本当の「頷き」のうれしさ。燃え殻さん×糸井重里対談
第2回 書きたかったこと。
- 燃え殻
-
多分、この小説の中では2か所ぐらい
書きたいと思ったことがあって。

- 糸井
-
ほう。
- 燃え殻
-
それは書きたいことというか、
訴えたいことじゃないんです。
書いてて楽しいみたいな。
- 糸井
-
自分が嬉しいこと。
うんうん。
- 燃え殻
-
それが、2か所ぐらいあって‥‥
ここにいらっしゃる方で小説を読まれてない方が
いっぱいいると思うんですけど(笑)
- 糸井
-
読まれてる度を
ちょっとチェックしてからしゃべる?

- 燃え殻
-
ああ、そうですね。
- 糸井
-
えーと、この小説を‥‥
- 燃え殻
-
ちょっと怖いですね。
- 会場
-
‥‥
- 糸井
-
買った人‥‥

- 会場
-
(挙手)
- 糸井
-
買った人率高いです。
いいです、下ろしてください。
- 糸井
-
読んだ人‥‥
- 会場
-
‥‥(挙手)
- 糸井
-
あ、減ります(笑)
下ろしてください。
- 糸井
-
えーと、読んでも買ってもいない人‥‥
- 会場
-
‥‥‥‥(挙手)
- 糸井
-
あ、いいんですよ。
- 燃え殻
-
あ、いいんです、いいんです。
- 糸井
-
その人用にしゃべります‥‥
つまり、90年代の空気を残したかったんです(笑)

- 会場
-
(笑)

- 燃え殻
-
あ、もう、
なんか一番嫌な感じになってきた(笑)
書きたいことの話、
これは本当にあったことなんですけど、
ぼくはゴールデン街で朝寝てたんです。
- 糸井
-
ゴールデン街の外で
寝てたわけじゃないでしょう?
- 燃え殻
-
外で寝てたんじゃなくて、
ゴールデン街の狭い居酒屋。
まあ、居酒屋しかないんですけどね‥‥
ゴールデン街。

- 糸井
-
そうだね(笑)
- 燃え殻
-
ゴールデン街の居酒屋の畳の
半畳くらいのスペースのところで寝てたんですよ。
で、寝てたらぼくの同僚が、
えーと、ママ、パパ、ママみたいな人と‥‥
- 糸井
-
ママ的なパパ。
- 燃え殻
-
ママ的なパパと
朝ご飯を作ってるのを見てて。
で、ほうじ茶を煮出してて、
ご飯の匂いがするんですね。
で、外、網戸をパーッと開けて、
雨が降りつけてるんですよ。
でも、お天気雨みたいな感じで、
日が差してるんですよね‥‥
何時か、ちょっとよくわからないんだけど、
多分、まあ7時前かなぐらいの時間でした。
- 糸井
-
うんうん。
- 燃え殻
-
今日仕事に行かなきゃなって思いながら、
けっこう頭が痛いなって感じつつ、
2人の何でもない会話を聞きながら
ボーッとして、
なんかもう1度2度寝しそうだけど‥‥
でも、まだ寝落ちはしないそうな状態。
今日は嫌なスケジュールが入っていなくて、
昨日嫌なことがなくて、だから
「ああ、昨日嫌だったな」
みたいなことを思わなくて、
ありがたいことに、
内臓だったりなんか痛いところがない。
ていう1日を‥‥

- 糸井
-
あ、よいですね。
- 燃え殻
-
その1日っていうのを書いてるときは、
気持ちがよかったですね。
- 糸井
-
うん。
- 燃え殻
-
で、もう1つはラブホテルの‥‥
まあ、こういう場でラブホテルの話を
するのも何ですけど(笑)
- 会場
-
(笑)
- 燃え殻
-
真っ暗で、朝なのか夜なのかわからなくて、
まあ、なんかとにかく喉がカラカラで、
下着とポカリスエットなかったっけなって探す。
で、まあ、お風呂でも入れなきゃいけないって
お風呂のほうに行ったら、
下のタイルがすげえ冷たくて、
まあ、安いラブホテルなんで、
お風呂のお湯の温度が定まらないんですよ。
「熱っ!寒っ!」みたいな(笑)

- 会場
-
(笑)
- 燃え殻
-
そのときに、
「ああ、でも今日これからまた仕事なのか」
って思いながら、
「地球とか滅亡すればいいのにね」みたいなことを、
ああだこうだと
そこにいた女の子と言ってるんですね。
その女の子もまた適当で、全然働く気がなくて。
っていう朝の1日みたいな(笑)
それを、なんか書いてるときは楽しかった。
- 糸井
-
ああ。
- 燃え殻
-
それを新聞社さんに言うと、きっと
「ふざけんな」「知らねえよ」
みたいになると思うんですよね。
でも、それを書きたかったんですよね。