もくじ
第1回書く理由って、必要ですか? 2017-10-17-Tue
第2回書く理由って、必要ですか? 2017-10-17-Tue
第3回書く理由って、必要ですか? 2017-10-17-Tue

出版社で広報の仕事をしています。
韓国が好きすぎてただいま移住計画中。

書く理由って、必要ですか?

書く理由って、必要ですか?

担当・東山

第2回 書く理由って、必要ですか?

糸井
ぼくがよく言うのは、自分が一番好きなのは場を作ること。だから、いろんな人がそこに来ると自分らしくなれる、あるいは、人の話がどんどん聞けるようになるとか、そういう場ができることが一番、ぼくにとって喜びなので。何か諍いがあったりしたら、ないほうがいいなと思うし、あるいは押しつけるようなこととか、抑え込むようなことがあると、そういうことすると場がなくなっちゃうから、やめようという。
  
多分それは、それこそ「キャッチャー・イン・ザ・ライ」って言葉そのもので、子どもたちが遊んでて落ちないように支えてる大人の役という、その思考はぼくの中には多分あって。だから、ぼく自身が作った何かが褒められるというのは、瞬間的にはうれしいんだけど、それよりは、作った場で出てきた人が褒められてるほうがうれしいんですよね(笑)。
燃え殻
あ、それはすごいわかります。大槻ケンヂさんに会ったときに、「大槻ケンヂさんが小説を書いていたあと、ぼくは小説を書きました」と、「面倒くさいファン」みたいなこと言ったんです。そしたら大槻さんが、「それはうれしいよ。面倒くさいけどうれしい」と言ってくれて、そういうものであれってぼくは念じてますけどね、今。そういうことが一つでもできたら、「よくやったな、自分」って思いますけどね。
糸井
ずっと読者が集まって何かをするって場を作るのは、ぼくはわりともう趣味であり仕事でありみたいなことを続けるって、それは稼ぎにはなんないんだけど、ものすごく大好きで、例えば80年代のはじめぐらいにやってた連載の中で、「ヘンタイよいこ新聞」というのがあって、「かわいいものとは何か」ってお題に対して、「お父さんが股引で家の中を歩いてるのは妖精のようでかわいいと思います」というのがあって。お父さんの股引に「かわいい」を持ってくる人がこの場にいるってだけで、ちょっとジーンと来ます。
燃え殻
その場を大切にしとこうかって。

糸井
うん。「かわいい」って言葉が、今の若い子は何でも「かわいい」で済ませちゃってるっていう批判があったときに、「かわいい」の中にはそこまで含まれるんだってことをぼくは知ってるから、「かわいい」で表現する人たちに対してものすごく温かいんです。
燃え殻
寛大な気持ちになれる(笑)。
糸井
「十円玉の真ん中にあるリボンがかわいいと思います」。
燃え殻
え、リボンありました?
糸井
こういうのなんです。十円玉を今かわいくしてみました。
燃え殻
やってみました(笑)。
糸井
というのでも「かわいい」という言葉は、ぼくがそれを拾って出すことで、世の中の「かわいい」の許容量が変わるじゃないですか。それはものすごく嬉しいことだし、「コロッケ」ってお題で、ぼく、コロッケ大好きなんだけど、コロッケで松という一番いい位を取ったやつが、「落としても食える」。すごいでしょう(笑)。
燃え殻
ああ、すごいですね。時代超えましたね。
糸井
そうでしょう? コロッケの表面のバラつきというか(笑)、あれがないと落としたら食えないですよね。だから、「みたらし団子」ってお題で、「落としても食える」つったら、「おまえ、それ好きなんだろ?」。コロッケは大丈夫ですね。拾いたくなる何かがあって。で、食うっていうときに、食いたいからこそって感じが、落ちてるとこから拾う運動の中に全部入ってるじゃないですか。これはもう永遠にぼくの頭の中に‥‥
燃え殻
はい、もうインプットされてるんですね。
糸井
そう、ここの会場に来た人もコロッケを見たときに、「そうだよな、落としても食える」(笑)。
燃え殻
(笑)
糸井
人はね、素晴らしい工夫をするから、「3秒ルール」というのを発明してね。
燃え殻
はいはいはい。
糸井
核の持ち込みがどうのこうのっていうのと同じように、3秒以内はOKだって。あれも、なんとか拾う側の弁護人になりたかったからですよね。ああいう人間をぼくは、増やしていきたい(笑)。
燃え殻
(笑)
糸井
日本寛容党。
燃え殻
(笑)。糸井さん、今日、何の話でしたっけ。大丈夫ですか。やっぱり打ち合わせしたほうがよかったかな(笑)。
糸井
寛容になりたまえ。

燃え殻
はい。
糸井
手帳の話、大もとはね。
燃え殻
怒られちゃう(笑)。
糸井
大もとは手帳の話だから。手帳が見えてる中でしゃべってるわけだから、手帳ね。だから、ムードとしては、「あ、なんか手帳の話聞いたな」っていう。
燃え殻
サブリミナルにして。
糸井
なると思いますよ。
燃え殻
違う違う、違う違う。
糸井
だから、この「ドック・オブ・ベイ」がかかっていたなみたいなことと同じです。多分。えーと、質問を受けるっていうのをやります。いないですか。ちょっと今、逃げ腰だった(笑)。
燃え殻
これ手挙げるの大変ですよねえ。
糸井
大変。じゃ、気さくに。誰も見てませんから。手を挙げてみてください。あ、ダメだ。ちょっと追い詰めちゃったね。今、テレビカメラ回ってます。
燃え殻
とどめですね(笑)。
糸井
じゃ、みんな1回、目をつぶってください。そして、質問のある方、手を挙げてみてください。いないですね。じゃ、もうベストセラー作家に振るしかないね。お願いします。『嫌われる勇気』の古賀さんです。必ずね、この役引き受けてくれるの。
燃え殻
ぼく、古賀さん、一番尊敬してます。
糸井
もうね、神かってぐらいね。
燃え殻
神です。
古賀
燃え殻さんのその21の手帳というのは、それは捨てようと思ったり、もうこれ要らねえやって、そういう機会はなかったですか。ぼくは同じように手帳やノートを書き溜めて、引越しのたびに捨てちゃうんですよ。リセットしたくなって。そういう気持ち、どうなんだろうなって思いました。

燃え殻
ぼく、物を捨てるとか、人と縁が切れることがものすごい下手なんです。この小説もそうですけど、その付き合ってた人とは縁が切れてるんですけど、自分の中では終わってないんですよね、気持ちが。そういうこと言ってるから、いろんなとこで怒られるんですけど。気持ち悪いとか(笑)。で、そこで展示してあるチラシだったりとかファイルみたいなものとかもそうなんですけど、ずっと取ってたんですよね。 
  
それは何だろう。自分ですらガラクタだと思うんですよ。ガラクタだと思うんですけど、こういうものを自分の手元に置いて、何度も何度も読み返していないと安心しないというか、そういうのをリセットすると今までの自分と離れちゃった気がして、荷物がなくなった気がして、一歩前に出るのが怖くなっちゃう。だから、荷物が多少あったほうがぼくは進めるというか、「荷物はもう軽いほうがいいよ」みたいないろいろな人がいると思うんですけど、荷物が重くないとぼくダメなんですよ。
  
誰かから言われることもそうかもしれないし、任されることもそうかもしれないし、言われないとだったり、思ってないと、「あいつはこう言ってたな。どうにかしていつか見返してやろう」とか、「いつか口が利ける人間になろう」とか、そういうものを持ってないと多分、ぼくは前に進めないから、絶対一生捨てないと思います。
糸井
それは個性なんですかね。そういう個性なんですかね。
燃え殻
そうかもしれないです。

糸井
ブチの犬がいたり、白い犬がいたりするみたいに。タイトルも、捨てられないって書いてありますよね。『ボクたちはみんな大人になれなかった』。子どもを捨てないと大人になれないじゃないですか。だから、ずーっとそういうお父さんとかもいますよね。ぼくなんか、だから、捨てるゲームの痛みが好きなんですよね。好みなんです。だから、捨てたくない。ずっと捨てるっていう目にも遭いたくない。そしてズルズルズルズル引きずりたいって自分が、捨てざるを得なくなって捨てるときに、見なかったこと――注射するときに刺さってるのを見ないタイプですか。
燃え殻
あ、ぼく見ない。
糸井
ぼくもそうなんで。その間に捨てられたときに、「ああ、捨てちゃったけど、とくに大丈夫だったな」みたいなことを涙と共に味わうのが好きですね。それはぼくの個性ですね。
男性
燃え殻さんは印象的なツイッターやツイートをされていて、楽しく拝見しています。あれは、どういう想いで、きっかけで書こうかなって思うんですか?
燃え殻
あ、すみません、ありがとうございます。 
まったく別にないんですけど、‥‥ぼく、下書きしたこともないし、何もないときに書いてますね。それこそ習慣づいてて、ちょっとこれはヤバいなって、最近はもうちょっといい加減にしようと思ってるんですけど、昔、学級新聞を書いてたときに、「なんで学級新聞を書いてるの?」っていうふうに自分で本当に問いたくなったんです。読んでる人いなかったから(笑)。
糸井
(笑)
燃え殻
別に担任に言われて書いたんじゃなくて、勝手に発行してたんで。よく政治団体とかがやるじゃないですか。
糸井
不認可(笑)。
燃え殻
そう、不認可。だから、不良にキレて破られたんですけど、それって何の意味もないのに書いてるんですよねえ。でも、どこかで気持ち悪いから承認されたいとか思ってるんでしょうね。気持ち悪いなあと思って。だから‥‥
糸井
気持ち悪いって自分で今、言ってますけど、言われるうちにそうなのかもねって思うようになったんですか。言われてるんですか。
燃え殻
言われましたねえ。
糸井
女に?

燃え殻
女って、なんで女なんですか(笑)。いや‥‥これ、ツイッターでリツイートとか「ふぁぼ」みたいのがつくと、それがいっぱいつくとうれしいなって。別にお金儲かんないじゃないですか。お金儲かんないのに、なんか嬉しい気持ち、そういう期があったんですけど、みんな、リツイートしちゃう年頃ってあるじゃないですか。若い子とか。「ふぁぼ」しちゃう年頃みたいな、別にもう、意味なんかないです。でも、それを受けてるほうは、ものすごい人気があるんじゃないかって思い始めちゃって、これヤバい、ヤバいというか気持ち悪いなと。それ期です、だからぼくは。
糸井
今、そのウケちゃって気持ち悪いなって。
燃え殻
そういうのは勘違いしてはいけないと、そんなふうに思って、何だろう、ツイッターとかで例えばフォロワーが多い人が何かイベントをやります、っていうときの危うさって(笑)、ありませんか。
糸井
自分を支持してくれる人を集めるっていうのを繰り返すと、仕事になるんですね。で、そこで止まるんですよね。
燃え殻
止まる、止まるじゃないですか。

糸井
うん、止まるのがいやだから、したくない。
燃え殻
ぼくもそれがすっごい嫌なんです。すっごい嫌で、その同じ人から何度もお金を取るみたいな、同じ人から何度も気持ちを取るみたいなことを‥‥
糸井
「気持ちを取る」ね、うんうん。
燃え殻
やりがちなんですよ、ああいうの。ぼくはツイート集を出しませんかって言われたら絶対嫌だなって思ったのは、そんなツイート集を買ってくれる人が何千とかいたらいいなぐらいの話で、もっといないかもしれない。その人たちからお金をもう1回取るような、そういう、何ていうんだろう‥‥すごい小さい‥‥
糸井
狭い感じね。
燃え殻
本当に思うんです、ぼく。
糸井
それは、そう思ってる人はなんないです。絶対なんないですよ。それは、気づいちゃってる人はしないんですよ。大丈夫です。燃え殻さんはなんない。でも武者修行は好きですよね。怖い人に会うとか。
燃え殻
それは大好きなんですけど、怖い人に会うって、もうぼく、糸井さんに会うの超怖かったんですよ。そりゃ怖いじゃないですか。糸井さんに会うって怖いですよ。今2回言いましたけど(笑)。

糸井
言われてる本人としては、ああ、そうですかって。
燃え殻
怖い人にしかこの夏、会ってないんですよ、ぼく。もう本当に怖くて。
糸井
ああ、いいですね、うん。
燃え殻
もうずっと肝試しみたいでした。だって大槻ケンヂさんとか、会田誠さんとか、大根さんとか、そんなの毎週会ってるんですよ。
糸井
ちょっと無頼な匂いしますね、ぼく以外は。
燃え殻
いや、糸井さんも無頼ですよ。でも、そうすると、でも、ちょっと違う人が見ると、「このミーハーめ」と。
糸井
ああ、なるほど、なるほど。
燃え殻
これは、何ていうんだろう、プロレス好きなんですけど、新人レスラーが、すごい強い選手と夏のシリーズで7番勝負させられるんです。で、バカみたいにやられる。でも、やられてる様を見て、「頑張れよ」と、客が声援を送るっていうプレーがあるんです。もうそれに近くて。
糸井
プロ中のプロのやっぱりトップクラスの人がどういうふうに恐ろしいか。そこのところで、ちょっと組手やらせてもらってありがとうございましたっていうのって。
燃え殻
いや、もう本当に、だから、組手ですよ。しかもそれぞれ宗派が違うんですよね。会田さんとか大槻さんとか。
糸井
全部違うよね。
燃え殻
違うんですよ。それで、ことごとくやられるわけですよ。
糸井
大体その何ていうの、プロの人たちは、同じ自分の話をして回します。俺がどれぐらい親切かわかるでしょう。
燃え殻
うん、もう糸井さん、夏の終わりに。
糸井
ちゃんとキャッチボールを。
燃え殻
夏の終わりにキャッチボールしてくれましたよね、本当に(笑)。
糸井
ね? だから、俺も、その自分の話を順番にネタで回していく人っていうのは、やっぱりあんまり会いたくない。
燃え殻
居づらいですよね(笑)。
糸井
あんまり、だから、しないようにしてる。
燃え殻
ああ、でも、だから、勉強になるんです、いろいろ。本当に勉強になったし、みんな、いい人でしたよ。いい人でしたけど、ただ、いろんな組手をして、そうするとわかるんですよ。自分がいかに何でもないかがわかるし、その今、自分が置かれてる立場とかが、x軸、y軸でわかるんです。そうすると、すっげえ持ち上げる人がいたとしても、もうわかるっていうか。
糸井
今の話を受けて終わりにしようと思うんだけど、自分が思ってて気づいてなくて、あなたはすごいですよっていう、はっきりあるものがあって。それは、あのとんでもない角度からいろいろ質問受けてる人生相談。あの答えてる燃え殻さんは、すっごく同じ場所に立ってて、一生懸命考えてて、エッセイでも何でもないんだけど、ものすごい発見もあって、全部面白い。
燃え殻
えー、ありがたい。
糸井
あれは、あれがもし職業名であるならば、人生相談士っていうのに‥‥

燃え殻
また怪しい(笑)。
糸井
なってもいいくらい、あれはいい。谷川俊太郎さんの人生相談の本をうちで出してるんだけど、『谷川俊太郎質問箱』っていうので‥‥
燃え殻
はい、ぼく、持ってます。
糸井
いいでしょう?
燃え殻
はい。
糸井
あれぐらい面白い。
燃え殻
え?
糸井
本当にそう思う。
燃え殻
ああ、ありがとうございます。
糸井
本当にあれ一生懸命やってますよね。
燃え殻
もう一生懸命やるしかないし‥‥
糸井
そうですよね。
燃え殻
ぼくが雑誌や本、テレビで見てた糸井さんや堀江さんや会田さんたちは、「わっすごいな、全然かなわねえ」って思って当たり前なんですけど、かなわないって思ったけど、会ったら、人間じゃんって失礼なんですけど、「あ、人間じゃん」って思ったんですよ。 
 
何十パーセントかは多分、みんな一緒やんって思って。だから、ぼくが文春オンラインでやってる人生相談で相談が来たときに、ぼくの人生の中のどこかで、この小説も一緒かもしれないですけど、まったく同じことはないけど、そういう気持ちに俺もなったことあるよっていうことばかりなんですよ。性別が違かったとしても、年代が違かったとしても、生きてた場所だったり職業が違かったとしても、ああ、その気持ちに近い気持ちに俺は全然違うけど、小学校のときにその気持ちになったな、って思うんです。
  
だから、その話をまずしよう。その人と握手したいというか、俺は、直接そうじゃないかもしれないけど、こういうことであなたと同じような気持ちになった。で、この話なんだけど、もしかしてこうなんじゃないかな。もし、ぼくがあなたの立場だったらこう思う。違ったらごめんなさい、ぐらいまで入れるっていう感じですよね。
糸井
そうですね。何よりぼくはがいいと思うのは、燃え殻さんのそのいい意味での気の弱さがあるおかげで、その相談してきた人に嫌な思いしてほしくないっていうことなんですよ。
燃え殻
ああ、それ思います。
糸井
回答するっていうことを一番効率的に、一番真実に近いところで回答するんだったら、その人を1回傷つけてでも、これはこうしたほうがいいんじゃないかってことはあるわけで、それは、今までの人生相談の中でも、そういういい答えはいっぱいあるんですよね。ぼくもそれはよくやるんです。今は悲しいかもしれないけど絶対このほうがいいからっていうのは、ぼくは言うことはあるんです。だけど、燃え殻さんは、その人が嫌な目をしませんようにっていうのを前提にしながら、こういうおじさんがいたんだけどとか(笑)。
燃え殻
いや、もうそうです。悩み相談で、あれガチしてもらってるんですよ。だからもう、拙くてもそのまま載せてくださいにしてるんですよね。そうじゃないとつまらないんで、ぼくもやる気起きないんで。それってレスキューじゃないですか。自分が悩みがあって、さらにそれをネットにメールするって、熱量の落ちなさが半端ないというか、相当悩んでる、もしくは、自分としても答えが欲しいというか、それくらい真剣なんで、ということはそれぐらい傷ついたり、それぐらい悩んだんで、もういいじゃないかってぼくは半分思ってて。もうそこまで悩んだら、半分いいよ。それを投げ出さなかったという時点ですごいなあって。
糸井
だから、あれは人生相談に答えてるというよりは、その人と隣り合わせで慰めてるんですよね。
燃え殻
ああ、そうです。そう思ってました、ぼくは。
糸井
このところぼくがものすごく考えてる「慰め」っていうことの大事さ。ちょうど昨日、自分のツイッターで福島の‥‥
燃え殻
はい、読みました。
糸井
年取った方と、あの人、ぼく大好きで。ちゃんと年取った分だけ考えてるし、すごい初々しいかわいさがあるし、旦那さんが素晴らしいんだよね。
燃え殻
ああ、はいはいはい。
糸井
あの周りのことが全部、ぼく、大好きで。あの人としゃべってる自分は、すごく素直になってて、ちゃんとしたことが言えるんです。昨日も、「慰めっていうことのすごく大事さをまた新たに考えた」って書いたけど、燃え殻さんの人生相談の中にそれがあるんです。だから、「演歌を歌ってこの悲しみをごまかしてはいけない」っていうのが厳しい人の言うことかもしれないけど、でも、この境遇を演歌を歌って慰めて明日がもしかして笑って過ごせるかもしれないと思うことは、それこそブルースだとも言えるし、それを取っちゃって、ほかにどんな道があるのっていうのを責任持ってくれるのか。
燃え殻
そうなんですよ。
糸井
と思って。ぼくは自分のために詞を書くとか、自分のために歌を歌うだとか、私を歌ってるんだと思って涙するような、弱いところの自分と、それを抱きしめたい、撫でたいという、そっちがもっと大事になると思うんですよね。これぼくに案外なかったことなんで。そのくせ、自分が慰められたいから、わりと夜中にいろいろ音楽聞いてるけど、本当にハマるのって演歌だったりするからね。中島みゆきだったりするからね。それは、音楽を語る系譜の中で変な道に入ったかのように見えるんだけど、「慰め道」からしたら、当たり前のとこに来てんだなって。
燃え殻
ああ、そうだと思います。
糸井
だから、いっぱいいろんなことを難しいこと言った時代があったけど、例えば女の子がタレントさんのどこが好きってときに、「顔」と言うときあるじゃないですか。あれ、あそこまでぐるっと回るまでにはもすごい歴史がありましたよね。でも、「顔」って言えちゃって、それを言えるってとこまで来たわけで、そこから何考えるかってところに、慰めの重要さもわかってもらう時代が来るような気がする。
燃え殻
傷がかさぶたになって、それが取れて、きれいになりましたってすごく素晴らしいですけど、そんなことばっかじゃないから。
糸井
そうそうそう。
燃え殻
そのかさぶたでもいいし、血を止血しながらでも生きていかなきゃいけないじゃないですか。
糸井
そうそうそう。
燃え殻
そういうこと、まあ、悩みで言えば、「一旦保留にしようぜ」って言う人生相談ってなんでなかったんだろうって。
糸井
いや、あれがやってますよね。
燃え殻
ぼく、一旦保留にしたんですよ。で、一旦保留にして生きてこれたというのがたくさんあって、その手帳もそうかもしれないですけど、手帳を見ると解決してないことばっかなんですよ。それが全部解消して線が引けて、「はい、これだけ俺、成長した」と。これだけ自分は今まで成長してなかった自分よりも今の自分はすごい成長してるっていう優越感のもとに手帳なんか見てるわけじゃなくて、うわー、俺、これ昔のほうがちゃんと考えてるとか。
糸井
あるあるある。
燃え殻
でも、それを見られるのもすごくよくて、それぐらい保留にしたりとか、自分でも忘れられる、保留にしたことによって。それで一端置いといて、将来の自分が解決してくれたり、将来の自分をもう一回置いとこうかって思ったりしながら生きていくとぼくは思うんですよね。そういうほうが、リアルな気がして。
糸井
グシャグシャしたことでも、語ってるうちに泣いちゃって大声出したりする。テーマ忘れて泣き止むかどうかになりますよね(笑)。

燃え殻
わかります、わかります。
糸井
子どもでも、取りっこしてたとか引っ掻いたとかって話で、ウワーッて泣くと、ウッウッ、止まると終わるじゃないですか。あの、泣いてるだけって状態に対する手を差し伸べるのがなんか、「あんた、もう一生の仕事にしなさい、それを」って。本当、だから、あなた、モテるんですよ。わかるでしょう、だってこの人モテるの。
燃え殻
モテない、モテない(笑)。

糸井
女の人はものすごく頷く。それで、田中泰延とか怒るんです。あの人は全部解説できますから。慰めてる最中も、「それはギリシャ時代からずっと言われてるんだ」。
燃え殻
(笑)。しっかりしてるんです。
糸井
しっかりした知識を持てと。
燃え殻
そうそう。でも、それは男同士で、あいつ、すごいなって言えばいいんだけど、今泣いて「痛い」って言ってるときに、それ説明されても困るんだよね。
燃え殻
答え要らないときって多いと思うんですよ、ぼく、人生で。
糸井
ご飯食べるとかさ。
燃え殻
そう。お腹いっぱいになると、けっこう解決したりしません?
糸井
あと、歩く。
燃え殻
ああ、歩くもあるかもしれない。
糸井
歩くは強いでー。俺は自分は歩くで大体ごまかしてるね。
燃え殻
歩くとアイディア出ますしね。
糸井
アイディアも出るし、あと、これじゃないなっていうところに行きそうになってる問題が忘れられますね。ぼくはもうね、ここで万歩計売りたいですね。‥‥ああ、全然ウケないですね。古かったんですかね、万歩計は。
燃え殻
古いですね、古いですね(笑)。
糸井
歩くことは本当にいいんだ。
燃え殻
いいことも悪いことも全部、テレビ見てても芸能人が言ったこととかあるじゃないですか。そういうのも書いちゃう。それが何かにつながるとか、もうそんないやらしいことは考えないで書いてて、あとで見ると、「おまえ、何書いてるんだ」って思いますよ。思いますけど、ああって。
  
そのときは多分、それがいいなと思ってそれに対して直接的なことしか考えてないけど、それが第三者として、「あ、これってもしかして、仕事にとってうちのアシスタントに言えるな」みたいな、「全然関係ないけど言えるな」と思って、それが使えたりとか、そういう意味でも今自分が使えるとか、今自分が必要だからやる努力じゃなくて、これは何‥‥

糸井
何したかわかんないけど。
燃え殻
わからないけどって言ったものがどのくらいあるかっていうことで、多分相談は別にいいですけど、人と対したときに何か言葉が出てきたりすると思うんですね。
糸井
それね、今、ぼくらが読者会やってる『うらおもて人生緑』という色川武大さんの本の中に、「言い訳に使えるなと思った種はどんどん仕込んでいきなさい」って。さすがにいい博打打ちでしょう? だから、それでしのげるだけで、一番大事なヒヨヒヨとした粘膜の中側のところに傷が行かないんだよ。そういうのは技術なんだけど、子どもに教えてあげたい感じはします。
燃え殻
わかりますね。
糸井
じゃ、これで終わりにしますから、あなた、本当に最後の方です。
男性
ちょっとどうでもいい質問なんですけど、先ほど糸井さんが「作品」と「商品」っておっしゃいましたけど、糸井さんが作られた「MOTHER」の「1」と「2」って、自分から見ると「1」が作品、「2」が商品って感じがして、現に「MOTHER1」のほぼ日手帳なんですけど、そのへん何か。
燃え殻
へぇ、面白い。
糸井
まあ、違うんですけどね。
男性
やっぱり。
糸井
うん。どっちも同じですけど、自分がやりたくてしょうがないことを、人が何と言おうがやってるのは、どっちも同じなんです。ただ、「1」は、「これがやりたいんだよね」って作ったんだけど、まだ楽しませてる部分が少なかったなと思ったんで、「2」になったときに、もっと外側にいるお客さんとも会いたいなと思って、「2」にしたんですね。だから、「2」のほうが売れたのは、そこがちゃんと通じたんじゃないかな。 
 
そうした大もとにあるのは伊丹十三さんで、例えば伊丹十三さんが『マルサの女』って作って、『マルサの女2』を作ったときに、今までのお客さんが1だとすると、円が1だとすると、10の円を外に描いて、そこに届けるための方法をまた自分では身につけたいということをおっしゃってて。
  
それは、1のままであってほしい人は怒ったりすることがあるんだけど、でも、10に広げていくってことをしないとぼくらが作っていく動機はどんどん失われていくから、そうやりたいんだって話をしてくれたことがあって、ずーっとぼくはいつも何やるときも、ギュッと固まってお客さんがいるなと思ったときには、そのお客さんたちが怒るかもしれない外側の10の人に向けて、次のことをやり始めます。
  
だから、さっき、燃え殻さんが言った、自分のフォロワーみたいな人を集めて月謝取るみたいなことをしているのは、1をそこで循環させてるということで、それは毎日拍手の連続になるだけで終わっているんだよ、というようなことを考えて「1」と「2」の関係があります。ご理解いただけましたね?
男性
「1」が好きな人間なので、なおさら。
糸井
「1」はね、やっぱり最初にああいう形にしかできなかったってよさがあるんですね。
男性
ありがとうございます。
糸井
いや、今回はいっぱいしゃべってる無口じゃない燃え殻さんが味わえたと思います。どうもありがとうございました。

《ロフトのイベント終了後、ほぼ日のオフィスへ》
第3回つづく

第3回 書く理由って、必要ですか?