃないですか。
でも、もしこれが6800円ぐらいを渡したら、
「何、どうしたんですか」ってなりますよね。
- 燃え殻
- それで「温かいもの食べて」つったら、ちょっと‥‥

- 糸井
- ちょっと、なんか自分がどう見られたんだろうとか、
この人なんかへんなことするなとか、
気持ち悪いですよね。
だから、やっぱり基本は100円玉の流通ですよ。
日常に「何この100円!」っていう偶然があるとうれしい。
「鏡みたいに光ってる!」みたいな。
- 燃え殻
- 「ここで100円くれるのか!」っていうのもありますよね。
- 糸井
- ありますね(笑)。
「ああ、もらっちゃおう」とかね。
- 燃え殻
- 「え、本当に? ありがとう」ってなりますよね。
- 糸井
- うん、あると思う。
10円でもあるよ、それはね。
そういうことが楽しいの。
- 燃え殻
- ああ、本当に、そうかもしれない。
- 糸井
- そうですね。
燃え殻さんの小さいエッセイみたいなツイートは
100円とか10円の話なんだけど、
その100円が「なんで磨いたの、そんなに」みたいなとき、
人はうれしいんですよね。

- 糸井
- 何か書くってことはやめないんですか?
- 燃え殻
- やめないつもりではいるんです。
小説だろうが、
お客さんからの企画だろうが、
美術制作のフリップ1枚だろうが、
受注があったことに対して全力で取り組むっていうことを
ずっとやってきていて。
- 全力で取り組んで、できれば喜んでもらいたい。
全然知らない人に、例えれば富山の女子高生に。
喜ばせるにはどうしたらいいんだろう、
こうやったら共感してくれるかな、
面白いって思うかなとかばかり考えてましたね。
だから、自分がこういうことを訴えたいとか、
正直なかったんです。
- 糸井
- 子どもがまだ小さいときに、
寝かしつけるのにデタラメな話をしてたことがあって。
主人公を子ども本人にしてあげたり、してあげなかったり、
出まかせにいろんなこと言っていると、ウケるんですよね。
それに、なんか似てますよね。
- 燃え殻
- 似てる。
- 糸井
- ね(笑)。
- 燃え殻
- 本当にそうだと思う。
- 糸井
- 子どもがいるわけじゃないけど、
誰かが喜んで聞いているんだったら、
その喜んでる人に向かって、
そのあとどうしようかなって思いながら、
一緒に手をつないでたいみたいな。
そういうこと、あるよね。

- 燃え殻
- ぼくはもう、それだけですね。
小説を仕事ではないところから始めていたので、
その純度を増したいっていうふうに思っていたんです。
仕事があるんだから、
自分の好きなことだけやればいいじゃないか、
という真逆の人もいると思うんですけど。
でも、せっかくそれが流通するものだとしたら、
これは関わった人も含めて
みんなが喜ぶにはどうしたらいいだろうと思いました。
それを探すのが楽しかった。

- 燃え殻
- 自分の作品だったら、
どんな残酷な話にもできるじゃないですか。
- 糸井
- うん、そうですね。
- 燃え殻
- ツイッターも、どんだけ残酷にも使える。
だけど、人を驚かせるとか、悲しませるのは、
狂気的なことをすればいいから、ある意味簡単で。
でも、面白がらせるのはけっこう大変。
- 糸井
- そうだよね。
- 燃え殻
- あと、安心させるとかね。
- 糸井
- 人って案外、普段は浮かない気持ちでいるもんね。
それをウキウキさせるのは、案外、力仕事ですよね。
- 燃え殻
- その人が今どんな状態かって、わからないじゃないですか。
- 糸井
- わかんない。そうだ。
- 燃え殻
- だけど、ぼく自身がそんな明るい人間じゃないので、
ぼくがこれぐらいに思えば、
多分、ほとんどの人ならもうちょっと、
調子が出てるだろうから‥‥って思うんですよね。
- 糸井
- 調子が出る(笑)。
- 燃え殻
- うん。
俺でもこのぐらい喜んでるんだから、
けっこうみんな喜んでくれるんじゃないかなって。
この性格はモノを作るのには向いてるかなと。
- 糸井
- ずっとそれをやってきたことは確かだよね。
- 燃え殻
- はいはい、はいはい。
- 糸井
- 壁新聞から始まってね。
- 燃え殻
- そうですね。