燃え殻さんに聞いた「書く」ということ
担当・蒼山静花

第5回 大人になれなかったボク
- 古賀
-
燃え殻さんの21冊の手帳というのは、捨てようと思ったりとか、
もうこれ要らないやとか、そう思う機会はなかったですか?
ぼくは同じように手帳とかノートとかに書き溜めて、
引越しのたびに捨てちゃうんですよ。
なんかリセットしたくなって。
- 燃え殻
-
ボク、物捨てることとか、人と縁を切ることが
ものすごい下手なんです。
この小説もそうなんですけど、
付き合ってた人とは縁は切れてるけど、
自分のなかでは終わってないんですよね、気持ちが。
そういうこと言ってるから、
いろんなとこで怒られるんですけど。気持ち悪いとか(笑)。

- 燃え殻
-
で、そこに展示してあるチラシとかファイルとかも
そうなんですけど、ずっと取ってたんですよね。
自分ですらガラクタだと思うんですよ。
でもこういうものを自分の手元に置いて、
何度も何度も読み返していないと安心しないというか。
そういうのをリセットすると
今までの自分と離れちゃった気がして、
荷物がなくなった気がして、一歩前に出るのが怖くなっちゃう。
「荷物は軽いほうがいいよ」みたいな人も
いると思うんですけど、
荷物が重くないとボク、ダメなんですよ。
そういうものを持ってないとボクは前に進めないから、
絶対一生捨てないと思う。
- 糸井
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タイトルにも、「捨てられない」って書いてありますよね。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』。
子どもを捨てないと大人になれないじゃないですか。
ぼくなんか、「捨てる痛み」が好きなんですよね。
だから、ズルズル引きずりたい、捨てたくないって自分が、
捨てざるを得なくなってものを捨てるときに、
「ああ、捨てちゃったけど、とくに大丈夫だったな」
みたいなことを、涙と共に味わうのが好きですね。
それはぼくの個性です。

- 燃え殻
-
本当は何の差し支えもないと、ボクもわかってるんです。
- 糸井
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それは、あるとしたら「寂しさ」です。
で、ぼくはその「寂しさ」が好きなんだと思うんだよね。
そのキュンとしてるときの自分の実在感。
それはものを捨てても残ってるんです、やっぱり。
捨てちゃったら俺じゃなくなっちゃうな
っていう気持ちになるから、
子どもはものを捨てたくないんです。
- 燃え殻
-
ああ、じゃあ、ボクそれだ。
- 糸井
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それだと思う。だから、大人になれなかったって
言ってるじゃないですか。
- 燃え殻
-
はい、発売までして(笑)。