もくじ
第1回断る余地をのこすこと 2017-10-17-Tue
第2回「楽しむんだ。」 2017-10-17-Tue
第3回どうしても気になっちゃうこと 2017-10-17-Tue
第4回「来週の納期」の積み重ねが「人生」の裾野 2017-10-17-Tue
第5回竹中直人を描き続けて存在証明 2017-10-17-Tue
第6回知らない誰かに喜んでもらいたい 2017-10-17-Tue

東京で働いてはいるものの、岩手の紫波町というところで120年以上続く餅屋を継ぐかどうするかの瀬戸際にいます。先のことはわからないから、まずは頑張って生きます。

知らない誰かに喜んでもらいたい

知らない誰かに喜んでもらいたい

担当・髙橋元紀

第4回 「来週の納期」の積み重ねが「人生」の裾野

糸井
魂を通わせなきゃないときって世の中にそんなにないよね。ほとんどのことは通わない。そうだな、「いいお天気ですね」っていうのもさ、心から言ったらいやらしくない? それだけで。「(しみじみと)いいお天気ですねえ」。
燃え殻
(笑)情感たっぷりな「いいお天気ですね」って面倒くさいですねえ。
糸井
そうでしょう?
俺、お天気の話をするだけなのに、悲しそうに暗そうに言う人がいるんだよ、知り合いで。
燃え殻
ぼくじゃないですよね。
糸井
違う違う。「寒いわね」。
燃え殻
ははは
糸井
エレベーターの中でその人と2人になったときとか、「そうでもない」とか言っちゃったりするな、俺、つい。
いつでも文句言うの、何かに。暑ければ「暑いわ」。
燃え殻
あはははは。ああ、情感たっぷりにお天気話って嫌だな。
糸井
心からね、ネガティブなことにまとめるの、その日を。だから、「いや、暑くない」とか俺、けっこう言う(笑)。
燃え殻
汗びっしょりかいてるのに(笑)。
糸井
うん。
燃え殻
心が通わないほうがいいことっていうのもあるってことですね。
糸井
ほとんどの時間が通わないほうがいいんじゃないの?
燃え殻
えぇ? そうか。

糸井
通うにしても等価交換的な。10円分渡して10円分ね、みたいな。小銭のやりとり。
燃え殻
小銭のやりとりぐらいがちょうどいい距離感なのかな。
糸井
例えばぼくが今、燃え殻さんに100円あげたとするじゃない。冗談で俺が、「まあ、これで温かいものでも食べて」って手に握らせてね。そしたら、そのまま受け取っても、お互いにギャグになるじゃないですか。これが6800円ぐらいを渡しただけで、「なんだ、どうしたんですか」ってなりますよね。
燃え殻
それで「温かいもの食べて」つったら、ちょっと意味でちゃうな。
糸井
ちょっと、なんか自分がどう見られたんだろうとかさ、この人、なんかへんなことするなとかさ、気持ち悪いですよね。だから、100円玉の流通ですよ、やっぱり基本は。
燃え殻
日常というかコミュニケーションというか。
糸井
うん。そのときに、偶然その100円が、「何この100円!」っていうときがあるとうれしい。とっておこうとなる。
燃え殻
うん。ここで100円くれるのかっていうのもありますよね。
糸井
ありますね(笑)。「ああ、もらっちゃおう」とかね。
燃え殻
「え、本当に!? ありがとう」ってなりますよね。
糸井
うん、あると思う。10円でもあるよ、それはね。
燃え殻
ある。
糸井
そういうことが楽しいの。
だから、それ以上は心に立ち入っちゃうんだよ、相手の。そんなことしないでほしいっていう。
燃え殻
考えさせちゃう。

糸井
そうですね。だから、多分、燃え殻さんがちょっと小さいエッセイみたいなツイートするときとか、あれ100とか10円の話なんだけど、その100円が「なんで磨いたの、そんなに」みたいなときがあると人はうれしいんですよね。
で、「なんで」って言って、その「なんで」のところにちょっと怒ってんのかなとか、淋しいのかなとか、あれは楽しいですよね。どっさりと載せないから。ツイッターにどっさり載せるのはやっぱり、しょっちゅうやっちゃダメですよね。
燃え殻
そうですね。ツイッターでもどっさりの人いますね。
糸井
います、います。で、あわてて、「ま、ま、まじめか!」みたいにね、言わなきゃなんなくなったり(笑)。ぼくらも、だから、「まじめ」は当然交じっちゃうんだけど、流れでまだツイッターってごまかせるから、次の1点を入れられるから、全然違う話をしたりね。余韻を残すみたいなのあるじゃないですか。ブルース・リーがパンチを当てたあと、ウーンってやるみたいな。あれはあんまりやっちゃダメだよね。
燃え殻
わかる。それ陶酔だから。ハンマー投げのあとみたいな。
糸井
ハンマー投げ(笑)。
燃え殻
ハンマー投げのあと、あるじゃないですか。「ナーー!」って。
糸井
だから、それはなんかやっぱり、髪の毛つかんでこっち引きずり回そうっていうのと似たジャンルのことですよね。できるだけ関わらないんだけど、仲良くしましょうねっていう程度の。
燃え殻
それは、でも、本当に難しい。
糸井
ごきげんでいましょうねというか。古賀さんが犬のこと書いてるときとかってさ、なんかもう1円玉みたいじゃない。かわいい。俺もそうなんで。それは、なんかあってほしいよね。
燃え殻
そういうことが常に練習じゃないけど、あいだに入ってないと。
糸井
そうそうそう。
燃え殻
逆に110円のときもあるからね。
糸井
あるある(笑)。
燃え殻
110円がまた効かなくなっちゃう。
糸井
うんうん。
燃え殻
そうですよね。古賀さんはほっとけば150円ぐらいになっちゃうから。だから、逆に1円でバランスいいんですよね、そっちのほうが。150円が効いてくるから。ずーっと150円の人いるしなあ。
糸井
古賀さんは多分、毎日書くっていうのを自分に課して、毎日書くと書くことがない日がどんどん出てきて、そういうときでも毎日書くって決めたから書くってやったんで、1円玉とか使えるようになったんじゃない? それはなんか、多分自分でそうしたかったんだろうねと思う。その楽しみっていうか。おじいさんと無駄話ばっかりしてるじゃない。あ、俺だ(笑)。
燃え殻
いえいえいえ(笑)。

糸井
「考えたことあるんだよ」って話は、すごくぼくの好きなフレーズで。全然何も考えてなさそうな人が、ぼくが例えば何かした質問に、「なるほど」って答えがあったりするんだよね。そのときに、「ああ、それはさんざん考えたことあるんだね」って言うと、「ええ」って言うんだよ。
俺もそういうことが多いんだ。誰か何か聞いたときに、「それは俺もね、何回も考えたんだよ」って言ったのを一生懸命言うの。燃え殻さんもそういうのあるよ、やっぱり聞いてると。
燃え殻
あ、そうですか。
糸井
「そりゃだって考えざるを得ないじゃないですか」みたいな。
燃え殻
ああ、うん、あります。
糸井
それは絶対面白いんですよ。
燃え殻
うーん‥‥。
糸井
考えてない人もいるからね。
燃え殻
そうかぁ。
糸井
燃え殻さんは、その考えた節があるっていうのがもう小説になったりエッセイになったりしてるわけだから。それについちゃあね、答えはないんだけど書いたんだよみたいな(笑)。
燃え殻
そうなんですよ。考えてるっていうことを出してるというか。
糸井
そうだよね(笑)。
燃え殻
はい。悩みとかも常にそうですよね。
常に悩みが解消しない。悩んでる、で、置いとくとか、悩んでることが変わるとか、なんかそういうことだらけで。そうすると、また今度新しく枝葉が分かれて。いいか悪いかもわからないんですけどね。でも、先には進んだ。ずっと同じことを考えてるっていうよりは、精神衛生上いいかな、ぐらいの話なのかなあ。
糸井
そう言われるとそういうところある。そっちに行ったほうがややこしくなってややこしくなるおかげでその間の時間に没頭することができるというか……。
燃え殻
悩みは悩みで消しあうみたいなのありますね。あのね、面倒くさくしちゃったほうがいいってときあるんです。
何ていうんですかね、手元にいろいろあったほうがいいですね。悩んで解決しない人ってね、「人生が」とかすぐ言うんですよ。
糸井
ああ、ああ。
燃え殻
でかいんですよ、悩みが。
糸井
うんうん。
燃え殻
宇宙から見ないと解決しない悩みを言うんですよね。
糸井
うんうん、あるね。
燃え殻
そういう人にはやっぱりね、手元にね、悩みを置くことをお勧めしますね。そうするとね、それに集中しなきゃいけないんでね。それはお薦めですね。ぼく、そうしてます。なんかね、悩みたくなるんですよ。ちょっとロマンチックになるじゃないですか、ちょっと遠い悩みって。
糸井
あー、はい。

燃え殻
ぼくはお酒飲むんで、お酒とか飲むと、とくに言いがちなんです。「やっぱり人生ってさ」(笑)。なんとなくこう、いい具合になってくるっていうか、「仕事ってさ……」なんて言うんですけど、やっぱり「来週の納期ってさ」って言わないじゃないですか、やっぱりお酒飲んでると(笑)。
糸井
うんうん、言わない、言わない。
燃え殻
やっぱり来週の納期とかの話をしてると、いいですよね。いろいろ本当の意味で解決しますね。本当に前に進みますね。
糸井
その「来週の納期」の積み重ねが、「人生ってさ……」の裾野だもんね。
燃え殻
うん。「人生ってさ」っていうのは、振り返って言う話なので、ふりかぶって言っちゃダメだなって思うんですよね。
糸井
ぼくは、その燃え殻さんが言ってることを、自分もそうだなって思う場面が結構いっぱいあって、今のあたりは近いね。
燃え殻
ああ、そうですか。
糸井
近い。だから、何ていうんだろう、形になりようがないものについて考えるのは、これはこれでお楽しみとしてはあると。でもどうしようもない不平等というのはあるよねっていうのを、急に言われても困るじゃないですか。
燃え殻
困るし、絶対的真理とか言われても困るんですよ。
糸井
困る。抵抗しようがないから。
燃え殻
そうなんですよ。そうすると、なんかもうどうしようもなくなって、目の前の努力もやめてしまいそうになるじゃないですか。だから、ずっと1個、意味もなくボトルシップ作ってるみたいなのがいいですよ。そうすると、頃合いがいいですよ。
糸井
大体の男は、そういう傾向のあるやつが家庭を持っちゃって、目の前の忙しさが増えていって、解消したんだか何だかわかんないっていうふうにまとまっていくんじゃないですかね。
燃え殻
ああ。でも、それはひとつのいい答え‥‥
糸井
答えなんでしょうね。だから、現役でボトルシップを作ってる人とかから見ると、「何そのヨダレ拭いて時間が過ぎていくみたいな」って思うのかもしれないけどね。
燃え殻
そうなんですね。
糸井
そうすると1色になっちゃうから、燃え殻さんみたいなタイプの人は、もっといろいろ、いろいろあるじゃないですか、手元に。
燃え殻
うーん。でも、ひとつ、そういうのがあるといいのかもしれないって今話しながら思いました。
第5回 竹中直人を描き続けて存在証明