知らない誰かに喜んでもらいたい
担当・髙橋元紀
第5回 竹中直人を描き続けて存在証明
- 糸井
- 燃え殻さんが書いてることは、絵っぽいですよね。パノラマみたいな、スケッチみたいな。
- 燃え殻
- ああ、そうですね。その景色さえ決まってしまったら、あとはクサくても大丈夫だし、何も起きなくても大丈夫なんじゃないのかなっていうふうに思う。
- 糸井
- 絵だね、やっぱり。絵やってた?
- 燃え殻
- 昔はやってました。
- 糸井
- やっぱり。
- 燃え殻
- なんで?
- 糸井
- いや、とてもビジュアルっぽいから。
- 燃え殻
- ぼく、山藤章二の似顔絵塾っていうのにずっと出してたんです、似顔絵を。

- 糸井
- それで入選したの?
- 燃え殻
- 載ってます、「週刊朝日」の裏側に。ぼく、今でも全部持ってますよ。載ると山藤さんがコメントくれるんです。「今回もまた竹中直人だね」って。1年間、竹中直人だけの似顔絵をバリエーション変えて送ってました。
- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
- 学ランでエプロン着てる竹中直人とか、なんか着てそうじゃないですか。茶色い顔の竹中直人とか、1年中バリエーションを変えて、毎週竹中直人をずっと山藤章二さんに送ってたんです。まあ、嫌な人だったと思いますよ。
- 糸井
- はぁー。
- 燃え殻
- でも、4回、5回ぐらい竹中直人で載った。
- 糸井
- 山藤さんも選び続けた。
- 燃え殻
- そう。で、だから、「また竹中直人だね」って書いてくれて。
- 糸井
- 計何回くらい載ったの?
- 燃え殻
- いや、もう本当に二十何回載った。
- 糸井
- それは素晴らしいんじゃない? 何か勲位をもらったんじゃない?
- 燃え殻
- 一時期はすごく載って。で、1年間でよかったやつって最後、選ぶんですよね。審査風景みたいのにぼくのがあって、結果はダメだったんですが審査員が山藤章二さんとナンシー関さんとか松本人志さんとかそのへんだったんです。そういう人たちが選んでくれているとこに自分のものがあるっていうのが……
- 糸井
- ああ、それはすごい。
- 燃え殻
- それこそ、エクレア工場でバイトしてたりとかそのへんの頃だったんで、「生きてる」っていうか、山藤さんが選んでくれてるということで、価値がある人間なんじゃないかって
- 糸井
- ただ落ちてる石ころじゃないぞと。
- 燃え殻
- そう(笑)。
- 糸井
- ちょっと面白い形をしてるぞと。
- 燃え殻
- 俺は面白い、どこか面白いんだって思わないと、多分やってられなかったんですけど。
どこかで面白いんだと思って出してました。
- 糸井
- そのエクレアの頃にそれやった?
- 燃え殻
- やってた。高校3年生から専門学校出て、エクレア工場のときもずっとやってました。ずっとやってた。
- 糸井
- それは大事ななんかだね。やり続けられたんだね、でも。
- 燃え殻
- ほかに、ラジオとかにも出したこともありますけど、そこでディスクジョッキーの人が、自分のつけたペンネームを読んでくれる。そうすると、なんか認められた気がするんですよね。「いて良し!!」って言われたような気がしたんですよね。
- 糸井
- 「いてもいいんだ」感。

- 燃え殻
- それで思い出しましたけど、普段全然褒めてくれない彼女と『エイリアン2』観に行ったんですよね。そしたら、登場人物がただ普通に宇宙船の中で「エイリアンが出てきたら嫌だー」って話しているシーンで、彼女が「ギャー!」って言ったんです。そしたらもう、劇場中が「ぐわーっ!」って言ったんです、本当に。
- 糸井
- そうだろう(笑)。
- 燃え殻
- そんなリアルサウンドないじゃないですか(笑)
- 糸井
- うん、うん(笑)。
- 燃え殻
- 絶叫、絶叫、映画館がもうそのときに。
- 糸井
- うん。誘い水(笑)。
- 燃え殻
- そう。で、まわりが「ワー!」って言って、俺も「ワー!」と言ったんです(笑)。「いや、もう出てきたかと思って」って彼女が言ったら、周りの人たちが「えー!」みたいな(笑)。「えー!」まで言いましたからね。映画間で真っ暗な中で、「えー!」。
- 糸井
- それ理由はあったの?
- 燃え殻
- なんにもない、だから、もうハラハラし過ぎて言っちゃったっていうんですよ。で、それを書いたんですよ、『宝島』に。そしたら、それが採用されたんです。
それについてはめちゃめちゃ褒めてくれましたね、彼女。
- 糸井
- それ、だって面白いもの、やっぱり。その面白いものに出会ってること自体が面白いんですけどね。出会わないらしいですよ、なかなか人は。
- 燃え殻
- そうなんですか?
- 糸井
- 燃え殻さんは、だからそこの、まず彼女が思わず「ギャー」って言っちゃったのも出会ったわけだし、それを投稿するってとこまでもう1回リサイズして絵を描き直した。
- 燃え殻
- ああ、まあまあ、そう。
- 糸井
- それ、つまんなく言うこともできるからね。「友達がギャーと言いました」って。
- 燃え殻
- ああ。
- 糸井
- 昔書いたんだけど、すごいちっちゃいときから、クラスで1番っていうので威張ってるっていうのはどうかと思ってて。だって日本に何クラスもあるんだから。
- 燃え殻
- (笑)。いや、それわかる。
- 糸井
- それはダメだろうって。学校で1番と言っても、学校山ほどあるし、市があって県があって、もう県大会なんて何も意味ないよ。日本のスケールで考えたら意味ないよって。自分のこともそう思ってた。ちょっと冷めてたっていうかね。
- 燃え殻
- はい、わかります。
- 糸井
- だから、それがもしかしたら、今の「ギャー」の話は、日本で通用する遊びかもしれないじゃないですか。
- 燃え殻
- ああ(笑)。
- 糸井
- だから、クラスで友達に受けたっていうのはものすごいうれしいんだけど、そうか、その友達にウケたのは日本でもウケるのかっていう。
- 燃え殻
- ああ。でも、そうかもしれない。だから、山藤さんに選ばれたのもそうだし……
- 糸井
- うん、そうそうそう。

- 燃え殻
- ラジオでもそうかもしれないけど、何かこう、まったく血縁関係のない、自分にとって有利でない場所で突然スポイルされるみたいな、「あ、俺はいてもいいのか」みたいな、そういう感じに思えたのかもな。だから、うれしくて。
- 糸井
- うれしいと思う。だから、受験なんかに一生懸命な子は、全国で1番か2番のところをいつも争ってるやつっていうのが友達にいたりする。それは全国じゃないですか。さっきの「クラスで1番なんか大したことないよ」っていうのとは全然違う。
「実は通用するんだよね」ってあたりがあるから、そこにちょっとでも引っかかってたら、うれしいんじゃないですかね。でもそれは下手をすると、ただの有名になりたい病になったりする可能性もあって、そうやってダメになっちゃうやつも山ほどいて。
俺はそのダメになっちゃうみっともなさみたいなものというのに対してものすごく慎重だった気がするんですよね。でも、やっぱりいい気になって踊っちゃうのもあるし、両方……
- 燃え殻
- 両方ですよね。
- 糸井
- 両方ですよね。それで、だんだんとこれは1番だろうみたいなものに会うようになったりすると、もう1回普通に戻るみたいな。普通にすごいっていうふうに(笑)。
だから、何でしょうかね、そのままでもよかったんだなっていう答えになるかもしれないよね。誰にも知られない人のままでも本当はよかったのかもねって。
- 燃え殻
- いや、本当にそうかもしれない。ぼくが人前で話すときも、「そのままでいいんだ」っていうところにたどり着くまで、もういろんなことがあったんですけど、最終的にそのままでよかったとか、自分が会いたかった人が普通の人だったっていうことに感動したり。
- 糸井
- うん、普通なんですよね。
- 燃え殻
- 普通の話をしてくれたってことに感動できたりするんですよね。特別な話だったりとか、そこでしか聞けなかった何かっていうのももちろん面白かったりもしてたんだけど、最終的にはその人がぼくとつながってたっていうか。
- 糸井
- そうですね。同じ人間だっていうか。
- 燃え殻
- 同じ人間だったって確認をしたかったんですよね。それは作品だったりとか、そういうものが素晴らしいから。
- 糸井
- うん、そうですね。だから、みんなが何億円だって言ってるものの価値が、ピカピカした100円玉の1つなんだっていうか。
- 燃え殻
- ぼくは糸井さんに会ったときに思いましたけどね。
- 糸井
- 100円玉だって?
- 燃え殻
- 「あ、同じだ!」って。
- 糸井
- 同じだ、ああ、そうですか。
- 燃え殻
- って思って、もっと緊張すると思ったら、緊張しなかったんですよ。
- 糸井
- それはぼくにとってもうれしいことです。つまり、100円玉でいようと思って、いられているってことの写真撮られたようなものだから。