もくじ
第1回書いていて気持ちがいい 2017-10-17-Tue
第2回自分の居場所がないかんじ 2017-10-17-Tue
第3回自分語りをしたくなる 2017-10-17-Tue
第4回作品と商品のハムレット 2017-10-17-Tue
第5回ボクたちは大人に… 2017-10-17-Tue
第6回だから、あなた、モテるんですよ。 2017-10-17-Tue

93年、九州生まれの会社員。おいしいもの好きが高じて、大学では農業を専攻。農業の現場、微生物、スーパーや八百屋さん巡り、料理、器、、、おいしいものがめぐりめぐっている感じがすき。好きな作家は、吉本ばななさんと山田詠美さん。マイブームは、みょうがと酒盗。

ひと味違う燃え殻さん</br>feat.糸井重里

ひと味違う燃え殻さん
feat.糸井重里

担当・まるやま

ほぼ日では、毎年ほぼ日手帳の発売に合わせて、ロフトで糸井重里と誰かのトークイベントを開催しています。今年この人としゃべりたい、と糸井さんが選んだのが燃え殻さんでした。燃え殻さんが小説を出したばかりで、しかもなにかを「書く」というのが手帳と結びついた、というのはもちろんあると思います。でもそれ以上に、「なんだか今話したいな」と思ったというのが本当のところかもしれません。

いつもは、聞く側の喜ぶ一言でまとめてしまうという燃え殻さんも、糸井さんの前ではなんだか自由な感じ。「読んだら自分語りをしたくなる」と話題の小説をどんな気持ちで書いたのか。普段はどんなことを考えているのか。糸井さんのやわらかいリードで、燃え殻さんを紐解くような時間になりました。

全6回、担当は「ほぼ日の塾」まるやまです。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 書いていて気持ちがいい

糸井
やろう。
燃え殻
あ、やりましょう。
糸井
多分あいさつなんかは面倒くさいと思っている人だらけでしょ?

(会場 笑)

糸井
だからもう、急に始めます。
燃え殻
はい。
糸井
はい(笑)。
燃え殻さんのことご存知の人が集まっていると思うんですけど、今、忙しいけれど身体は大丈夫かなと思っていたんです。
燃え殻
あ、大丈夫。
あんまりね、昨日寝れなかったんですよ。
糸井
どうしたんですか。
燃え殻
昨日の午前3時くらいに仕事が終わって、その後糸井さんの顔がちらついて、寝れない。
糸井
それはぼくのことが好きで?
燃え殻
あ、好きで。

(会場 笑)

糸井
身体が大丈夫かってのは本当に聞いてるんだけど、結構ものすごい量の取材受けてるでしょ?
燃え殻
サラリーマンなのに、はい(笑)。
糸井
サラリーマンなのに(笑)。
燃え殻
はい、2ヶ月前に本が出て。そこから取材を、ありがたいことに何十と。

燃え殻さんは、2017年6月30日に小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」を出版されました。2016年2月~8月にWEB上で公開したものを加筆修正したもので、発売後すぐに増版を重ねるなど、大きな話題になっています。

糸井
はぁー。
燃え殻
前に糸井さんには相談させていただいたんですけれども。
糸井
はい。
燃え殻
新聞社とかからの質問に答えるのが心苦しいんですよ。
糸井
心苦しい(笑)。
燃え殻
答えてて、ウソをつかなきゃいけない自分が。
糸井
あ、てことは、燃え殻さんの記事なんかを新聞で見た人は、ウソを読んでいるわけですね(笑)。
燃え殻
「なんでこの本を書いたんですか」とか、質問されて。
糸井
うん。
燃え殻
でも、ぼく、今日糸井さんに聞きたかったんですけど。
糸井
はい。
燃え殻
小説とかって、何か訴えたいことがないと書いちゃいけないんですか。
糸井
(笑)
燃え殻
「すごく社会的に実は意味があることなんだ」みたいな。
糸井
そうではないんじゃないでしょうかね。横尾さんとかに聞いたらきっと「だからダメなんだよ。」って言いますよね。
燃え殻
横尾さんは、そうですね(笑)。
でも、答えなきゃいけないので、ぼくは。ちょうど90年代から2000年くらいのことを書いた本なので、その頃の空気を・・・
糸井
空気。
燃え殻
そう、空気みたいなものを1つの本に閉じ込めたかったんですというウソをですね、この1ヶ月くらいずっとついてて(笑)。

(会場 笑)

燃え殻
もう、スルスル、スルスル、ウソが口から流れるようになって。
糸井
インタビューする人のほしいところを的確につくウソですね。
燃え殻
もう、自分で話しながら「あ、なるほど」みたいな。
糸井
元々思っていたわけじゃないけど、それでもいいやっていうウソですよね。
燃え殻
たぶんそれがいいんだっていう。

糸井
うんうん。聞く側からすると「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。で、燃え殻さんの本を読んで取材者も読者も共通するのは、自分もその時代にって話をしたがることじゃないですか。
燃え殻
そうですね。
糸井
記者の人とかが、
「あ、その頃ぼくもそこにいたんですよ、レッドシューズ」みたいな。
燃え殻
ああ、そうそうそう!
同年代の記者とかに、「いやあ、読みましたよ」って。「燃え殻さんはこういうことを書いていてだいたい近いんで、ぼくの話聞いてもらっていいですか」って。

(会場 笑)

糸井
自分のことを語りたくなる。
燃え殻
で、その後「なんで書いたんですか」って言われるんですよ。
糸井
うんうん。
燃え殻
だからそれはさっきみたいに。
「いや、あなたとぼくがいた90年代を書いた小説というのはそれほど今までなかったので、あのバブルが終わって」
本当に何度も言ってるからスルスル出てきちゃうんですけど。
糸井
立て板に水だねえ。
燃え殻
「バブルが終わって、でも、世の中にはバブルが残っている。そのまだらな世界というのをぼくは1つの本に閉じ込めたかったんです(嘘)」みたいな。

(会場 笑)

燃え殻
でも本当のことを言うと、小説では2か所くらいしか書きたいことがなくて。
糸井
ああ。
燃え殻
それは、世の中に訴えたいことじゃないんです。ただ、書いてて楽しいみたいな。
糸井
自分が書いてて楽しいこと、うんうん。
燃え殻
ぼくの小説、読まれていない方がいっぱいいると思うんですけど。
糸井
じゃあ、読んでいない方のためにぼくが一言でまとめます。
燃え殻
あ、え(笑)?
糸井
つまり、90年代の空気を残したかったんです。

(会場 笑)

燃え殻さん失笑

燃え殻
あ、もう、一番嫌な感じじゃないですか(笑)。
糸井
(笑)
燃え殻
えっとまあ、それってのが、実際にあって
どうしても書きたくて書いた小説の一部分なんですけど

―あの朝の、うつらうつらとしながらもハッキリと感じる、
穏やかな温かさをボクは今でも鮮明に思い出す。
店のガラス戸に雨が打ちつけられて、激しい音を鳴らしていた。
いつものように会社からの連絡を待ちながら、ボクと関口は
焼酎のお湯割りを3杯あおり寝てしまったらしい。
激しい雨なのに陽の光がガラス戸から差し込んでいた。
やかんが気持ちいい音を鳴らし、ボクは薄っすらと目を開く。
座敷で横になっていたボクの身体に薄手の毛布がかかっている。
こぢんまりとした店内に味噌汁のにおいが香った。
カウンターには、いつの間にか関口が座っていた。
「いま、ほうじ茶煮出してるからね」七瀬がそう言って、
味噌汁にとうふを切って入れているのが見えた。
仕事が心配になったけど、もし急ぎがあったら責任感の強い関口は
ひとりでも飛んで戻っているはずなので、大丈夫なんだと悟った。
ボクはその人生の余白のような時間に浸って、
また眠りに落ちそうになりながら、薄目でふたりを眺める。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)
83〜84p より引用

燃え殻
昨日も今日も嫌なことがなくて、内臓とかも痛いところがない。そういう体感を元にした1日っていうのを書いているときは、気持ちがよかった。
糸井
あ、よいですね。

(つづきます)

第2回 自分の居場所がないかんじ